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二色の螺旋  作者: シュウマイの皮
白色の光
13/14

十一話『交錯する思い』

 さて、加賀美がいきなり女の人を連れて戻ってきたのは驚いたけどとりあえず今はボクが集めてきた情報を共有しないとね。それと、後で確かめるべきなんだろうけど一條さんには何か引っかかりがあるんだ。

 そう、以前にどこかで会ったようななかったような……

 それに、あの撫で心地…変なところも撫でられたけどどこかで覚えているんだ。実に奇妙な話だ。ひょっとしたら記憶を失う前のボクを知っているのかもしれない。初対面でいきなりスキンシップだし、ボクが出合い頭にナイフを投げても動じなかった。考えれば知り合いだっていうのは当たり前なのかもしれないな。

 それ逆に考えればボクが日常的にナイフを投げているような人だったってことじゃないか。そんな危険人物なのかボクは…にわかには信じがたいけど


 「…条花、どうした?」

 「ん、ああごめんごめん。ちょっと考え事をしてね」

 「そうか」


 加賀美に声をかけられて我に返った。そうだった。今はボクが手に入れた情報を公開する場だ。ボクは慌てて手元のカバンから何枚かの写真を取り出した。


 「これ、見てくれるかな?」


 ボクが差し出したのは例の銭湯で発見した例の腐乱死体だ。一応いろんな角度から撮影したけど正直この死体自体が証拠なのか自信がないんだ。全くもって別の事件を堀り起こしたのかもしれない。

 加賀美はそれを見て即座に言った。


 「撲殺されているな。ちょうど眉間のところを一撃。目が若干飛び出していたからわかった。凶器は多分金属系統の棒だな。傷口のえぐれ具合から判断するとそれが妥当だ」

 「す、すごい。そんなところまでわかるんだ……」


 さすが探偵。ボクなんか撲殺されたことまでしかわからなかった。やっぱり加賀美はすごい。


 「しかし、仮に同一犯だとするならば手口が違うな」

 「そうだよね。だからボクもこれに関連性があるとは思えないんだよ」

 「確認するがこれはどういう状況で発見されたんだ?」

 「女風呂の壁に埋まってたんだ。匂いは香料でごまかしていたよ」

 「なるほど。隠す必要があったということは犯人ことの発覚を恐れていた。だが、今回のは堂々と死体をさらしている。自殺におそらく偽装してだがな」

 「今まで何人お亡くなりになられているんですか?」


 空気を読まない発言だったがそれでも加賀美は穏やかに一條さんに対応した。


 「これを含まないで五人だ」

 「配置はどのように?」

 

 加賀美は首をかしげつつもマーカーを引いた時美沢の地図を持ち出した。


 「ああ、なるほど…」

 「何か分かったのか!?」


 加賀美がその発言に過剰反応し、勢いよく立ち上がった。椅子ががたんと音をたてて倒れる。その音にびくっと体を縮み上がらせる一條さん。

 加賀美は片手を上げて詫びると倒れた椅子を直した。

 それから一條さんはゆっくり語りだす。


 「つなぐところまではいいんです。でも形が違うと思うんですよ」


 一條さんは机の上に転がっていた青いマーカーをとって時美沢の地図の上に添削でもするように線を引き始めた。

 最初の死亡箇所から三番目へ。それから五番目へ。すると見事な正三角形ができた。それから二番目から三番目をつなぎ、六番目とおぼしき場所に線を引いた。


 「すると次はここで殺人が…ってここあのマンションじゃないか!?」

 「まじか!…しかし、だとしたらこの死体の理由がわからないだろ」

 「確かに…でも犯人の意図が分からないんじゃどうしようもないとおもうよ」

 「あの、まだ私の話、終わってませんよ?」


 危うく論争に発展しかけたボク達の耳に一條さんの声が入ってきた。ボクはちょっと咳払いをして一條さんの方を向いた。


 「これ六芒星というのはご存知でしょうか?」


 言われてみれば青いマーカーの三角形は二枚、さかさまに重なっていた。


 「私は巫女という職柄こういうものには詳しいんですよ。それにもっとよく地図を見てください。私がつないだところ、全部道路ですよ」

 「道路なんてどこにもないんだけど」


 直球で聞いてみたら一條さんはあれ?あれ?といって地図を覗き込んだ後、ああ、といって一人で勝手に納得した。

 ボク達の視線に気づいたのか彼女は顔を赤くしてうつむいた。それから巫女装束の袖から一枚の薄紙を取り出し、重ねてくださいと小さな声で言うと俯いたままになった。

 見かけによらず恥ずかしがり屋なんだなあ、とボクは上の空で考えた。

 薄紙は加賀美が受け取った。近くに来たから何かが書いてあるのがわかった。どうやら地図のようだ。古ぼけてはいるが写真顔負けの精度で時美沢の地図が描かれている。でも変なところがある。時美沢ってこんな形をしてたっけ?その疑問は加賀美が解いてくれた。


 「これは昔の時美沢の地図だな」

 「見たことあるのかい?」

 「ああ。確か……気にするな。これ以上悪化させてはならない」

 「???」

 「さ、さあ。本題に戻ろうか」


 加賀美は縮尺があっているのか確かめ、現代のと昔のを重ね合わせた。すると確かに青マーカーの引かれた部分は街道らしき細い空白と確かに一致した。

 ボクと加賀美は目を見合わせた。驚きの新事実だ。すると一條さんはこの地図と重ね合わせていたのか。それで錯覚したと…なるほど。弘法にも筆の誤りってやつか。

 ボクが加賀美に話しかけようとしたとき、それより早く加賀美がボクに向けて話しかけた。


 「条花。もうこの件には関わるな」

 「え、そんな、ここまでさせといてそれはないよ!」

 「危険なんだよ……」

 「危険なんて今更だよ。ボクは―――――」

 「俺はお前を死なせたくない!!」


 突然加賀美が大声を出した。今まで見たことのない加賀美の怒りの形相。片手に握っていたティーカップが砕けた。そのまま加賀美は破片を握りしめ続けている。ボクは絶句した。


 「お前にとっては迷惑かもしれない。これを聞いたら気持ち悪いと思うかもしれない。……俺はな、条花。お前を家族だって思ってんだよ。俺はガキが嫌いだった。あのただわがままな生き物のことが大嫌いだった。でもな…俺、お前を、びしょぬれでボロボロだったお前を見たときにほっとけなかったんだよ!あん時はなにもかもどうでもよくなってたんだ。何もかも失っていた。お前を見た時だって本当は無視するつもりだった。でもな……できなかった。お前は確かに俺の妹に似ていた。見た目、声、性格何もかも違っていても雰囲気は似ていた。それとなく、なんとなくお前を拾った。…俺が変わり始めたのはその頃だ。俺は、お前のおかげで人のことを考えられるようになった。自分のことで精いっぱいだった奴が周りを見れるようになったんだよ。こうして…心配できるのも全部お前のおかげだ。たとえ血がつながっていなくても条花は俺の家族同然だ。だから…自ら死ぬようなことはするんじゃねえよ」

 「加賀美…その…ごめん」


 ボクはいままで興味本位でこの事件を調べていた。周りの感情を全く考えもせずひたすら楽しいという理由でやっていた。例え襲われたって自然に身についていた格闘技で撃退できるって信じていた。現にボクはそれらを退けた。半ば奇跡的なものだけど。

 確かにこのようなことがもう一度起こればボクは本当に死んでしまうかもしれない。

 それで悲しむのは加賀美なんだ。

 家族っていう視点ならボクだって…その…加賀美を兄みたいに慕っているところもある。

 だから全然気持ち悪くないよ加賀美。むしろうれしいくらいだ。

 あくまで疑似兄妹。でもそこにある気持ちは真実。

 心配かけてごめん。でもボクはこの事件を解決しなくてはならない。

 

 「加賀美…」


 ボクは立ち上がって加賀美のところまで歩いた。それから、加賀美の頭に手を置いた。

 加賀美は驚いてボクを見上げる。ボクは加賀美を覗き込むようにしてほほ笑みかけた。


 「ボクのことそんな風に思ってたなんて…ボクはうれしいよ。心配してくれてありがとう。…でもこれはボクが解決しなきゃならないんだ。ボクだって興味本位でやっているわけじゃない。もう、動機は違うんだ。ボクは」


 ボクは―――――――――――――


 「―――――――一人の友人のために、山上総司のために、この事件に挑んでいる」


 それはまがい物ではない。本当の真実。不器用なボクがなそうとする彼への感謝の気持ち。

 それをここで宣言した。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ」


 加賀美はゆがめていた表情を穏やかなものに変え、短く息を吐いた。それから一言ぼそりと懐かしそうにぼやいた。残念ながらそれは聞き取ることはできなかったけど。

 と思ったらいきなり加賀美がボクを抱き寄せた。驚いて何もできない。

 随分高いところにある加賀美の顔。…かなりのイケメンだから正直恋愛感情はなくともドキドキする。


 「随分と成長したもんだな条花」

 「……それどうゆう意味――――っ!?」


 言葉を続けることができなかった。加賀美が顔をボクの首元に埋めたからだ。

 なにこのシチュエーション。変な方向に行ってないかな?


 「もう乳臭い匂いからは卒業したんだな」

 「失礼な!ボクだってちゃんとした女の子だよ!」


 加賀美はボクから身を話すと手を突き出した。握れっていうのかな?


 「よろしくな、相棒」

 「…うん!」


 ボクと加賀美は握手した。それは実に二年ぶりのものだった。


 「ふふふ、お仲がよろしいようで。くすくす」


 え、あ…見られてた。ボクと加賀美はそろって赤くなって俯いた。

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