016~武器探しと……~
「エルピス、お待たせ」
ギルドで抹茶味の飴を舐めて待っていたところ、後ろからアリスの声が聞こえてきた。
「おはようアリス」
振り向きつつ小さくなっていた飴を飲み込み、アリスへと答える。
今日のアリスは昨日とは違い、戦闘を考慮していないようすの普段着。白色のワンピースに麦わら帽子という何とも夏らしい服装ね。まあ、今は春前だけど。
「おはよう。それじゃあ、どこから行く?」
「まずは掘り出し物を探しに装備通りへ行きましょうか。そこで何もなければスターチスクラスタの店に行きましょう」
各種武器、防具、装飾品などの装備を作ることを主目的としたクラスタの店が固まっている一帯、通称装備通り。掘り出し物、というよりかは低ランクで装備を探すならまずはこの場所から。高ランクになれば専属契約を結んでいる相手がいることが多いので、店先で装備を探すことは少ないみたい。
一部例外としてスターチスクラスタの店だけはその通りに存在していない。スターチスクラスタの装備は高品質でハズレがないことで有名だけど、必ず適正価格で売っているので掘り出し物とされる装備は売っていないことでも有名。低ランクの私達が装備を探すのならば最後に回すべきね。
「そうだね。そういえば、エルピスは専属契約の相手はいないの?」
「先が見えない私と専属契約を結びたい相手はいないと思うわ」
装備通りのもう1つの目的。装備を作り始めて専属契約をしている相手がいない職人の装備を店先に安く出すことで、まだ専属契約を結んでいない相手を見つけて専属契約を結ぶ機会を儲けること。これはギルドが推奨している方法であり、実際に成果が出ているみたい。
ただスターチスクラスタに関しては特殊みたいで、作成した武器を自らが使用してダンジョンへ潜っているために専属の相手は必ずしも必要ないと噂されているわね。
「自分から売り込むことも大切なのにね。ごめんね、それじゃあ行こう」
「そうね」
自分から売り込むことも大切、ね。もしかしたら、私と専属契約を結んでくれる相手もいるのかしら。でも、それは少なくともランク2に上がってからね。
目の前にある長剣を手に取り、鞘から取り出してみる。
商品説明には2・1金属使用と記載があり、価格は8万C。スターチスクラスタでの価格が約10万Cだから、やや安いのだけど……少しできが良くない気がするわね。これならプラス2万C出してもスターチスクラスタで購入したほうがいいと思うから、やめておきましょう。
長剣を鞘に戻し、元の場所に置いてから次の長剣を探そうと店内に見渡したところで、テーブルに並んでいる短剣を眺めるアリスが見えた。
私が昨日もらった予備の短剣の代わりを探しているかと思い、つい腰にあるアリスからもらった短剣に手を触れる。
アリスが安物といったこの短剣。できの悪い魔力装備ですら30万C程度はするのだから、ダッキさんも良い物と判断したこの短剣が安物であるはずがない。少なくともランク1、それどころかランク2であっても高価な武器に該当するはずよ。
……いえ、私は自分の武器を探しましょう。私がどう考えようと、あれはアリスがした判断。アリスは私にこの短剣を渡すだけ理由があったはず。そして使わないのは貰った私の判断であり、それに関してアリスは『エルピスがそう判断したのなら、そうするべき』と言ってくれたのだから。
視線をアリスから外し、再び店内を見渡して良い長剣を探し始める。
掘り出し物が見つからぬままお昼となり、いったん近くのカフェで昼食を食べることになった。
テーブルの向かい側で美味しそうにゼリーを食べるアリスを見ながら、目の前に置かれているスパゲティーをフォークで絡めとる。
「アリス、ゼリーだけでいいの?」
だけとは言ったが、その数は5個。量的には十分かもしれない。
「期間限定のゼリーが5種類あったから仕方ないの」
……ティアさんに伝えておこう。
それはいいとして、食べたあとはどうしようかしら。このまま掘り出し物を探してもいいのだけど、掘り出し物は諦めてスターチスクラスタの店に行くのも悪くないのかもね。
「アリス、午後からはどこか行きたい場所はあるかしら?」
「私は既に目的を終えたから、エルピスの好きな場所に行こう?」
アリスはまだ武器を買っていないと思うのだけど、もしかして私の見ていない時に買っていたのかしら。それならスターチスクラスタの店に行って、私も武器を選び終えましょう。
「それならスターチスクラスタの店に行きましょうか。掘り出し物はなさそうだから、あそこで選ぼうと思うの」
「うん」
食べたあとの予定が決まったところで、美味しそうにゼリーを食べるアリスを眺めながら自分も食事を進める。
食事を終え、スターチスクラスタの店に到着した。
「あ、リア姉だ」
店内に並ぶ数多くの武器が迎えてくれる中アリスの視線を辿ると、そこではパーカーとハーフパンツ姿のリアが短剣を眺めていた。
アリスの声に気づいたのか、短剣からこちらに視線を移したリア。そして、アリスがリアに向かって移動を始めたので私も続く。
「2人ともこんにちは。ここには武器を買いに来たのかしら?」
「エルピスの武器。リア姉は私と同じ?」
そう、私の武器。ここに来た以上、掘り出し物は期待していない。その代わり約束された品質と価格から自分に合っているものを探すつもりでいる。
「アリス、あなたもなのね。そうなると……時間があるのなら勝負しましょうか」
「う~ん……エルピス、武器を選ぶのに時間はかかる?」
何の勝負かしら。まあ、私が時間をかけて選べばアリスが勝負を受けられるのなら、時間をかけて選びましょう。もとより装備を適当に選ぶつもりはないけどね。
「少し時間がかかるわね」
「ありがとう、エルピス。私も時間がかかるから、選び終わったら奥に来てほしいな」
「ええ、選び終わったら奥へ向かうわね。何の勝負か分からないけど、頑張ってね」
「うん。それじゃあリア姉、勝負しよう。先に奥に行ってるね」
そう言い残し、奥へ向かって駆けて行ったアリス。その姿は少しだけワクワクしているようにも見える。
しかし、勝負を持ちかけたリアはアリスが移動したというのにこの場に留まっている。
もしかして、私に何か用事かしら。
「エルピス、あなたはアリスとパーティを組んだのね。それは一時的なものかしら?」
アリスが伝えたのだとは思うけど、正確に伝わっていないのかしら。
「ええ、一時的なパーティよ」
「そう。色々と大変だと思うけど、頑張りなさいね。ところで少し時間をもらってもいいかしら?」
「私は構わないけど、アリスが待っていると思うわよ?」
「アリスはきっと先に始めているから問題ないわ。不利になるのは私だけだから、安心なさい。それじゃあ着いてきてもらえるかしら?」
アリスが先に始めていて、不利になるのはリアだけ……何の勝負なのかしら。まあリアが納得しているのなら問題ないわね。
「ええ」
歩き出したリアのあとを追って移動を開始する。
いったいどんな用事なのかしら。大切な妹についた悪い虫を、ではないと思いたいわね。