011~ギルド2~
本日3話目です。
読み飛ばしにご注意ください。
アリスとダッキさんの様子を見ながら飴を舐めていたところ、突然ダッキさんが机に手を押し付けて立ち上がった。あれは特に驚いた時の動作だと思うから、何かあったのかしら。
もしかして、アリスに<<スキル>>が発現していたとか……いえ、さすがのアリスでもそれはないかな。
ステータスが増加したり、翼や魔法無しでも空を飛べるようになったりと、様々な効力を得られるスキル。それを得る方法は2つ確認されている。
1つは<<ランクアップ>>時に例外を除いて発現が確認されているもので、通称<<ギフト>>。
もう1つは突然発現するもので、一般的にはこちらをスキルと呼ぶ。それは強敵を倒したあとだったり、農作業をしていたら発現していたりと条件は分からず、<<ギフト>>では確認されていない効力も存在する。そして<<ギフト>>に存在しているスキルと同じ効力だったとしても、大抵は<<ギフト>>のものより効力が強力みたい。
前者は<<ランクアップ>>で得られる、いわば頑張ったご褒美なのでダンジョンを攻略しつつ魔物を倒していけば誰でも入手できるけど、後者に関してはランク5でも発現しない人がほとんどみたい。ただ、ランク6に到達している人は全員が発現しているという噂から、ランク6の条件にスキルの発現が関係しているとする考えもある。
そしてアリスはランク1なので、ステータスにスキルが存在していればとうぜん後者のスキルになるのだけど……現在、堕神以前からスキルを所持していた人以外はランク3以降でしかスキルの発現は確認されていないらしいから、スキルの発現よりは<<ランクアップ>>の可能性が高いのかな。
ただ、<<ランクアップ>>の条件で確認されているものは多くの魔物を倒すことみたいだから、ダンジョンに潜り始めて2週間のアリスでは難しいと思うの。
そうなると……一体どうしたのかしら。
そんなことを考えているとアリスが手招きで私を呼んでいるのが見えたので、もしかして私に関係あることなのかと考えつつもアリスとダッキさんの元へ移動する。
「アリス、どうしたの?」
「希少種の報告。私はめんど……説明が下手だから、エルピスも手伝ってほしい」
面倒くさいのね。
それにしても、ダッキさんが驚いていた内容は希少種に関してだったのかな。ギルドで働いているダッキさんならば希少種は珍しくても驚くほどではないと思うのだけど……まあ、今はおいておきましょう。
「分かった。でも、私は戦闘に夢中であまり観察できていないわよ?」
「特徴は問題ない。必要なのは能力と戦ってみた感想。私のステータスでは説明が難しい」
「擬音での説明よりはマシです。『ひゅ』と避けて『さっ』と攻撃してた、で分かるわけありませんよ!」
……実はダッキさんには面倒な人が割り当てられているんじゃないのかな、私も含めて。
「ありがとうございました。危うく希少種の情報が闇に消えるところでしたので、助かりました」
「いえいえ」
私も説明は得意ではないのだけど、数分をかけてダッキさんに希少種に関して説明を終えた。
その階層に出現する2種類の魔物をまるで合成させたような姿をしていたり、不思議なオーラを纏っていたりとダッキさんからしても珍しいタイプの希少種だったみたい。
そうだ、帰る前に少し気になることを聞いてみよう。答えが帰ってくるとは思えないけどね。
「そういえばさっきは何を驚いていたのですか?」
「スキルが発現した」
「え?」
「アリスちゃん!」
ダッキさんが慌てた様子でアリスの口を塞いで周囲を見渡しているのが見えるけど、私の心は別のことで埋めつくされている。
不思議な魔法を使い、ランク1でスキルを発現したその強さ……私は、強くなるためにあなたをもっと知りたい。
再び魔法を使いたい。その先の『ツクヨミ』も目指したい。
そう、諦められない。
「アリス、パーティを組んではもらえないかしら?」
――私は何を言っているのだろう。
思わず言葉が口から出ていた。これは足手まといになるのが嫌で自分から避けていた行為なのに……。
訂正しよう。
「ごめんなさ――」
「いいよ。パーティを組もう」
驚いた様子のダッキさんの手が緩んだのか、アリスはその手を軽く離すように口を解放してそう言った。
……いえ、ダメよ。ここでアリスの好意に甘えるわけにはいかない。
「いえ、気の迷いだったの。魔法が使えない私がパーティを組んでも足手まといになるだけだわ、ごめんなさい」
「それじゃあ、それを解決して乗り越えた姿を私に見せて。それを報酬として、パーティを組もう?」
まるで私が乗り超えることを信じて疑わないようなその微笑みに、心が大きく揺れる。
どうして私が乗り越えられると、そう思ったのだろうか。
私にあの魔法を見せてくれた時もそうだ。出会ったばかりの私に、何を感じてくれているのだろうか。
……。
うん、やっぱり好意に甘えよう。アリスの強さも知りたいけど、それ以上に私が乗り越えられると思ってくれた理由が知りたい。
そしてそれは、私が乗り越えた時に聞こう。信じてくれたアリスに、信じてくれたことは間違っていなかったと応えてから。
「ありがとう、必ず乗り越えた姿を見せるわね。それまでの間、よろしくお願い」
そう言い右手を差し出す。
「うん、期待しているよ」
その手を、アリスは嬉しそうに微笑みながら握り返してくれた。
久しぶりに応えたその手は、とても暖かく感じる。
「うん、2人がパーティを組んでくれて良かったです。ですがアリスちゃん、私に約束してくれましたよね。むやみに言わないと」
「むやみじゃない。周囲は気をつけていたし、あなたを含めて信じている相手にしか伝えるつもりはない」
私の何がアリスを信じさせたのかは分からないけど、信じられるのは嬉しいことね。ちょっと頬が緩んでいるかもしれない。
「そうですね、アリスちゃんは抜けているように見えて重要なところは抜けていませんものね。それでも伝えるなら私に言っておいてほしかったです」
「うん、ありがとう。それじゃあパーティを組んでくれたお礼に私のステータスを見せておきたい。ダッキ、問題ない?」
「まあ、一時のパーティですがエルピスさんなら問題ないでしょう。今、表示しますね」
「ありがとう」
アリスに微笑んだダッキさんは手元の情報端末を操作し始めた。
嬉しいのだけど……いえ、これは信頼の証として受け取っておくべきね。それに答えるのは乗り越えた私のステータス。ええ、問題なくして見せよう。
「エルピスさん、こちらがアリスちゃんのステータスです」
◇基本情報
名称:アイリス 種族:- 性別:-
所属:アースガルズ
称号:
◇ステータス
ランク:1
筋力:2 生命力:1 器用さ:3 素早さ:3 魔力:3 精神力:2 魔力操作:3
スキル:乗り越える者<<ブレイブリー・ハート>>
……やはり実際に見せられると実感する。魔法の差があるとはいえ、アリスは私よりも遥かに弱いステータスであの希少種を倒したのね。それもスキル発現前の状態から。
そして、スキル。名称から効力は想像できないけど、きっと強力なのでしょうね。私もいつか、発現させることができるかしら。
……あら、種族と性別が表示されていない。
「種族と性別が表示されていないみたいですけど、エラーでしょうか?」
「ステータスの情報は必須項目以外、隠せるんだよ。知らなかった?」
「え、聞いたことがないのだけど」
「ギルドでも教えませんからね。正確には教えても構わないとは言われていますが、相談員の誰も方法を知らないので可能な事実も教えていません」
必須項目ってどこかしら。名称と所属、かな。
……いえ、そこじゃないわね。種族はいいとして、何で性別を隠しているのかしら。
「……アリスは男の子だったりするの?」
「違う。性別は隠しているのではなく、表示そのまま。私は女性寄りの性別無し」
種族関係なく極稀に生まれるらしい性別無し。エルフでも極稀に生まれるらしく、魔法が得意な人が多いと聞いているわね。
「ごめんなさい、そうだったのね。ステータス表示で見たのは初めてだったから分からなかったわ」
「気にしていない。ところでダッキ、スキル詳細も表示して?」
「それはダメです。エルピスさんを信じていないわけではありませんが、さすがにダメです」
アリスに語るダッキさんの表情はとても真剣なもの。いつも相談の時は真剣なのだけど、それとはまた違った感じがする。
「ダッキ、心配してくれてありがとう。それなら詳細はやめておく」
「……本当ですか? 実は口頭で伝えたりしません?」
「機会がきたら再検討するけど、今はしない。約束する」
ダッキさんはやや不安そうにしていたが、揺るぎないアリスの言葉を聞いて安心した表情を浮かべた。
「本当に伝えないでくださいね。エルピスさん、失礼しました。あなたを信じていないわけではないのですが、固定パーティ相手ですら伝えるべきではないと判断する内容が含まれていますのでご容赦ください」
「大丈夫です、気にしていませんよ。ステータスを見せてくれただけでも私はとても嬉しいですので」
一時パーティを組むだけの私にステータスを見せてくれただけでも、信じられていることは理解できている。
それよりもアリスがちょっと心配になってきた。ダッキさんが固定パーティ相手にすら伝えるべきではないとする内容のスキル詳細。アリスはそれを見て、一時パーティを組むだけの私に見せようとした。
やっぱり、この子は人を信じすぎているのではないかと思ってしまう。
「ありがとうございます。それではダンジョンへ潜る前にギルドに寄ってパーティを組んでおいてくださいね。方法は分かりますか?」
「大丈夫」
「大丈夫です」
ギルド内部にある特別な魔法陣に乗って魔法陣に全員で魔力を流すだけ。
以前は神の加護として存在していたのだけど、堕神後は各大陸のダンジョン付近に出現した魔法陣で行えるようになった。誰が準備したのかは分からないけど、便利になって嬉しい。
まあ、パーティを組む利点は回復、支援系統魔法などの接触して使用しなければならない魔法をパーティメンバーに限って非接触で使用できることと、パーティメンバーを探知魔法で探せるようになることだから、今の私にはあまり意味は無いのだけどね。
「はい、それではこれでステータス確認を終了します。お疲れ様でした」
「うん。また来るね」
「また来ます」