釣られた魚
「好きだよ」
彼のそのセリフを私は真実と信じた。
彼の表情や、しぐさ、その全てが、それを真実だと私に信じ込ますのに十分だった。
でも、違った。
私がそのことに気付いたのは、半年ばかし経ってから。
彼からの電話がきっかけだった。
「なあ、ちょっと急用でさ、お金が必要なんだけどさ。貸してくれないかな」
結婚の約束まで取り付けていた彼に、私は持ちかけられた。
「いくらぐらい」
その急用という言葉の中身すら聞かずに、私は金額を聞いた。
「そうだねえ、だいたい3万ぐらい。新幹線でちょっと東京まで行かなきゃならないんだけど、会社からは建て替えで払うことになってるから」
「3万かぁ」
新大阪と東京の指定席での往復新幹線料金なら、だいたい3万にはなる。
私は確かにそれぐらいだと思って、お金を用意して、彼と会う約束をした。
翌日、お金を彼に渡して、新幹線のホームで見送りをした。
以来、彼とは直接会っていない。
直接、と言ったのにはわけがある。
というのも、この話は後日談があるからだ。
1週間ほどで、私は詐欺だと気づいて警察へ被害届を提出した。
その被害届が積もっていったのであろう。
2カ月後、彼は逮捕されて、全国ニュースで顔が載った。
「あらら、捕まっちゃったのかー」
私はそれを、近所の食堂のテレビで見ていた。
「ま、自業自得よねー」
私はそう思いながら、昼ご飯を食べ進めた。