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二色の螺旋  作者: シュウマイの皮
白色の光
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八話『加賀美の遺物』

長く間が空きました。そのかわり少し長めに作ってあります。

 スプーンの上でパスタをフォークで巻きつつある程度の大きさになったパスタの塊を口に運ぶ。程よい塩味が口の中に染みわたり、あとから胡椒とチーズの香ばしい香りがアクセントになり、微かに漂う鶏肉のうまみが味を際立たせる。なんかグルメレポーターみたいだなボクは。将来その手の職業にも就いてみようかな。・・・なんてジョークを頭の中で考えた自分自身を激励する。加賀美が死んでない事がわかっただけで事件はなんの進歩も迎えていないと。そう考えれば今はのそのそと遅い夕飯を食ってる暇はないはずだ。


 「・・・・・・・・・」


 今までの品のある食べ方をやめて勢いで胃の中にかっ込んでいく。たぶん山上が何事かと絶句しているであろうがお前にはわからなくていい。一分程度で片付けると皿を食洗機にぶち込んで早く”例”の部屋に行かなくては。


 「ひょっほ、ほほひひひゅんらよ?」

 「口の中に物を入れたまま喋るな。汚いよ」


 山上はゴクン、と飲み込んでから言い直す。


 「どこに行くんだよ彩城?」

 「研究室」

 「は?」

 「そのまんまだってば」


 山上がなんか急いで残りのパスタを食べ始めているが、そんなの無視して先に進む。加賀美はこのマンションのオーナーだ。故に彼の私有する部屋は非常に大きい。部屋が六つにキッチンがひとつ。風呂はかなり大きい。浴槽いっぱいに泡を浮かべて貴族気分を味わうこともできる。・・・なんてふざけたことはどうでもいい。ボクは加賀美の部屋のドアをあけ、中に入る。中はカジュアルな部屋で、寝具など渋いカラーで出来上がっている。ちなみに加賀美のパソコンのホーム画面はボクと一緒に写っている写真だっていうのは余談か。部屋の電気を点け、加賀美の部屋の壁紙を凝視する。ほどなくして歪なつなぎ目が発見できた。確かここを押すと…瞬間バタン、とドアが横向きにボクを巻き込みつつ反対側に回転した。急すぎる移動で思わず転んでしまった。


 「・・・まったく…なんで加賀美の奴、こんなめんどくさい入口にしたのかなあ?」


 打った左肘をさすりつつ大量の電子機器が所狭しと並べられた”研究所”を眺める。なんかスーパーコンピューターぽい機械が置いてあったり、なんか試験管を納めてその中身をどーたらこーたらする機械が設置されている有様は本当に研究所のようだ。なぜか加賀美が試験管を片手にひっひっひ、とか笑っている光景が想像できた。

 さて問題は”研究所”の見学ではない。ボクは袋に入れてあるテンキーの方だけしかないケータイを取り出した。こいつの中にある重大な情報とやらをここの機械をつかって調べだすのだ。ボクはさっきの加賀美の言葉を思い出す。・・・あいつどの機械に掛けろとか一言も発してないじゃないか。肝心なところで役に立たないな加賀美は。

 まあ、それだけでも十分なヒントなんだけどさ。このケータイを機械に掛けろということはUSBケーブルを使って接続するものだけに限られてくる。それ以前に加賀美はケータイにいろいろとカスタムを施しているらしいから特殊なケーブルを使うかもしれない。言いたいことはパソコンとかにケータイを接続しろって言うこと。

 さて、それらしき機械を探さなくてはならないのだが、加賀美のやつこの十六畳間の部屋にどんだけぶち込んでいるんだ。あいつは探すのがきつくないのか?それとも配置を全部覚えているのだろうか。いずれにしても探すのがめんどくさいのに関してはまったく変わらない。


 「・・・気が滅入るな」


 肩を回しつつ部屋を調べ始めたとき、どわあっというアホ極まりない悲鳴とともに山上がぶっ飛ばされてきた。


 「・・・君は一体何をしているんだい?」

 「いや、急に彩城が消えたから追っかけてきたんだけど」

 「ストーカー罪と不法侵入で警察に連絡するよ」

 「するなよ?絶対連絡するなよ?ぜった――――」

 「もしもし警察ですか?」

 「嘘だよな?、嘘だよね」


 嘘な訳がないじゃないか。山上はボクからケータイをひったくって絶叫した。


 『もしもし・・・どうなされました?』

 「すみません間違えました」


 山上はピッと通話を切ると盛大なため息を吐いた。


 「ぷっ…くくく、はっはははは!」

 「笑うなよこの野郎!」

 「野郎?残念だけどボクは女だよ」

 「うっぜぇ!!!」


どうやら真剣に山上は怒っているようだった。さすがに本当に警察に連絡したのはやりすぎだ。ボクは笑いをひっこめて山上に謝った。

 

 「ごめん、山上。ほんの冗談のつもりだったんだ」

 「・・・冗談にも程が…まあ、いいか。次からはやめてくれよな」

 「わかった。約束するよ」


 山上はいろいろと困惑した表情を浮かべた。考えていることがすぐにわかったので答えてやる。


 「あのねぇ、ボクだって悪いと思ったら謝るんだよ?」

 「あ、ああ。でも、まさか謝るとは思わなかった」

 「ボクをなめすぎだよ山上」

 「舐めてみたい」

 「殺すぞ」


 すると山上はマッハで土下座し、すいませんでした!と叫んだ。すっかり毒気を抜かれてしまったので対応に困る。


 「そ、そこまで謝らなくていいよ。ジョークだっていうのはわかったしさ。ね?」

 「ボソっ・・・許してくれんのか?」

 「うん。というか君のその姿勢が見苦しいだけだけど」


 さて、山上騒ぎもここまでにしておいて本題に入ろう。この機械に埋もれた分析用コンピューターを探し出さなくてはならない。現在時刻は夜の10時22分。一時間かけて見つからなかったら相当見つけるのは厳しい。そうだ。山上も一緒に探させよう。そうすればかなりはかどるはずだ。


 「ねえぇ山上。ボクと一緒に探し物をしてくれないかい?」

 「探し物の位置ならきっとここに書いてあるぞ」


 山上は天井に張られているマジックペンで書かれた紙を指差した。よくみるとでかでかとケータイ充電兼解析用コンピュータとあり矢印でその場所を示していた。


 「・・・・・・・」

 「なんつーか、彩城も天然だな」

 「うっ、うるさいうるさい!黙れ黙れ黙れぇッッ!!君にボクの悪口を言う資格はない!!!」


 恥ずかしさと山上に馬鹿にされた悔しさで一気に臨界点を突破した。両手をバタバタと上下に振りながらありったけの罵詈雑言の台風十三号を山上にたたきつける。


 すると、あろうもことか山上はボクの頭に手を置いた。・・・なぜかこれをやられると否応もなしに落ち着いてしまうんだ。本当に強制的で、加賀美が緊急回避の手段として用いたりする。きっとまだ紅潮している顔で山上をボクはじっと睨みつけているだろう。


 「まあ、そんなに怒るなよ。誰にだってミスはあるんだぜ?」

 「ミスばっかりの君になんか言われたくない!!」

 「いいじゃねえか。それに、いまは口争っている場合じゃない」


 確かにそうだ。でもその原因を作ったのは山上じゃないか。そう言おうとしたがそれを飲み込んでボクは山上の手を頭の上からどけた。


 「はぁ・・・」


 ボクはため息をついてパソコンに向き合った。確か加賀美が最新版のOSを自分で分解し、組み直した結果ボタンひとつでハッキングが可能になってしまったという危険極まりないやつだ。近くにあった書類を地面に置いてケータイのアダプタ差し込み口にパソコンのUSBケーブルを挿し込む。瞬間にパソコンが反応してケータイのデータ復旧作業に入った。推定の作業完了時間が表示される。・・・約三時間か。

 

 「どうだ彩城?」

 「データの復旧作業に入っているよ。三時間はかかるみたいだけど・・・ん?」


 見るとパソコンの画面にひとつの画像が表示されている。暗くてよくわからない。すると画面右端にウィンドウが展開される。


 【高性能画像解析装置CLIMAⅩ☆KAGAMIに移しますか?】


 大丈夫か加賀美の奴!?これが夢だと信じたい。まさかこんな中二病じみている名前を付けるとは嫌でも思いたくはない!あいつの中二病は山上のとはちがう演技のはずなのに・・・

 一気に沈んだテンションではいと書かれたアイコンをクリックし、本日何百回とついたため息をつこうとして止めた。山上の前ではさすがに弱いところは見せたくない。そういえば山上は何やってんだろう。

気になって振り返ると山上は何かをしきりに探しているようだった。


 「なにを探しているんだい山上?」

 「ああ。水を探していてな」

 「水?そこら辺の便所にでも顔を突っ込んできたらどうだい?」

 「うっわ、ひっでぇ!」


 目を丸くして騒ぐ山上。そのリアクションに思わず笑ってしまう。やっぱり落ち込んだ時は山上をからかった方がいいな。笑える。

 ポーンという音がして画像の解析が終わったことを告げるアナウンスが鳴った。アナウンスも鳴るのか加賀美の奴は。凄まじい高性能だな。音のほうに歩いて行く前に、スクリーンが落ちてきて山上が被弾してずっこける。スクリーンを罵倒し始めた山上を押してどかすと同時に画像が映写される。

 どうやら一つのマンションのようだ。一見普通に見えるが・・・なにか尋常じゃないオーラを漂わせている。

 解析機の方を見る限り、これは正確に加賀美のケータイから取り出されたもののようである。となると問題は場所なのだが。


 「これ、見たことがあるぞ」

 「なんだと!?」


 さも当り前のような顔をしつつ山上はサラッと答える。


 「ああ。学校からそれほど遠くない場所に立っているマンションなんだが・・・人が住んでるって言う割には活気がないんだよな。新築のくせにもう部屋は満員と来てやがる」

 「ふーん・・・まあ調べてみる価値はあるかな」

 

 ボクは研究室のからくり仕掛けのドアを抜けて玄関に向かう。やや遅れて山上も付いてくる。コートを取ろうとしてそれがないことに気づいた。たしか三月にあげたんだった。今頃彼女はどうしているんだろうと思いつつ代わりに加賀美の黒色の革のコートを手に取った。いちいち部屋に自分のものを取りに戻るのも面倒だし、これは加賀美もしばらく使っていないやつだし別にいいだろう。これで全身真っ黒になってしまったがこんな事にいちいち気をもんでいたらキリがない。

 

 「どこにいくんだよ彩城」

 「案内してくれ山上」

 「・・・おいおい、本気かよ」

 「うん」


 山上はまだ迷っているようだ。さすがにこんなに遅い夜に出かけるのは気が引ける。でも、加賀美の努力を無駄になんかさせるわけにはいかないんだ。


 「山上。この際だからいうけど――――――ボクはこの事件の犠牲者全員が自殺じゃないと思っている。何故かって言われれば答えられないけれど、これだけの人が自殺で片付けるのは不自然だ。・・・だから」

 「わかったぜ、彩城の考え。だったらオレも協力する」

 「ありがとう」


 ボクは山上を先頭にして進みだした。



 *    *    *    *    *    *    *    *    *    *



 暗い夜道に月明かりがわずかに光をそえている。いつも遅くに出かけていないので慣れ親しんだ道が未開の場所のように思えてしまう。やがて山上が足を止めた。


 「ついたのかい山上?」

 「ああ」

 「嫌な雰囲気だね」


 マンションに入ろうとしたボク達だったがその前に立ちふさがる影があった。

次は継続で条花視点で行きます

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