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二色の螺旋  作者: シュウマイの皮
白色の光
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三話『開始』

さあ、いろいろ動き出す回です

 「現在まで四人の自殺者がでているんだね」

 「それぞれ、篠崎留美、高城麗佳、瀬島真希、そして品川良子・・か」


 時美沢の地図を広げてそこに自殺者の出た学校をマーキングしていく。最後にボクの通う学校に赤マーカーで印をつけて完成だ。一見、なんの繋がりも見えないけど加賀美はずっと地図を凝視している。

 

 「ひょっとして・・・この四つを繋げば」


 加賀美は赤マーカーでその四つの点を繋いだ。するとそこにはひとつの四角形・・・いや、正方形が出来上がった。だがこれに一体何の意味があるのだろうか?他殺ならなんとなく犯人の考えている意図が読み取れるのだが、あいにく自殺とも他殺とも判別がつかない。一歩前進と言いたいところだが全く役にたたない一歩である。早急に迷宮入りを果たしてしまった。ボクはもう一度この死亡者のリストを見直す。


 特に引っかかるところはない。皆たいして非行等にも走っていないし、成績もボクと比べれば大したことのないレベルだ。山上と比べたら天と地の差で山上の負けだけどね。というか成績で女子に勝ってる男子なんてボクの学校にいるのだろうか?・・・いないね。ボクが一位だったのを忘れてた。

 

 ん・・・?女子・・・女子・・女子、突然ひらめいた!ボクはもう一度死亡者リストをみた。そこに載っている人全員が女子であった。大発見・・・じゃないな。というか加賀美の発見したやつより役に立つのかどうかも不明だ。やっぱり現地調査しかないのかなぁ?でもあまりヒントも得られないだろうし、まず死体が残ってない。今のこの状況を一言にまとめるとまさに『詰んだ』である。

 

 でも、行動を起こさないことには何も起きない。とりあえず死亡者が出た学校を回ろう。ボクは日傘とデニム生地の肩掛けカバンを持って外に出た。加賀美は時々みかける超集中モードに入っているようでボクが行ってきます、といっても返事すらなかった。・・・別に寂しくなんかないからねっ。


   *    *    *    *    *    *    *    *    *



 時間は午後1時を回った頃であった。溜息をつきながら日傘をさしてとぼとぼ歩く条花を何者かが遠くから静かに観察していた。性別は不明。全身を黒に包み、辛うじて髪が長いという特徴だけがわかる。観察というよりはむしろ凝視しているといった様子で見ている。見た目こそ冷静なもののどこか感情的なオーラを漂わせながら。


   *    *    *    *    *    *    *    *    *


 なんてボクは浅はかだったんだろう。今は曇りだけどさっきまで晴れていて、照りつけるような日差しの中わざわざ時美沢の端から端まで移動した挙句、なーんのヒントも得られなかったのだ。というかどう考えても自殺者のでた学校に入れる訳がないのに出かけたんだろう。それに今更だけど眼の事も加賀美に聞きそびれたし、何か今日のボクは運がないな・・・。それより喉がからっからで何か飲みたい。お金を持ってくるのを忘れたからなーんにも買えないんだ。既に十数回ついた溜息が口から漏れた。脱水症状で死ぬ・・・まずい。よたよたと歩いて歩道橋の所に差し掛かった瞬間、ドン、と誰かに突き飛ばされた。不安定な姿勢だったためにボクは倒れる。


 「痛ったぁ・・・気をつけ、あれ?」


 肩にかけてたカバンがない。慌てて周りを見渡すとボクのカバンらしきものを小脇の持って走っている男を見つけた。青ジャージが特徴か。よし、覚えた。立ち上がって全速力で男を追いかける。見た目は小柄だけど、こう見えても50メートル走は7.23秒という俊足だ。そこら辺の小童なんてすぐ捕まえてやる!・・・とは言ったものの喉が渇いて、だめだ、いつもの速さが出ない。数メートルも走らない内にへたり込んでしまった。あの中にはケータイが入っているのに・・・その時だった。


 人ごみの中にまぎれかけた男が急に横向きに吹っ飛んだ。一体何が・・・?


 「ふう、条花のバッグさあ・・・返せよ?」


 山上だった。山上がとび蹴りを男に食らわせたんだ!ものすごく運がよかった。山上はボクのカバンを取り返すとこっちに近づいてきた。


 「ほら、バッグ。次からは気をつけろよ」

 「あ、うん・・・気を、つけるよ・・うん・・・」

 「じゃ、オレはいくぜ」

 「、あ!まってよ!」


 走り去ろうとした山上を呼び止める。


 「なんだ?」

 「え、えと、その・・・あ、アリガト」

 「大丈夫だ。問題ない」


 途中から何故か恥ずかしくなって横をむいて礼を言った。あまり、礼なんて言ったことないから顔も真っ赤だ・・・。なんかかっこつけて決めたつもりの山上がむかついたので逆襲に転じる。


 「あーもう!ボクにこんな事を言わせたからにはなんか物をおごってもらわないとだめだね山上っ」

 「はあ!?ちょ、意味わかんねえよ!」

 「いや、ホントに!の、喉が渇いて死にそうなんだってば。今一文無しだし」

 「金を持ってないお前が悪いぞ。・・・はぁ~。わかったよ、なんか奢るよ」

 「やったーっ」


  

 ボク達は日陰にある公園のベンチに移動した。山上が奢ってくれたのはコーラとなぜか棒アイスだった。水分補給してからは別に暑くもなんともないのだが、せっかくサービスしてくれたのだからありがたく頂くことにしよう。当の山上は贅沢微糖とかいう紅茶を買っていた。微糖なのに贅沢っていうのは意味がわからない。ボク的には中途半端なネーミングだなと思う。実際あんまりおいしくないし。ボクはカバンから青汁の粉が入っていたのを思い出し、取り出してコーラのボトルに入れた。これが意外とイケるんだよねー。青汁のまろやかな味わいに炭酸の抜けたコーラの甘さが混じり合って最高だ。


 「・・・いつみてもお前の好物は『ヘドロドリンク』だよな」

 「ヘドロドリンクじゃない!なんなら君も飲んでみるといいさ。きっとその紅茶よりはおいしいよ」

 「どう考えてもありえない」

 「山上にはグルメというものがわかってないなあ」

 「お前のそのどぶ緑の飲料のどこがグルメなんだよ!?」


 やっぱり山上には理解ができないのか。まあ仕方がない。一息にそれを飲み干すと近くのごみ箱に向ってペットボトルを投げた。放物線を描いて数メートル先のごみ箱にストライク。ボクは残った棒アイスの包装紙を破いて中身をとりだす。ソーダ味の何の変哲もない棒アイスをなめ始める。やっぱりアイスというのは舐めて食べた方がいい気がする。そっちのほうが味を長く堪能できるから。がりがり食べるとあっけなくアイスは食べ終わってしまう。


 「ぶッッッ!うげっ、ゲフンゲフン!」

 「なんだい急に噴き出して。汚いなあ」

 「・・は・・・・いじょうに・・い・・・自重しよ・・・」

 「???」

 

 なんか山上が気持ち悪かったからボクはそっぽを向いて早急にアイスを食べ終わった。なんていうか、時々男子は極端にかっこよくなったり気持ち悪くなったりする傾向があると思う。その点山上の気持ち悪さは尋常ではなく、廊下ををすれ違った胸の大きい女教師をチラ見してにやけていたりするのだ。何が面白いのかわからないがただ何となくそれが変態的な行為だっていうことはボクにもわかる。でもさっきの山上の登場はそんな行動のイメージなんて吹きとばすぐらいにカッコよかったんだ。だってひったくりにとび蹴りだよ!しかも顔面にヒットして一撃で倒したんだ。・・・それでも変態だっていうことには変わりはないけれど。


 「そういえば聞きたかったんだけどさ」

 「なんだ彩城?」

 「なんで山上は外に出てきたんだい?」

 「そりゃあ、シナッちの奴の死の真相を知りたいに決まってるだろ」

 

 山上は決意を秘めた目で静かにいった。


 「シナッちは自殺なんかじゃないさ・・・絶対にな」

 「仮に犯人をつかまえたなら君はどうするつもり?」

 「さあ?その場でブチ殺すかもな」

 「・・・・・・・」


 やっぱりボクは黙ることしかできなかった。その体から殺気が満ち溢れているのだ。


 「・・・でも、人を殺すのは駄目だと思う」

 「犯人がシナッちを殺したのにか?」

 「ほ、法律上は・・・」

 「ざけんなよ!!シナッちはオレの幼馴染だぞ!少なくともオレにとっては大事な人なんだ。・・・だから絶対に許さない・・・!死刑になんてさせない。オレがブチ殺すんだ!オレが・・・殺す」

 「・・・こ、怖いよ山上・・・」


 知らぬ内に涙が出ていた。知人の心に抱える闇に触れたからだ。・・・いつもと違う山上にボクは恐怖を覚えていた。山上は今しがたの自分の発言に気づき、めが潤んでいるボクを見て謝った。


 「す、スマン。怖がらせちまったな・・・」

 「し、仕方がないよ・・・うん。ボクだって君と同じ境だったらこうなっていたと思う・・・」


 何とも言えない空白の沈黙が流れた。二人でベンチに座ってただ、時間をつぶす。お互いに何も言い出せずに時はただ過ぎようとしていた。


 しかし、突然の悲鳴が静寂を打ち破った・・・




山上クンはキレると怖い。条花ちゃんは意外と怖がり。

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