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二色の螺旋  作者: シュウマイの皮
白色の光
7/14

五話『遭難』

加賀美さん実は格闘技全般を習得しています

 「―-―――ッッ!?」


 とっさに顔を右に逸らしておいて正解だった。視界の隅に上下の分かれたガラケーがくるくると回転しているのが見える。そして、ケータイを破壊した黒い腕が俺の頬を浅くえぐって背後のコンクリートに突き刺さった。直撃したコンクリートは瞬時に粉砕されて白い煙を巻き起こす。間髪入れずに襲撃者は攻撃を仕掛けてきた。なぎ払うような横の一撃をしゃがんで回避し、転がって距離をとる。なにしろコンクリート塀を素手で粉砕する化け物のような怪力の持ち主だ。一発でも食らったらそこで The endである。


 俺はしばらく避け続ける中でこの襲撃者の動きが素人くさいことに気づいた。要するに力任せに攻撃しているということ。なら隙も多いしかわしやすい。


 顔を狙った一撃を体を左に逸らすことで避け、カウンターのボディブローをぶちかます。あまり効いた様子はない。ひざ蹴りを横から攻撃することで軌道を変え、何発か連打を叩き込む。さすがに連続で攻撃を受ければ無事では済まないようだ。ひるんだ所に渾身の前蹴りを食らわせると、襲撃者は吹っ飛んだ。

 そこまで強いというわけでもないらしいな。単に俺が強すぎるだけか。だが油断は禁物だ。俺は警戒しながら再び立ち上がった襲撃者を迎え撃った。馬鹿力による攻撃は激しさを増してきてはいるがその動きの軌道はすべて見切っている。


 さてそろそろ終わらせるとするか。終わらせるといっても気絶させるだけだが。いまだに疲れの見えていない襲撃者の振り回す腕をつかみ、右手で襟元をつかんでから足をかけ、勢いを利用して投げ飛ばす。柔道の背負い投げだ。勢いよくたたきつけられた襲撃者はうめき声をあげた

。まだ落ちていないみたいだな。そのまま組み合っていると俺の腕が折られかねないのでかかと落としを入れてから距離をとる。頭に食らわせれば気絶させることができるかもしれない。俺はわざと背中を襲撃者に向けた。起き上がる音と、走る音。それが俺の射程距離内に入った瞬間


 「―――――ハアッッ!!」


 左足を軸にした必殺のカウンターの回し蹴りが襲撃者の頭部にクリーンヒットした。襲撃者はその場で地面と水平に回転してぶっ倒れる。一応加減はしておいた。死ぬことはないだろうが、失神したのは確実だ。これで起き上がれたらこいつは人間じゃねえ。そう思った矢先、何事もなかったかのように襲撃者が立ち上がった。・・・マジかよ。ガチモンでやべえぞこいつ。そして、襲撃者は右手になにか長大な物を生やした。・・・は?あれは爪か?というか急に爪が伸びるなんてどこのファンタジーだよ。信じられない。俺は混乱しつつも冷静に状況分析をする。爪は長さが目測で50センチくらいはありそうだ。そしてめちゃくちゃ切れ味がよさそうだ。リーチもあって殺傷能力も高い。・・・素手で戦うのは明らかに不利だな。こんなときは逃げたほうがいい。


 そんなに襲撃者も甘くはなかった。逃げようと決めた瞬間にいきなり爪で攻撃してきたのだ。攻撃というのは射程距離が増えただけではるかにかわしにくくなる。・・・死という恐怖を久しぶりに体感した気がする。俺は爪の攻撃転がって回避すると逃走を開始した。




 「はぁ、はぁ・・・まだ追ってきているのか?」


 すでに時間の感覚は薄れ、意識は朦朧としている。わかるのは自分が非常に疲れているのと、周りが暗いことだけだ。周囲を見回すともう追ってきてはいないようだ。・・・あまり見慣れないところに来たみたいだな。俺が時美沢にいて用事がないのは東部ら辺だけである。東部はほぼ住宅街みたいなもんだし。

 

 少し呼吸が休まったころ、またあの襲撃者が襲ってきた。shit!damm you!振り切ったと思ったのに!

 もう俺は体力的に限界だ。鍛えてはいるが、体力は無尽蔵ではない。視界の片隅に石で作られた階段が見えた。無我夢中で駆け上がる。せめてどこかに隠れれば助かるかもしれない。やっと階段を上りきったがその瞬間に倒れてしまった。・・・もう走れそうにない。腕の力に任せて少しだけでも前進する。背後で階段を上る音が大きくなってきた。チクショウ・・・ここまでかよ!俺は視線を自分の後ろに向けた。

 

 襲撃者の死刑執行人のような風貌が目に映る。そいつは階段を上がりきって俺に近づこうとしていた。だが何かがそれ以上接近を許さなかった。まさに怪現象という表現がふさわしい現象が起きた。襲撃者はいきなり放電現象に襲われたのだ。そのまま階段からまっさかさまに落ちていった。


 「・・・一体、何が・・・」


 危機が去ったためか、急に眠気が襲ってきた。俺は抗うこともできずに眠ってしまった。



 *   *    *    *    *    *    *    *    *    *




 「ひゃわわわわわああああっっ!!?」


 俺が起きた瞬間に甲高い叫び声が聞こえた。いい目覚まし代わりだ・・・ってちがう!

 昨日はバイトに遅刻して怒られて結局5時までバイトをやって事件の調査をしていたらいきなり狼藉を働いてきた化け物に追われて変なところに来て、寝てしまったのか。いろんなことがあったな。…ってそれもちげーよ!昨日は地べたで寝てしまったのになんでいま布団で寝ているんだよ。まあ答えはもう既に出ているのだが。

 和室らしき部屋の柱の一つに女性が隠れている。たぶんその人が俺を助けてくれたのだろう。なぜか酷く怯えているのが謎である。このまま待っているわけにもいかず俺はその女性に声をかけた。


 「あの・・・」

 「はひ!な、ななななんでしょうかッ」


 俺が一声かけた瞬間に女性はさらにビビッて身を縮込ませながら返事をした。どうやら極度の対人恐怖症らしい。


 「えーと・・・あなたが僕を助けてくださったんですよね?」

 「え?あ、は、はい・・・」

 「ありがとうございます」


 一応一人称を僕に変えて敬語でしゃべる。怖がらせてしまっては現在の情報の把握ができないからだ。


 「お、お礼、なんて・・・私は、その、巫女ですから。ひ、人を助けるのは当然のことです」

 「巫女?すると、ここは神社ですか?」

 「え、ええ。十六夜神社っていいます。・・・知らなかったんですか?」


 神社関連になるとこの巫女は多少、気が強くなるようだ。それから彼女は先ほどまでビビッていた人とは思えないほど饒舌に神社について語りだした。べらべらべらべらべらべらべらべら・・・・・・・・・

 キリがないので横やりを入れてやめさせることにした。


 「そうなんですか。十六夜神社ってそんなにすごかったんですね」

 「あ、あの、ま、まだ半分も言ってないですよ・・・?」

 「いえ、十分にこの神社の魅力はわかりました。また、ここに来たいですねえ」

 「は、はあ・・・」


 巫女はそれまで隠れていた柱からおずおずと俺の寝ていたところの横にやってきた。髪は肩に届くか届かないかぐらいのショートカットで僅かに青みがかかっている。服装は今ではあまり見ない、上が白で下が青色の巫女装束。背は小さいが条花よりは大きい。つか、なんで条花を比較対象として出したんだ俺。

 だがなによりもインパクトがあったのは両目に巻かれている包帯である。まるで何かを封じるかのようなきつい巻き方は、俺を絶句させるのに十分だった。口を開きづらい状況のなか、巫女が正確に俺の方向を向いて、つっかえながらも自己紹介をした。


 「、わ、私は一條 咲(いちじょうさき)っていいます・・・あ、あなたは?」

 「僕は、加賀美 誠と申します。以後、お見知り置きを」

 「か、がみ、さん。・・・はい、覚えました」


 さて、自己紹介も終わったのでここからは質問の時間だ。昨夜の襲撃者はとんでもなくやばい奴だったというのははっきりと記憶に刻まれている。あれはおそらく俺の常識の範疇では全く理解できないはず。

 それと、この十六夜神社に例の襲撃者が入った時に発生した謎の電撃。あれをくらって襲撃者は階段から落下したのだがとても死んだとは思えない。俺は質問の要点を決めて喋ろうとした直前


 「加賀美さんの質問には殆どお答できますよ。あなたの遭遇した数々の怪異の理由は私が知ってますから。例えば、昨日何者かに襲われた―――――とか」


 一條咲は右目のところの包帯をあげてじっと俺を見て言った。その瞳は金色の輝きを放っていた。


 どうやら今回の事件は相当に混雑してきそうだ。

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