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二色の螺旋  作者: シュウマイの皮
白色の光
6/14

四話『異常非常』

 突如として上がった悲鳴は意外と近くにあった。というか近くじゃなきゃおかしいけど。ボクはアイスの包み紙をゴミ箱に捨てつつ声の方向に向かって走った。後ろの方で山上の走る音も聞こえる。たぶん方角は・・・西だ。公園から出て突き当りの路地を左に曲がると銭湯が目に入った。何の変哲もない普通の銭湯だが人が集まっている。ボクは近くにいたおばあさんに話しかけてみた。


 「何があったんですか?」

 「さ、さあ?行ってみないことにはわからんぞえ?」


 ・・・いても立っても意味がないのでボクは人混みを押し分けて中に入った。するともういちど悲鳴が上がった。今度は男の声だ。一体何が起きているのだろう?悲鳴は女湯のところで、従業員らしき男性たちが慌ててドアを閉めているところだった。ボクの気配を感じたのか彼らは振り向いてギョッとした表情を浮かべている。


 「ちょ、ちょうどよかった。き、君。中にいる子をどうにかしてくれないかな?俺達じゃ中に入れない事情があってさ・・・ははは。頼む!」

 「ああ・・・はい。わかりました」


 内容を察したボクが返事をすると男たちはそそくさと退散していった。ボクは女湯のドアを見つめてから取っ手に手をかけて押した。湿度の高い空気が漏れてくる。そのままボクは中に入った。・・・薄々予想はしていたがやはりちょっとショックである。簡単にいいますと・・・見た目小5ぐらいの女の子が全裸でバスタオル抱えて震えていました!そりゃあね・・・男の人なら入れないよねえ。その時山上がけたたましくドアを開けて叫んだ。


 「条花!何があっtんべryッッ!!?」

 「お前は入ってくるなァァァッ!!!」


 とっさにツイストドロップキック山上にぶち込んで退場させ、ドアを閉じて固くロックをかける。あの変態にこんな状況を見せたら大変なことになるに決まっているよ・・・。深く溜息をついて少女を振り返る。いまだに少女は座り込んだまま震えながらうつむいていた。なんだか怯えているみたいだ。ボクはしゃがみこんで話しかけてみた。


 「もう大丈夫だよ。安心して」 

 「ッ!・・・・・ほんとに?」

 「もちろん。約束するよ。・・えーとまずは・・・服着よっか」

 「・・・ふくってなんですか?」


 背筋につららでも刺さったかのような寒気が走った。いま・・・この少女はなんて言ったんだ?服を知らないなんて、まさかそんなバカな・・・!この娘はボクと

 だめだ!それだけは・・・それだけは考えちゃ駄目だ・・・ボクが、わからなくなるから・・・!

 

                   ズキッ


 頭痛の起こり始めた頭でどうにか少女にボクが来ていた青色のロングコートを着せた。ちゃんとファスナーもしめてやる。これで体の大部分が隠れた。頭痛が酷くなってきた


 「こ、これが・・服だよ。覚えて、おいて」

 「う、うん。・・・なんだかお姉さんくるしそう」

 「き、気にしないで。平気だから」


 ボクはその場に座り込んで頭を押さえた。こうやってしばらくじいっとしていればすぐに治るはずだ。だが同時にあの例の目の『異常』も発生した。くそっこんな、時にっ! ぐるぐる回転し、色の反転する視界に少女が映りこむ。その背後になにか黒い煙のようなものが見えた。それはニタアッと口の部分だけ笑っていた。最大級の頭痛の嵐が襲ってくる。


 「いッ・・・」


 それを最後にボクは気絶した。




    《それを否定するな。受けいれろ。お前の希望でもあり、絶望でもあるから》





 「があッ!?」

 「じょ、条花!・・・目が覚めたか?」

 「はあっ、はあっ・・・ここはどこだっ!答えろ山上ィ!!!」

 「うわっちょっまっ首を絞めるな・・・うげ」


 山上のうめき声でやっと我に返った。いいようもない得体のしれない恐怖にパニックになっていたようだ。とっさに周囲を見渡し、ここは銭湯で場所は変わっていないことを確認する。さっきの地の底から響いてくるような重く、魂に刻みつけてくるような低い声は一体誰のものなのだろうか・・・?息が落ち着くまでボクはしばらくじっとしていた。ん?まてよ。山上の声が後ろでしかもものすごく近くで聞こえたぞ。まさか、山上に抱きかかえられている!?


 「うわわわわあわわっっ!?」

 「うおっ、いきなりびっくりさせるなよ」

 「こっこれが驚かずにいられるかい!」

 「なんだよ・・・彩城がお人形さんみたいに倒れていたから抱いてただけなのに」

 「ふえkxしそjぃっしxd」

 「彩城が可愛いからしょうがないじゃん」

 

 頭がオーバーヒートを起こした。こ、この変態はなんて破廉恥なことをしてくれたんだ・・・。顔も今ははっきり自分でもわかりすぎるくらい真っ赤だ。


 「はわ・・・はわわわあ・・・」

 「(言いすぎたな)」


 山上がなんかぼそっと言ってたけど内容が何が何だか全然わからない。ボクはわけもわからずに両手をバタバタ上下させてしまっている。山上はそれをみてぷっと吹き出した。


 「たははっ彩城すげー顔真っ赤だぜ。ここまで照れてるとこ初めて見たぞ」

 「バカバカバカあっ黙れ黙れ黙れえっ!!」


 ものすごく幼稚な罵倒が自分の口から飛び出てきた。山上を直視できなくなってうつむく。なんでボクがこんな目に会わなきゃいけないんだ。いつの間にか山上にやりこまれてしまっている。


 しばらくしたらだいぶ落ち着いてきた。つくづくボクは単純だなあ、と思う。いや、それ以前になんでこんな他愛のない言葉でここまで照れてしまったんだろう?・・・ボクはいまだに笑っている山上を横目で見た。あほみたいな笑顔だけど見ていて悪い気はおきない。なんだか今日のボクは変だ。


 今一度ため息をついて立ち上がる。正直萎えるけど仕方がないな。まずはあの少女とこの銭湯内でなにが合ったのかを聞かなくてはならない。部屋は応接間のような場所で従業員たちが気を使ってくれたのか回りには人がおらず山上とボクだけしかいないようだ。気を失っていたとはいえ山上と一緒に密着していたのはとんでもなく恥ずかしい。今日は念入りに体を洗おう。


 「山上、あの子はどこにいるんだい」

 「いまたぶん隣の部屋にいると思うぜ。店の人たちが相手してると思う」

 「わかった。行ってくる」

 「おいおい、体の方は大丈夫か?」

 「君が変なことをしていなければね」

 「抱きしめてただけだけどな」

 「氏ね」


 ボクは乱暴にドアを閉めて立ち去った。隣の部屋のドアをノックし、返事が返ってきたので中に入った。遅れて山上も入ってくる。部屋の中では従業員たちご一向と少女がご対面しており、いずれも神妙な顔をしていた。彼らは突然の来訪者に驚いたようだったが例の男性店員三人もそこにいて、すぐに仲間に知らせて部屋から出て行った。ソファチェアーに座っていた少女はボクの姿を見てわずかに顔の緊張を解いた。おどかさないようにゆっくりと椅子に座り、山上は立たせておいて話し始める。


 「さて、自己紹介といこうか。ボクは彩城条花。この男は山上総司っていうんだ。君は?」

 「・・・漢字はわかりますけど読めません」

 「とりあえず書いてみて」


 少女はたどたどしく『鷹司三月』と書いた。たぶん読み方は・・・


 「鷹司三月(たかのつかさみつき)、かな。これが君の名前だよ」

 「たかのつかさみつき、鷹司三月」

 「そうそう」


 ようやく自分についての情報が得られたのか鷹司三月は嬉しそうに微笑んだ。ボクも微笑み返してやる。いちいちフルネームで呼ぶのも億劫だからこれからは三月と呼ぶことにしよう。


 「いきなりだけど本題に入るよ三月クン。君は何故浴場にいたのか」

 「そして何を見たのか?」

 「ボクの台詞を盗るな山上」


 三月はいきなり席を立った。予想外すぎる行動にボクと山上はぽかん、としてしまった。三月はそのままドアを開けて外に出た。あわてて追いかけるともう廊下の角を曲がるところだった。意外と歩くのが速い。どうやら女湯の所に行くつもりらしい。さりげなく山上も女湯に入ろうとしていたので後ろ蹴りをぶち込んでから閉め出す。幸いにも誰もひとがおらず、ボクと三月の二人だけそこにいる。


 「なんでここにいたのかはわからないけど、確かここに・・・」


 三月は浴場の突き当たりの壁を手で調べ始めた。やがて目線のところにあるタイルに何かを感じたのかつめを立ててべりっとはがした。普通タイルは人のつめごときで剥がせる訳がないが三月は次々にタイルをはがしていく。


 「なぜかこれだけ覚えてます」


 やがてどタイルを長方形の形にはがし終えた時、強烈な腐敗臭が漂い始めた。もろに吸い込んでしまって咳き込んだ。本来なら漆喰で固められているはずの壁はタイルの剥がれたところだけ木材で覆われていて不自然極まりない。ボクは片手で鼻を覆って壁の木材を蹴った。木材の板はそれで割れてドサリ、と物体が落下してくる。


 「・・・やれやれ・・・」


 それだけしか頭に言葉が浮かばなかった。落下してきた物体は既に腐敗しきった死体であった。残酷極まりない風貌のそれはとても詳しく観察ができそうにない。・・・わかっていることだがこれは自殺ではない。自殺ならなんで壁の中に埋まっているのか意味がわからないからだ。つまり、これは明らかに他殺だということがわかる。それに、腐っていることから数日前に殺されたのもわかる。まったくもっていままでの自殺事件とは関連性がなさそうだが一応写真を撮って加賀美に送ることにした。


 「・・・あれ、もうこんな時間か」


 ガラケーの待ち受け画面には6:46とあった。意外と長く気を失っていたようだ。ボクは撮った写真を加賀美に送った直後にすぐ電話をかけた。呼び出し音がちょうど三回なったときにようやく加賀美が出てきた。


 「もしもし、加賀美かい?」

 【もしもし・・条花か?・・・こんな時間までいったい何やってんだ!】

 「う・・・か、加賀美の捜査活動の手伝いだよ」

 【そうか。もう暗いから俺が迎えに行く――――――」


                   バギャ


 そんな音とともに通話が切れた。


 「―――――――加賀美?・・・加賀美、どうしたんだい?加賀美!加賀美ィ!!」


 

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