プロローグ
とりあえずシリアル目指して頑張って書いてます。
プロローグの食生活の話はあまりお好きでない方は閲覧にご注意ください。割と閲覧注意なところは▼印をつけます。▲印で終わりです。
「大丈夫か?」
アルハランのとある村外れのこの場所で空から落ちてきた子供をキャッチした男はそう言った。
キャッチした際に子供にケガを負わしていないのだが、結構な高さの崖から落ちてきたので純粋に子供の身を案じる言葉が出たのだろう。
「うん、ありばばばば……」
「アリババ?」
人の名前のような単語を発する子供に首を傾げる男。空から落ちてきた子供を無事にキャッチしたところを見るとかなりすぐれた身体能力を持っているようであるが、この男は地味であった。
特徴といえばフードで隠しているが時折覗かせる輝かんばかりの金色の髪を持っていると言う事と、身の丈はある大きな剣を背負っている事だろうか。
それ以外で彼を説明するとなると難しいものがある。ちらっと顔を見た時に顔の特徴は特になく、平均的な顔のパーツが揃っているのだ。目にしたって少し切れ目であるが特徴というところでもなく、鼻にしたって普通。
唇も薄いし、顎も尻顎というわけでもない至って平均的な東洋系の顔である。まぁ、東洋系の顔で金髪という違和感はあるがそれよりも地味という印象が最初に来るのだ。
100人いれば98人程が可もなく不可もないと言うだろう。残りの2人は顔の出来が良いと言うかもしれない、そんな顔だ。
ならば身体付きに特徴があるのではないかと思うだろうが中肉中背より少し痩せている程度の身体付きで至って平凡な身体付き。
服装も旅をしている人間にしては至って普通の地味なマントである。
声の印象にしてもどこにでもありそうな平淡で低めの声。
そんなどこにでもいそうな平凡の男の説明を何故しているかと言えば彼の現在いる場所が特徴的であるからであり、説明しなければならない位にはおかしな場所だからだろう。
「ガルルゥゥ……」
赤子を一飲みできそうな大口を開けている狼がマントの男を囲っている。その名をタイガ―ウルフ。虎模様の毛皮の狼で実に凶暴な存在だ。
「あばばばば……」
と子供が歯をガタガタと鳴らすのも仕方ないだろう。
これだけ普通にピンチであり非常にまずい状況であるのだが、それ以上にまずい状況があるらしく、大人の腕はあろうかという牙に滝のように流れる涎をまき散らしながら虎に翼に生えた生き物がその狼を囲むような形でフード姿の男の様子を窺っている。
イビルタイガ―、実に獰猛な性格で人を見るとすぐ様喰い殺すといわれるこの大陸で旅をするなら絶対に会いたくない生物だ。
もはやこれだけで四面楚歌の絶体絶命といえよう。
「アミバババババ……」
顔面蒼白どころの話ではない、子供の顔は土色になってしまいパニックになってしまったようで意味不明の言葉をずっと繰り返している。
中々お目にかかれない程酷い状況で混乱の極致にいる子供はきづいていないが、さらにその虎を囲むようにして象より大きなライオンが彼等を見下ろしている。
ヒュージライガ―、このギスカーン大陸にいるはずのないもはや伝説上の生き物でラピュ―ト大陸かドラグリア大陸に僅かながら生きているのではないかとされる存在するはずのない魔物、ノ―フィアーの一種でその大きな身体から全ての生物を食すとされる魔者だ。
そして上空を覆い隠すようにどす黒い色の怪鳥が空を飛んでいる。
カオスガーゴイル、ガーゴイル属の上位種の一種でドラゴン以外の生物でドラグリア大陸で羽を持つ数少ない生態系を持っている生物の群れが数え切れない程度にはいる。その群れの連携でドラゴンにも負けないとされる非常に凶悪な魔物だ。
そしてマントの男の背には断崖絶壁の崖がそびえたっており逃げる場所などどこにもない。
まるで蟻が餌に向かって大勢で集まっているような光景を思い出させるこの光景の中で、このフードの人物は至って自然体であった。
絶体絶命、四面楚歌、そんな言葉ですら生ぬるい状況で、一般人ならば子供の盾になって庇って死ぬ事を覚悟して、結局子供と一緒に死んでしまうような状況にも係わらず、恐れの感情を全く持っていないのだろう、震えも動悸もなく至って普通の表情で子供の身を案じる言葉を投げかけたのだ。ざっと魔物の数を数えても数百は超えているこの状況にも係わらず。
これがポーカーフェイスならそれはそれで凄い才能の持ち主なのだろうがそうではないらしい。
「おい、大丈夫か?ケガは?」
特徴のない声が返答のない子供にまた声をかける。
「だ、大丈夫ではないような。ケガはないけど。」
平凡な男の非凡な態度を見て少しばかり冷静になった金髪の子供は先程まで竦み上がって出なかった言葉を何とか出せる程度には回復していたらしく、少年なのか少女なのかも判断できないような声でそう返した。顔色は酷いものだが少しばかりまともな思考回路になったのだろう。
「そうか、なら大丈夫だな。」
「いや、大丈夫ではないような……」
今にも襲って来そうな魔物の群れに囲まれている状態で大丈夫な訳はないのだが男は平然とそう言った。
「生きてるなら大丈夫だ、何とかなるだろう。」
フード越しに見えた表情はとても穏やかで子供は何故か少し安心感を覚えていた。何故こんな状況の中で安心しているかは子供自身分かっていないのだが男の顔を見ると落ちついてくるのだ。
「ということはこの状況から生き残れるってこと?」
この状況から生きて脱出できる可能性を見つけて思わず笑みが出るのを抑えきれないらしく期待に満ちた顔でそう尋ねると。
「ん? そうだな……五分五分ってとこかな?」
先程とはうって変わって男はニヒルな笑顔を見せるのだった。
▼
時はフードの人物が子供を見事にキャッチする半日前に遡る。
ギスカーン大陸北西部アルハランのとある廃れた町外れの一軒家の庭で大きな魔法陣の上に立っている漆黒のローブを纏っている怪しげな人物が呪文を唱えていた。
「悪しき御霊を持つ同胞よ、我がマナを纏い我の命に従え“魔軍召喚” 」
青白く光る魔法陣から1匹、また1匹と最初はそろそろとガーゴイルやら魔狼やらが出てきたが徐々にその数が増え始め庭を覆い隠さんとする魔物でいっぱいになった。しかもそれ以上にまだ魔法陣から魔物が出ようとするのでローブの人物は一端魔力を込めるのを中止した。
“魔軍召喚”
魔王も使える魔法の一つで自身の魔力と引き換えに自身に忠実な魔物を産み出す事のできる魔法だ。それを使えるというのはこのローブの人物が実力者たる所以だろう。
「くははは、この大陸は我のものだぁ!!」
よほど嬉しかったらしくこの人物の声が喜びに満ちている。
漆黒のローブから時折見せる顔は鮮やかな蒼い鱗で覆われているが、それでいて人間のような顔をしている何とも奇妙な人物だった。
『アジ族』という魔族の特徴に皮膚は鱗に覆われているというのがあり普通は茶色等の爬虫類にピッタリの色をしているのだがこの魔族は蒼い鱗になっている。
アジ族は魔力の内包量で鱗の色が変わるとされ彩度が高い程魔力量が多いとされ、その点でいうとこの魔族は強いという事になるのだろう。実際、魔王以上の存在しか使えないとされる魔法を使えるので十分強いといえる。
魔族とは魔大陸に住む人語を理解できる知能を持ち、尚且つ魔物のような姿をしている種族をまとめた総称の事であり別に邪悪の総称の事ではない。人間が魔族になるパターンやその逆もあるので細かい定義はないが概ねそういう事になっている。
そしてこのアジ族の男、ダハーカはこのギスカーン大陸においても最も強い魔力を持つ存在であり狂っている、ギスカーン大陸で“狂王”といわれる程の実力者だ。
「苦節14年ようやくこの魔法を使いこなせるようになったか。」
涙を流しながら喜ぶこの王が何故、とある町はずれで研究していたかといえばダハーカが魔大陸“アーク”出身であるからであろう。
アークに王は4人存在するが城は持たないし持とうと思わないらしい。そういう主義というか思想らしく基本的には実力者は町外れに住むという風習があるからだ。
「よしそうとなれば城を攻め落としに行こう、久しぶりに他の生の人間を喰いたい気分だ。」
何がそうとなればかはよく理解できないのだが、まるで近くの公園に散歩に行こうというぐらいの軽いノリだ。
魔軍召喚の魔法を極める為に14年間村から一歩も出ずに研究を続けていたのでストレスが溜まっていたのと誰かに研究成果を見せたいという自己顕示欲に駆られたのだろう、まるで無邪気な子供のようだ。
「ああ、まだ身体が出来あがっていない子供の肉のなんと柔らかで美味いことか、思い出すだけでも腹が減る。大人の肉も美味いは美味いがアレには劣るしな。」
溢れだす涎を拭く事もせずに過去に食べた味を思い出す。
アレは14年前の雪が降り積もった次の日で、まだ歳を片方の手で数えることのできるくらいの幼子だった。
『母さん助けてぇ!!』
母を求める悲鳴のなんと心地よいことかそれすらも狂王にとってのスパイス、新鮮な子供の肉は生に限る、刺身にして食べるのがまた美味だ。
『痛い! 痛いよ母さん助けてぇぇぇ~~!!!』
腕を斬り落とし、その肉を食べられる様子に怯えや絶望に陥りながらももう片方の手で止血をしながらそれでも一生懸命に助けを呼ぶ姿は興奮すら感じる。
『お、お母さん?いやだぁぁぁあああ!!!』
そして目の前で母親を殺した時の全てを失くしたような絶望の顔は食欲をそそり過ぎてしまい我慢等出来なくなってしまうのだ。
“Dark red snow day ”
それがこの町が廃れた理由であり、この魔族がこの大陸にて狂王と言われる切掛けになった出来事。
だが彼に悪気があった訳でもただ殺戮をしたかった訳でもなく、あったのは食欲という名の殺意のみ。
「美味そうだったから喰った。」
ただそれだけの理由であり、そしてそれは生きる為の本能だった。
誰かが言った言葉がある。
「命の重さは皆平等。」
ダハーカはその言葉を知っている。魔軍召喚という強大な魔法を扱うにはそれなりの知恵と知識が必要でありその過程で偶々知ったこの言葉を気に入っていた。
人を殺した人間は殺されたって問題ない。
そういうものだと理解しているから。
家畜を殺す人間は殺しても問題ない。
命は同じなら殺しても良いと理解しているから。
蟻を踏み殺した人間は踏み殺されても問題ない。
踏み殺されたいからそうしているのだと理解しているから。
自身が腹を空かして殺すのは問題ない。
腹が減ったら殺して食うのが当たり前だと理解しているから。
だから自分が殺されたって文句はないし問題ない。
だって命の重さは皆平等なものだと理解しているから。
“人”も“亜人”も“魔族”も“蟻”も“神”さえも殺しても問題ないと彼は理解しているのだから。
「同じ肉を喰うのも飽きた。久しぶりに紅蓮に咲いた我が好物を頂こうとするかな。」
舌舐めずりをしつつ妄想に耽るギスカーン大陸の狂王でもありアジ族始まって以来の狂人にして魔大陸から飛び出した腐った王。
“偏食のダハーカ”
「さて、ではアルハランに行くとでもするかな。フハハハハハ!!」
庭の魔法陣とは別に宙に魔法陣を描き、そしてその発動と同時にどこかへと消えてしまい、中止したはずの魔法陣から不気味に蒼く輝き続ける。
魔族の中でも特別狂った偏食家が14年ぶりに現れる半日前の話でもあり、2人の若者の運命が著しく変化した日の話でもあった。
▲
「五分五分?」
何とも期待外れの回答を受け取った子供は不満げな顔がフードの男に向けられる。
「何だよ?生き残る確率が半分に上がったんだから喜べよな。」
その不満げな顔が気に入らなかったのか眉間に皺を寄せている。偶然とはいえ命の恩人に向かっての態度ではないのだから当たり前といえる。
「それもそうなんだけどさ。」
「大体お前も運が悪いなぁ、魔王並の魔族の侵攻の丁度真っ只中にいるとか、笑えるぞ。」
「好きでこんなとこにいるわけないだろう!!」
顔を真っ赤にして吠える子供。それもそうだろう崖から落ちて死を覚悟して助かったと思ったら今度は四面楚歌の絶体絶命の場所にいるとか笑える訳がない。
いつも通りに村外れの洞窟を探検してブルースライムを倒して、そんないつもの帰り道だった。偶々見つけた隠し通路に興味を惹かれた子供はその道を通りその先にあったのは誰もまだ足を踏み入れていない雪原のような花畑だった。
偶然にもそれを見つけた子供は目を輝かせながらここを自分だけの秘密の場所にすると心に決めしばらく呆けながら美しい花畑を見続けていた。そしてそれがこの状況になった原因である。
なんと隠し通路は魔法の通路だったのだ。朝と夕方と夜によって移動する場所が異なりさらには潜った場所によっても移動場所が異なるのだ。それを知る由もない子供は太陽の照っていた時に入ったのだが帰りは陽が沈みかけ空が赤みがかった時に慌てて帰ろうとし、そしてその移動場所が崖とも知らずに普通に歩き始めそして落ちたのだ。
そして冒頭のセリフの場面へと戻る訳である。
「うん?お前の顔ってどこかで見た事があるような?」
「ああ、俺の従兄弟が魔物退治とかしているらしいからそのせいじゃないかな。顔が似ているっぽいからしょっちゅう言われるんだ。」
「ああ!勇者ね、どうりで似ている訳だ。」
この大陸に広く伝わっている勇者という名の武芸者が子供の従兄弟である。名前は自分から名乗る事をしない為あまり知られていないのだが、アーク大陸に殴り込みに行って王の1人と戦って勝利したり、剣1本で多くの魔物を討伐したりしてギスカーン大陸では有名になったらしく顔は広く知られているらしく、通称“勇者”で名が通っている。
この男は“勇者”と言っているが意味的に同じなので子供は訂正しなかった。
子供は5年前に従兄弟が家から飛び出したきり会っていないのだが、有名になり時々村にくる旅人に「よく顔が似ている。」と猫可愛がりされたりしたのでこの事には慣れっこなのだ。
「ていうか、こんな話してる場合じゃないって早く逃げないと襲われ……アレ?」
今にも襲って来そうな魔物の群れにビクつきながらも奇妙な感覚になる。最近旅人のオカマのおっさんに聞いた時に言われた凶悪で獰猛で狡猾な魔物達に該当するこの群れ達が未だに襲って来ないのだ。
おかしい。
いくら何でも魔物がこの状況で襲わないのはいくら何でもおかしい。
なぜ襲って来ないのだろうか?
それは彼等の生物としていや、魔物と生まれたモノとしての本能といって良い。色々な種類な魔物が何かに警戒しているのだ。
子供に対して?
いや、子供も平均よりも大幅な能力があるのは事実だがこの軍勢相手ではまるで意味がないだろう。もはや唯の餌だと言っても良い。
ならば何故警戒をしているのか?
群れで戦うならば、このギスカーン大陸を滅ぼせるぐらいの実力があるこの魔物達がフードの男に対して生まれたばかりの魔物は警戒をしているのだ。
「まぁ普通なら逃げたりするわなぁ。ただお前は運が良い。」
「運が悪いのに運がいいの?」
「普通なら死ぬだけなのに、生きるか死ぬかの確率が五分五分になったんだぞ?そりゃあ運が良いだろうよ。」
ニヤリと不気味に笑う男に対して子供はあまり嫌悪感を抱かない。それどころかその不気味な笑う顔に恐怖心しかなかった心に安心感が芽生えている。
その事に子供は気付いていない。だが普通に会話できるという事実はその事を証明しているのだがそこまで考えが回る程の経験も頭脳もないのだから仕方ないだろう。
「噂の人なら普通に助けてくれると思うけど…」
子供は少し膨れながら文句を垂れる。
「“勇者”か?まぁアイツならやってくれそうだけど、ここまで来てくれる可能性はほぼ0だと思うぞ?来たら正しく奇跡だわ。」
子供の言いたい事は分かるがフードの男の言っている事ももっともだ。勇者がいるのはアルハランの王都ジンギスで、ここはそこから離れた辺境の村の近くの崖。距離にしたって100㎞は離れているのだから来れる訳がない。移動魔法は50キロ程度離れた場所にしか行けないし、時空魔法を使おうにもそれを使うのに七日はかかるのだから。
「なら何で兄ちゃんはそんなに平然としていられるの?」
子供は不思議だった。いくらこの男が強いとしてもここまで余裕があるのはおかしいし仮に従兄弟の勇者でもこの状況は死ぬ確率の方が高いはず生き残れても一ケタ未満の可能性しかないだろう。
「兄ちゃん、何者?」
「俺か?何者かといえばそうさな……」
フードの男がその問いに応えようとした瞬間だった。魔物達も好物を見て「食べたい」という本能が「分からないが危険だ。」という本能を超えて我慢が出来なくなったのだろう、我先にと一斉に飛び出してくる魔物の大群。
数を数えるのも億劫な程の量でこのままだと圧死してから喰われるか、喰い殺されるかぐらいの違いしか残らないだろう。
男が背中の大きな剣を手に取る所まで子供は見たのだが、魔物が襲いかかってくる姿に怯えて目を閉じて、
死を覚悟した。
「お前にとっての勇者ってとこかな。」
剣を一振りした音を聞き、目を開けると……
「……夢か、また懐かしいものをみたもんだ。」
ベッドから起き上がった人物は、夢の出来事を思い出しその言葉が漏れた。
フードで顔を隠した金髪の人物は窓に立てかけ月に照らされていた自分の背丈よりも大きな剣を手に取る。
「それにしてもアレは臭いセリフだったな。」
剣を見つめながらクスッと笑う姿は優しげな雰囲気だ。それほどリラックスしている状況だと言う事だろう。
そんな時ドアの向こうからノックの音が聞こえた。
「お~い、飯出来たらしいぞ。」
「分かった今行く。」
ドア越しにそう呼ばれて金髪の人物は大きな剣を背負って食堂へと向かう。
「もう14年か、時の流れは早いものだ。」
ギスカーン大陸の勇者はそう呟いた。
基本的にはギャグありシリアルありで進めていきますが、プロローグが一番シリアスではないかと……後は基本的にシリアルで進めて行こうと思います。
誤字脱字の報告は勿論、感想待っています。
悪者は小物と大物と狂人の3パターンに相場が決まっていると思います。