20 誰にも知られてはいけない第五の悪魔、星誕史上最も罪深きルシフェリア
紅炎の熱波が空気を焼く。
グリモアから現れた人型の炎。
女性と思われるシルエットのそれは、張り裂けんばかりの悲鳴を上げた後。
炎で彩られた手を、前に差し出した。
「…………ッ」
その先には、クロ・クロイツァー。
そして、どこの誰かも分からない骸。
「ルシフェリア! ああ……ダメだよ。
わたしでも陽が出てるうちは外に出るのは辛いのに、力の強いあなたが無理やり顕現しちゃったら……」
デオレッサが言うように、今はまだ夜ではない。
グリモアは夜にしか出現しないという法則が崩れている。
尋常じゃない事態。
今までこんなことは無かった。
エリクシアも夜にしか出てこないと言っていた。
こんなことが起こるはずがない。
そんな、想定すらしていない事態が起こっている。
「ああ……ッ、あああああ……ッ」
エリクシアが頭を抱えて苦しんでいる。
それをどうにか助けようと、シャルラッハとアヴリルが彼女に近づこうとしている。
「く……ッ、エリーッ!」
「ダメです……ッ、目の前に壁があるみたいに……前に行けませんッ」
「ぬぅ……グリモアのエーテルが分厚い壁となっておるのか」
魔力の行使では抜きん出た実力を持つエーデルも、どうにも出来ないらしい。
「…………」
クロは注意深く、炎の女性とデオレッサを見る。
グリモアから飛び出してきた炎の女性。
同じように飛び出してきたデオレッサが焦りながら、その炎の女性を止めている。
グリモアは、そもそもが夜限定にしか出現できないというワケではないようだ。
しかし、陽がある内には何らかの制限があると思われる。
その証拠に、グリモアに囚われた悪魔であるデオレッサはかなり辛そうな様子だ。息が荒く、いつものような無邪気な余裕が無い。
「…………」
デオレッサが言ったとおり、エリクシアは大丈夫だ。
エリクシアのことに限り、デオレッサは信用できる。
デオレッサはエリクシアという聖域を守るために動いている。
エリクシアと同じ悪魔。
その彼女が大丈夫だと言ったのだ。
「エリクシアが苦しんでいる原因は、この……」
目の前の紅炎の女性だ。
まず間違いなく、『悪魔』。
「…………」
チラリと武器を見る。
骸の墓を作っている途中だったので、今は手に持っていない。
エルドアールヴが扱ってきたふたつの巨大斧は、離れた場所の地面に突き立てている。
しかし、目に見える範囲の距離。
今の自分なら一瞬でそこまで移動するぐらいは可能だ。
もしこの悪魔が自分達を攻撃しようとしても、余裕で防ぎ切り迎撃することは出来る。
この炎の悪魔がシャルラッハの『雷光』ほどの速度を出すのだったらムリだが、さすがにアレは例外だ。仮にそうなったとしても、迎撃は出来ないが自分の身を盾にしてエリクシア達を守ることだけは出来るはずだ。
そう、クロが考えていると。
「……ァ……アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
激烈な咆吼とはまた違う、悲しげな悪魔の絶叫が迸る。
これは敵意だ。
圧倒的な敵対心。
凄まじいプレッシャーがトゲのように突き刺さる。
差し伸べていた炎の手が、爆炎のように火力を増していく。
その炎が、エリクシア達との間に壁を作る。
炎の壁でクロとデオレッサ側、そしてエリクシア達側とで分断された形だ。
「く……ッ」
尋常じゃない火力だった。
川辺の傍にある木々が焼けていく。
浅瀬の水が沸騰していく。
「エルドアールヴ! 無事か!?」
エーデルが炎の壁の向こう側から言ってきた。
「こっちは大丈夫! そっちは!?」
「無事じゃ! エリクシアには近づけんが、炎はわらわの魔法で何とかなる!」
エーデルは魔法の達人だ。
この炎もたしかに凄まじいが、放たれた魔法ではなく、ただの余波みたいなものである。
指向性の無い、ただの強力な炎。
それなら、エーデルならば対処できる。
向こう側は大丈夫だ。
エリクシアは彼女達に任せられる。
「……なら問題は、この悪魔か」
クロは目の前の脅威に集中する。
これを何とかしなければならない。
明らかな敵意を持った、普通じゃない相手だ。
「ア……アアアアアア……」
火力を増した炎の手から、圧倒的な攻撃の気配。
クロに向けて炎をかざす、攻撃の所作。
その炎の悪魔の前に、
「ダメだよルシフェリア、それだけは絶対にダメ」
デオレッサは立ちはだかったままだ。
まるでクロを庇うかのように、守るように。
「デオレッサ、そこを退くんだ!」
クロにはデオレッサの行動の意味が分からない。
なぜなら彼女は自分で自分が無力だということを知っている。
あの炎の悪魔はひと目で分かるほど強力だ。
『始原の魔法』を使う水竜と同レベルと言っていい。
デオレッサが前に出るなんて無謀だ。
見てみると、デオレッサの体は震えている。
そうなるのは当然のことで、炎の悪魔とデオレッサの力の差は明白だ。
何も出来ない草食動物の子供が、強力な肉食動物の大人に立ち向かっているようなものだ。
「炎に巻き込まれるぞ、早くこっちへ!」
「おにいちゃんはだまってて!」
心配したクロを、しかし一蹴するデオレッサ。
「わたし、こういうことなんだ……わたしが悪魔になった意味、やっとわかった」
デオレッサが炎の悪魔の前で、震えながらもしっかりとその足で立っている。
後ろ姿で、彼女の顔はクロからは見えない。
しかし、クロは分かった。
これは何かを決意した者の、気迫だ。
「わたしがグリモアの外に出られるのも、わたしが無力なのも……きっと、意味があるんだよ」
「デオレッサ……」
それはおそらく、彼女自身が抱えていた悩みだったのだろう。
『剣豪』レオナルド・オルグレンとの闘いの際、「死後に何かを成す」という言葉に反応していたデオレッサ。
生前に悪魔となり、何をすることも出来ず実の父に殺されて、その幼い命を散らした。
そして500年。
ただの無力な悪魔として、グリモアに囚われていたデオレッサ。
今でこそ『始原の神雷』を使う水竜と共に第四悪魔として存在しているが、デオレッサ自身は無力のままだ。
その無力さが故に、グリモアからも目こぼしされている。
だからこそデオレッサは自分の出来る何かを、自分でも気づかないままに求めていた。
何も出来ない辛さ。
気持ちは分かる、とクロは思った。
これまで誰よりも無力感を覚えていたのは、他でも無いクロ自身だったからだ。
だからこそ、エルドアールヴとなるまで強くなった。
万死を乗り越えて、死力を振り絞り、ただひたすらに強くなった。
デオレッサの苦悩を、その足掻きを、無力が故の焦燥感を。
クロだけは理解出来る。
「わたしは何も出来ない。でもわたしは……わたしだけは、みんなのことを知ってる。これはきっと、わたししか出来ないこと」
そしてデオレッサは「だから」と付け加えて、言った。
「おにいちゃん、『その人』から離れて。ルシフェリアの目的は『その人』だから」
クロ達が弔おうとしていたその骸こそが、炎の悪魔の目的なのだというデオレッサ。
それはどういうことなのか聞く時間は無い。
このままでは、まず一番にデオレッサが危ない。
「今のルシフェリアに言葉は通じないみたい。夜じゃない上に、自分から無理やり顕現しちゃったから、魂の崩壊が始まってるの。その苦痛に、自我が崩壊しかけてる。もう何も見えてないし、自分が何をしてるのか分からなくなっちゃってる。このままじゃルシフェリアの『始原の魔法』が暴走しちゃう」
「始原の……」
それは、マズい。
『始原の魔法』は魔法の中で最強の威力を誇る。
すなわち魔法の最高峰。
始原の時代に起こった自然界崩壊レベルの極大破壊。
あの水竜ヴォルトガノフの『神雷』の威力と同等の魔法。
それが暴走するとなったら――世界が滅ぶ。
「…………ッ」
クロは言われたとおり、そっと骸を地面に横たえさせる。
しかし、
「ァ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
甲高い絶叫を上げながら、炎の悪魔が動き出す。
真っ直ぐにクロと骸の元へ、間にいるデオレッサなど見向きもせず、爆発染みた勢いで突っ込んで来る。
その姿は燃え盛る火柱のごとく、通り過ぎる何もかもを消し炭にしかねない勢いだ。
「デオレッサッ!」
クロはまず、デオレッサの身を優先した。
一足飛びでデオレッサの元まで行って、彼女の体を抱える。
その場をすぐに移動しようとするが、しかし、もう目前にまで炎の悪魔が迫っていた。
炎の腕を振り下ろすような攻撃を仕掛けてきている。
「――――」
しかし、エルドアールヴだ。
その攻撃はクロにとっては遅く、デオレッサを抱えたままでも体術だけで余裕で回避出来る。
「……え」
しかし、想定していなかった背後からの助けによって、クロの動きが止まった。
カタカタと音を鳴らしながら、骸骨となっている骸が動いたのだ。
炎の悪魔の腕を骨の手で掴み、止めていた。
「やぁ……君が、ルシフェリアなんだね」
骸が、喋った。
男の声だった。
骨となっているため、声帯も肺も無いはずだ。
しかし、残留思念によるエーテルによって声を出しているのだ。
「ア……アアアア……」
そして、炎の悪魔の行動が完全に止まった。
同じように、燃え盛っていた紅の炎が勢いを下げていく。
そして、
「……お互い、変わり果てた姿になったね……」
カタカタカタと骨を鳴らし、骸が炎の悪魔を抱きしめた。
「ァ……ァァ……」
炎の悪魔も抱きしめ返す。
まるでそれは、離れ離れになっていた恋人同士のように。
優しく、愛しげな抱擁だった。
「……よかった。やっぱりその人が、そうなんだね。ルシフェリアの……」
腕の中のデオレッサが小さな声で呟いた。
彼女は自分だけは『みんな』のことを知っていると言っていた。
その『みんな』とは『歴代の悪魔』のことだろう。
つまりは、この炎の悪魔の事情も理解している。
ここで死んでいた、名前も知らない骸。そして炎の悪魔。
デオレッサは、このふたりの知られざる関係も知っているのだ。
「盲目のお嬢さん……君が彼女の名を呼んでくれたから、目覚めることが出来た。ありがとう、やっと……ふたりと再会出来た」
「ァ……アアアアアァ……」
ああ、と察せられるほど、炎の悪魔は泣いていた。
泣き崩れたと言っていい。
もう二度と離さないと言うかのように、ギュッと骸を抱きしめる。
同じように、骸も炎の悪魔を抱きしめ返す。
「君達を……守れなくて、ごめん……ルシフェリア……」
「……ク……ォード……」
その炎により、骸の骨ごと服や遺品が焼き尽くされていく。
それでも、ふたりが離れることは無かった。
「…………」
クロは口を挟むことは出来なかった。
ただじっと、その様子を見守っていた。
やがて、骸の姿が灰になり、その残留思念は炎の中に溶けていった。
「……クロ」
炎の壁はもう無くなっていた。
エリクシアも平常に戻っているが、相当に疲労の色が濃い。
シャルラッハに肩を貸してもらって歩いている。
エーデルもアヴリルも、今の状況に困惑しているようだ。
炎の悪魔は大人しくなり、ただ喪に服しているような様相だ。
猛烈に荒れ狂い、そして静まっていく。
まるで炎そのもののような出来事だった。
「もう……いいよね。戻ろう、ルシフェリア」
デオレッサが炎の悪魔に言った。
すると、ルシフェリアと呼ばれた炎の悪魔は静かにその形を崩し、霧のような姿に変わり、エリクシアの背後に浮いているグリモアの中に消えていった。
陽はもう落ちていた。
夜の暗闇が広まっていく。
完全な静寂が訪れる。
遠くで、獣の声が聞こえた。
◇ ◇ ◇
森の中の浅瀬は静謐な空間になっていた。
周囲の木々は焼け焦げて、来たばかりの頃とは景色が変わっている。
炎は完全に無くなり、夜の森の冷気が強くなっている。
クロ達は焚き火で暖を取りながら、各々が座っていた。
「デオレッサ」
クロが言った。
デオレッサは包帯を巻いた目でクロを見る。
「今の悪魔は……誰だ」
「…………」
デオレッサは答えない。
パチパチッ……と火種の木が弾けた。
「……言い方を変えるよ」
「…………」
「俺は初代悪魔から、第二悪魔、第三悪魔、そして君達……第四悪魔を知っている。でも、炎を使う悪魔は知らない」
エリクシア達も、クロの言葉を静かに聞いている。
「――今の炎の悪魔は、『第五の悪魔』だな?」
あり得ないことを、クロは言った。
「…………」
デオレッサは答えない。
代わりに、アヴリルが口を開いた。
「どういうことですか? 悪魔は……だって500年ごとに出現するって話だったと思うのですが」
アヴリルの疑問はもっともだった。
初代悪魔が2000年前。
第二悪魔が1500年前。
第三悪魔が1000年前。
そして、今目の前にいるデオレッサ達第四悪魔が500年前。
なら、当代悪魔であるエリクシアこそが第五悪魔でないとおかしいのだ。
「グリモアのルールの例外……かしら」
シャルラッハが言った。
「デオレッサが既にルールの適応外にいる事実がある。なら……そういうことも、あるんでしょう。元々が人の想像を超える『悪魔の写本』、これ以上ルールを無視するのは混乱するから止めてほしいものですが……」
言われてクロが苦笑する。
たしかに、と。
「16年ほど前に、一時期、悪魔出現の噂を聞いたことがあるんだ。小さな噂だったから、そこまで浸透しているわけじゃないんだけど……」
「16年前? わたし……じゃないですよね」
エリクシアが言って、シャルラッハが続ける。
「ただの噂じゃないの? 悪魔の噂なんて、事実でもそうでないものでも、庶民の間では色々と出てくるでしょうに」
クロは頷いて、更に続けた。
「実は、悪魔が出現する時には、この世界に変化が現れるんだ。エリクシアの時は、みんなも覚えているかもしれない」
「変化……ですの?」
「そう、それが『凪の夜』だ。悪魔が出現した瞬間……つまりグリモアがこの世に現れた時、全ての風が止み、動物も植物も静まり返る。多分、本能的に理解しているんだ。あり得ないものがこの世に現れたってね。人も、どこかそれを感じている。そうして、静けさが夜を支配する」
クロがこれを初めて感じたのは、5歳の時。
今でも覚えている。
まだ山奥の教会で過ごしていた幼い日。
マリアベールに英雄の本を読んでもらった時の夜だ。
あの日は特別に静かな夜だった。
風が吹いていない。
虫の声すら届かない。
吼える獣の声も、遠くに潜む魔物の唸り声も聞こえない。
本当に、不気味すぎるほど静謐な夜だった。
それがあまりにも恐くて、マリアベールに本を読んでとせがんだのを覚えている。
英雄エルドアールヴの本を。
いずれいつかの英雄譚を。
あの日のことは、本当によく覚えている。
あの日、エリクシアは悪魔になったのだ。
「……覚えていますわ。わたくしは当時3歳でした。10年前ですわね?」
「ああ……ありましたね。私も覚えていますよ。妙に興奮するのに、何か分からないけど怖くて動けなかったことを覚えてます」
シャルラッハとアヴリルがそれぞれ言った。
凪の夜は特別だ。
どうしようもなく記憶に残る。
だからクロは覚えている。
2000年前、クロが王国アトラリアに飛ばされた時。この日は初代悪魔がグリモアをこの世に召喚した夜だった。
そして第二悪魔から第四悪魔まで。
すべての悪魔がこの『凪の夜』を通して現れるのだ。
「16年前も、『凪の夜』が起こったんだ。
あの感覚を俺が間違えるはずがない」
「つまり、さっきの炎の悪魔が、その時の『第五悪魔』だというのがお主の意見じゃな?」
エーデルが言った。
クロが頷く。
「それで、どうなんだデオレッサ。それも言えないか?」
「…………」
しばらく無言が続いたデオレッサだったが、「ふう……」とひとつため息をついて、しぶしぶ言った。
「合ってるよ、ルシフェリアは『第五悪魔』だよ」
デオレッサは包帯を巻いた眼で、全員を眺めた。
「……ルシフェリアはね、誰にも知られちゃいけないの。
わたし達悪魔はグリモアに、それぞれ名前で縛られちゃうの。エリクシアが最初に縁を繋いだ第三悪魔は『氷姫』で、わたしはちょっと特別で、おかあさんと一緒になった時に完全な悪魔になったから、『竜姫』って名前で縛られたの」
続けてデオレッサが言う。
「ルシフェリアは『罪人』。あの人は、この星が生まれて以来、一番やっちゃいけない罪を犯しちゃった人なんだって。わたしはぜんぜん納得出来ないケド……」
「罪人……ずいぶん物騒な言葉だな」
この星が生まれた中で、最も罪深い罪人。
それは一体、どんな罪を犯せばそうなるのか。
「そう、だから誰にも知られちゃいけないの。だからわたしはそれ以上、ルシフェリアのことは話さない。あの人の名誉のためにも、そして……」
デオレッサが「あっ」とした顔で、言葉を止めた。
「……そして、何だ?」
「……なんでもない」
デオレッサはそう言って、
「もう戻るね。わたし、疲れちゃった! ばいばい!」
グリモアの中に飛び込んで行った。
そして、デオレッサの姿は綺麗に消えてしまった。
「…………」
焚き火がいつの間にか消えそうになっていた。
火種に風を吹き込み、木をくべる。
「……まいったな。詳しいことは何も分からなかった」
ポリポリと頭をかいた。
お手上げだ。
「ちょっといいですか」
アヴリルが片手をあげた。
クロは頷く。
「なぜ、第五悪魔は特別なんでしょう? デオレッサは何となく分かるんですよ。無力だからこそ、グリモアから抜け出せる。無力っていうのは、ある意味でそれは特別です。特別っていう理由があるから、デオレッサは逆に理解できるんです」
クロ達が頷いた。
それを見て、アヴリルが続けた。
「でもさっきの第五悪魔は明らかに違いますよね。悪魔は500年ごとに出現する。それを覆すぐらいの何かが無いと、やっぱり理屈に合いませんよね?」
そこで、シャルラッハが言った。
「いいえ、そっちじゃないわアヴリル」
「へ?」
シャルラッハがエリクシアを見た。
「この場合、ルールを破っているのは、エリーの方なのよ」
「え? え?」
アヴリルが混乱した。
しかしシャルラッハは続けた。
「だってそうでしょう。エリーはその『第五悪魔』のルシフェリアより後なのよ。言うならば『第六悪魔』がエリーということじゃないの?」
「はい。そう……なります」
エリクシアが頷いた。
シャルラッハも同じく頷いて、言った。
「細かい誤差は知りませんけれど、『第五悪魔』ルシフェリアは、デオレッサが現れてから、ちゃんと500年経ってからなのよ」
「あっ」
そこでようやくアヴリルが気づいた。
おかしいのは『第五悪魔』ルシフェリアではなく。
「『第五悪魔』が16年前。そして、わたしが悪魔になったのが10年前……」
「そう、たった6年しか経っていないのに悪魔になった特例が、エリーなのよ」
バチン、と焚き火が弾けた。
炎が揺らめき、みんなの表情を揺らす。
「……わたしは、いったい……」
エリクシアが、小さい声で、呟いた。
「何者なんでしょうか……」
その疑問は誰にも答えられず。
夜の闇に溶けていった。




