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013~壊れた魔法スロット~

本日5話目です。

読み飛ばしにご注意ください。

 店のすぐ裏に存在していたこの建物がアリスの泊まっている宿だとは思わなかった。いえ、受付がなかったから宿屋ではないのかしら。

 

「アリスはこの部屋よ」

 

「案内ありがとうございます。アリスはティアさんの家に住んでいたのですね」

 

「ふふ。知っている人は少ないですけど、一応ここは宿屋ですよ」

 

「それは失礼しました。受付がなかったもので勘違いしていました」

 

「使用者は少ないですからね。それでは私は戻りますね。用事が終わりましたら、アリスにデザートを用意してあると伝えてください」

 

「分かりました」

 

 見た目は良い宿に見えるのだけど、ダンジョンや街中からかなり離れたこの場所だから宿屋として利用する人は少ないのかしら。

 ティアさんを見送り、目の前のドアをノックする。

 

「どうぞ」

 

「失礼するわね」

 

 ドアを開けて中に入ると、アリスは椅子から立ち上がって迎えてくれた。

 テーブルと2つの椅子にベット。あとは戸棚がある程度で、街中の宿と比較しても普通と思える室内。気になる場所があるとすればベット上に存在している大きめのぬいぐるみ2つ。あれは……イカとクラゲかしら。

 

「いらっしゃい。早速だけど魔法の書き込みと使用をお願いしてもいい?」

 

「構わないわ。場所はどこがいいかしら?」

 

「椅子でもベットでも好きな場所でいいよ。最も集中できる場所でお願い」

 

「それじゃあ椅子で行うわね」

 

 アリスから遠い方の椅子に移動して座る。

 あら、これは座り心地が良い椅子ね。

 

「書き込む魔法と使用する魔法に指定はあるかしら?」

 

「初級魔法なら何でも」

 

 初級魔法で室内で使用しても問題ない魔法となると……素早さを強化する生命属性支援系統加速魔法のアクセルでいいかしら。

 

「それじゃあ両方ともアクセルで行うわね」

 

「うん。それと観察中は手であなたに触れ続けるけど、構わない? 問題があるようなら別の方法を検討する」

 

「いいえ、問題ないわ」

 

 衝撃が来るならまだしも、手で触れられている程度では私の集中は乱れない。変な触り方をされなければ、だけどね。

 

「それじゃあ、お願い」

 

 アリスが手に触れたのを確認してから椅子に座ったまま目を瞑り、魔法スロットへ意識を集中する。

 体の内部ではなく、もっと深くにある魔法スロット。どこにあるのかと問われても分からないけど、確かに感じるその場所へと。

 

「ワールドコール、ライトマジックデータ、『アクセル』」

 

 意識を集中し終えたところで魔法スロットへ書き込む情報を世界へと求めると、すぐ頭の中に書き込むイメージが浮かんできた。

 書き込む情報は個々に違うので人に教えることはできず、世界に求めるしか方法はない。仮に同じであったとしてもイメージ的なものなので、伝えることは難しいと思うけどね。

 落ち着いて浮かんできたイメージ通りに魔法スロットへと書き込みを開始……できない。

 やはり、以前と変わらずこの箇所から先に進めない。子供の頃から幾度となく行い、成功しているはずなのに……書き込み以前に3つすべての魔法スロットへ干渉すらできない。

 

「……ごめんなさい、ここまでしかできないの」

 

「ううん、ありがとう。次に書き込んであるはずの魔法を使用してもらえる?」

 

「ええ」

 

 最後の書き込んだ中で部屋の中で使用できるものは……生命属性回復系統治癒魔法のヒールがいいわね。

 

「それじゃあ、私を対象として治癒魔法のヒールを使用するわね」

 

「ヒールなら私を対象としてほしい。その方が都合がいい」

 

「分かったわ。ヒール」

 

 まずはキーワードを唱え、魔法スロットを使用可能状態へと移行させる。

 魔力を流し込んでからキーワードを唱えても、キーワードを唱えてから魔力を流し込んでも魔法は発動するのだけど、途中で集中を途切れさせたくない今はキーワードを事前に唱えておくべきよね。

 そして再び意識を魔法スロットへと集中し、深く集中できたところで魔法スロットへと魔力を流し込んで魔法を発動……できない。

 やはり魔力であっても、魔法スロットへ干渉することができない。普通は魔法スロットの中へ注がれるはずの魔力が一滴すら注がれず、すべて外に零れ落ちるのを感じる。感じられてしまう。

 魔法スロットへ干渉できず、魔力は一滴すら注げない。それでも魔力は操作できるし、魔力武器に魔力を流すことは問題なくできる。

 そう、どう考えても魔力スロットが壊れているとしか考えられないのよ。

 

「……ごめんなさい、やっぱりできないみたい」

 

「エルピス、辛いよね」

 

 その声とともに身体が暖かい何かに包まれるのを感じた。

 私が、辛い……アリスはなぜそう思ったのかしら。

 

「それでも私は再びお願いする。明日も明後日も、判明するまで観察させてほしい。今の私では足り得なかったから、必ず足り得てみせるから、観察させてほしい」

 

 頬を熱い何かが伝っていくのを感じる。

 ……そう、私は辛いのね。悲しいのね。悔しいのね。

 

「アリス。私はまた……魔法が使えるようになるかしら」

 

 なぜ、聞いてしまったのかしら。

 

「あなたが諦めぬ限り、いつか必ず」

 

 まったく迷いがないその声と、優しい抱擁に心が落ち着くのを感じる。それと同時に湧き上がる何かを感じる。

 だからこそ、私には分からない。

 あなたは諦めるなと言っているの?

 それとも、諦めても構わないと言っているの?

 

「ありがとう、アリス」

 

 でも、そのどちらであっても私が進む先は決まっている。

 

「あなたが満足するまで観察していいよ。でも、どうしても辛くなったらまた抱きしめてほしいな」

 

 こんなことを頼むなんて、今日の私はいつもと違うみたいね。頬を伝わる熱の道が止まらないのも、そのおかげかしら。

 

「うん、ありがとう。どうしても辛い時はいつでも抱きしめてあげるから、部屋に来てね」

 

「ごめんなさい。あと少しだけでいいから、このまま抱きしめていてほしいな」

 

「10分までなら」

 

 アリス、そこは『いつまででもいいよ』と言ってくれる場面だと思う。

 でも、ありがとう。

 

 

 

 10分間たっぷりと抱きしめてもらい、抱擁の時間はお終い。あんなに泣いたのはいつ以来かしら。

 そうそう、ティアさんからの伝言をアリスに伝えないとね。

 

「そうだアリス、ティアさんがデザートが用意してあると言っていたわ」

 

「ティアのデザート! エルピスはこのあと、どうするの?」

 

 アリスの嬉しそうな声から美味しいデザートであることが予想できる。店のメニューには存在していないので、きっと親しい相手だけに出す特別メニューかな。

 

「あなたをティアさんの店まで送った後で自分の宿に戻ろうと思う」

 

「そうなんだ。でも、ごめんなさい。これから20分は戻れない。今日はつかれていると思うし、ここで解散にしよう?」

 

 私としては帰っても眠るだけなので待っていても構わないのだけど、アリスがこれから行うのはダンジョンで行っていた魔法の書き込みかな。それなら待っていて焦らせてもいけないし、今日は帰るべきね。

 

「分かったわ」

 

「ありがとう。それなら今、明日の予定を聞いておくね。私はきっとダンジョンには潜れないと思うから、街で武器を探そうと思う。エルピスはダンジョンへ潜る?」

 

「いえ、私も武器を探そうと思っているわ。早くに見つかればダンジョンへ潜るかもしれないけどね」

 

 さすがにメイン武器が無い今の状態でダンジョンへ潜ろうとは思わない。明日は良い武器が見つかるといいな。

 

「それなら一緒に探さない?」

 

 そうね、一時的にとはいえパーティを組んでいるのだから武器探しの時も一緒に行動したほうがいいのかしら。

 それに、よく考えてみたら大雑把にでも明日以降の予定を決めておくべきよね。せっかくアリスが誘ってくれているのだし明日は一緒に武器を探すことにして、その時に予定も決めようかしら。今日はこれ以上の時間を取らせるわけにもいかないからね。

 

「ええ、一緒に探しましょう。場所と時間はどうする?」

 

「朝10時にギルドでどうかな?」

 

 私がこの宿に来てもいいのだけど、アリスの移動距離は変わらないわね。

 

「問題ないわ。それじゃあ明日、その時間にギルドで待っているわね」

 

「うん、また明日」

 

「ええ、また明日」

 

 手を振るアリスに背を向け、部屋の外へ出る。

 誰かと買い物をするのも久しぶりだから、少し楽しみかしら。

本日の投稿はこれで終了となります。

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