二話『隠し事』
短くてすみません・・・
玄関のドアが開き、条花がただいま、と言って入ってきた。えらく早い帰りだな、と思って俺は彼女の方を向く。・・・いかにも何かあったような顔をしている。今日は大学は休みで、バイトの日だ。シフトの時間までは一時間弱あるので事情をきくことにした。
「おかえり条花、今日帰りが早かったな」
「うん・・・」
条花は荷物をゆっくりと地面に置くと居間のソファに座った。はぁー、と長く溜息をついて前髪をかきあげている。俺が何かあったのかと聞く前に条花が話し出した。
「聞きたいんでしょ、今日の事」
「ああ。もちろんだ」
「朝から暗い話は嫌なんだけどね・・・簡単に言うと人が死んでた」
「・・・!」
「ボクのクラスメイトの品川ってやつが死んでいたんだ。あまり関わりのない人だったけどクラスの人達からはかなりの人気者みたい。けどね、死体が変なんだよ」
死体が変?一体どういうことなんだ?ていうか死体をみたのか。大丈夫かな・・・
「詳しく説明してくれ条花」
「なんていうか・・・そうだね、あれは潰されたって言った方が形容的にはあっていると思う。最初にあの死体をみて考えられるのは飛び降り自殺なんだ。でもよく観察をすると、体のあちこちがぐちゃぐちゃになっちゃっているんだよね。よく考えてよ?ボクの校舎は4階だてだ。それでもたかが10メートルでしょ?そこから飛び降りたりしてもさっき言ったみたいにはならないはず。だから自殺じゃないとは決めづらいんだ。他殺だって決めるの無理があるよ。なぜなら」
「いずれも非現実的な予想が思いついたんだろ?」
「・・・ご名答」
「二年も一緒にすんでればわかるって」
条花は少々ムスッとした顔をしていたが一つ咳ばらいをして俺に質問する。
「そういう加賀美はどう考えているのさ?」
「うーん・・・殺してから運んだセンはあるか?」
「わざわざそんな面倒くさい事をしなくてもいいと思うけど」
「その発言・・・まさか犯人はおまっbsl」
「なにトチ狂ったこと言ってんだコノヤロウ」
痛い。突っ込みが腹パンは痛い。これじゃボケ役は苦労するな絶対。
「こっちは真面目な話をしてるの!」
「スマンスマン。つか、腹パンやめてくれよ。マジで痛い!」
「何?次はナイフで刺して欲しいの?」
「冗談じゃねえよ!?やだよ!殺す気かよ!?」
「はははっジョークだよ」
「ジョークでもお前ならやりかねない」
「じゃ殺るよ?」
「ちょっまっplease wait a minute!」
やべえ・・・なんか殺気がやばかった。こういうことを言っている時の条花の笑い顔は超怖い。いつもの条花の笑顔はそこら辺の男なら秒殺できるぐらいかわいいのだが、恐いことを言ってる時は尋常じゃなく怖い。
当のご本人は俺の得意のオーバーリアクションで大爆笑している。さっきの真面目モードはどこに吹っ飛んだのやら。
それもほんの2,3秒で止まって真面目な顔になった。ふぅ、とため息をつくと再び話し始める。
「暗い気分が晴れたよ。ありがとう」
「そいつはどうも。その品川っていうクラスメイトは怪死でいいんだな?」
「うん・・・なにか心当たりがあるのかい、加賀美」
「ああ。最近テレビでよくやってるニュースがあるよな?連続自殺事件」
「噂で聞いたよ。ボクは天気予報しか見てないから詳しくは知らないけど」
「ニュースじゃ自殺って言ってはいるが、いずれも死体が無惨な事になっているんだ」
「見てきたような口ぶりだね」
「まあ警察関係者から資料をもらってるからな・・・あ」
口を滑らせてしまった。条花がソファから立ち上がって俺に詰め寄った。
「どういうことかな?」
「お前の中じゃ答えはでてるだろ」
「じゃ、当てるよ。探偵だ」
俺は小さく溜息をついた。条花が余計なことに突っ込まないように黙って起きたかったのだが自分が口を滑らせたせいでばれた。俺が会った時の条花はまだ小さく(いまも小さいけど)衰弱していた。その時の俺は高校生活の傍ら探偵としてバリバリ警察の捜査に協力していたのだ。若気の至りって奴だな。条花とともに暮らすようになってからは彼女を危険な目にあわせないために警察を手伝うのを控え、バイトをしたりしている。それでも時々依頼が警察経由で舞いこんでくることがあるから探偵をやっているのが現状だが。
「加賀美が前に言ってた時々宝くじが来るっていうのはそれだったんだね」
「まあ、な・・・」
条花をみると・・・ものすごく目を輝かせて俺を見つめていた。
「なんでそんな面白そうな事をボクに黙っていたんだよー!!」
条花が大声でしかも両手を情け容赦なくバンバンと俺に叩きつけてくる。は、傍から見ればものすごくかわいいのだろうが喰らっている身として痛い。かーなーり、痛い!
「ちょ、やめろっガチで痛え!」
「じゃあボクを助手かなんかにしてよー!」
「わかった、わかったからやめてくれ、絶対助手にするからさ!」
絶対あざできたな。ガチで痛いっす条花マジカンベン・・・。やったー、といいつつ条花がはしゃぎまくっているのを眺めて俺は静かに溜息をついた。俺は条花に怪我をさせたくない。世の中にはアルビノの体には神秘的なパワーがあると考えている糞サイコ野郎がいてアルビノ達の殺害が後を絶たないのだ。アメリカの新聞を読む限り少なからず日本にもそういう奴らがいると思う。だから、だ。夜道、いきなり条花が襲われて死ぬなんて冗談じゃない。俺も探偵をやっていた時も何度かそういう経験があるから尚更、条花を危険な目に遭わせたくはないんだ。
「じゃあ、さ。これだけ約束を守ってくれれば助手にしてあげてもいいぞ」
「うん!なになに?」
おれは一度深呼吸をしてからそれを口にした。
「決して無茶はするな。だけど、自分にできる限りの無理をしろ。・・・わかるか?」
「・・・?」
きょとん、と条花が首をかしげた。この言葉は俺の師匠であるひとがいったことばだ。
「まだ、この意味がわからないんじゃあ一人前の助手とは認められない」
「・・・そう」
「俺を手伝ったりしている内にわかってくるだろう」
俺は意味深にそう告げると条花との会話を打ち切った。