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発見

 修一は里美と子供が降りた後はすぐ車を出す気にはならなかった。先ほどの出来事はあまりにも衝撃的であった。突然いなくなった里美が目の前に現れた、これは当然嬉しいことであるし、お互い精一杯生きていることが確認できて、修一にとってとてもよいことであった。いろいろとお互いの誤解も解けた。そして里美の子供は見たところ賢そうな印象を受けた。なかなか将来が楽しみだ、と修一は思っていた。


 しかし、いささか腑に落ちない点もあった。それは、なぜ里美との再会が今日であったのであろうか、ということである。修一がタクシー運転手になってから二、三年あまりであるが、里美が同乗することは一度もなかった。恵比寿に住んでいるなら、修一が毎日通っているルートに入っているし、乗ってくることは考えられるはずである。なぜわざわざ今日なのであろうか。修一にはいくつかの考えがあった。


 一つは、ただ単純に普段は使わないが病院へ急ぐために今日は特別にタクシーを使おうとした、ということである。十分可能性のある考えである。しかしなぜ今日であるかの説明にはなってにはなっていない。ただの偶然であったとは考えられない。


 二つ目に考えられるのは里美とあの女がグルであり、修一と里美が再会できるよう女が仕組んだというものである。あの女は修一のことを十分すぎるほど知っていたし、仕事が探偵のようなものであれば修一の情報を握っていることも説明がつく。しかしそんなことをしてでも会おうとする理由が里美にはない、と修一は思った。修一と寄りを戻したいなら有り得るかもしれないが、夫も子供もいる里美に限ってそんなことはないだろう。


 最後に考えられるのは、今回の再会は、なにかに説明のできないものにより起こされた、というものである。今回のはただの偶然であった、とも考えられるが、修一はやはりあの女の不思議な力によるものではないか、と考えていた。あの女の正体は依然として不明であるが、今朝からの出来事を考えるとやはり只者ではない。とても非科学なことであるが、あの謎な女の言うことを聞いたおかげで先ほどの再会があったのではないか。修一はそう考え始めていた。


 まだなにもわからないが、あの女の言うとおりだとこの先にもなにか起こるはずである。その出来事から謎を解いていくしかない。そう考えながら修一はアクセルを踏み込んだ。



 

 車は明治通り沿いを走っていた。このまま渋谷を通り抜けて目黒の方まで回る予定だった。普段なら渋谷へ行くまでに客がつかまるはずである。しかしこの昼前の時間帯ではそう簡単には客は乗ってこない。こんな時間だとすこし静かなビル沿いに行かなければなかなかいないものである。


 原宿のほうへ出るとそれなりに人が増えてきた。学生は時間的にいないが、ちょっと悪そうな若者がたくさん見られた。


「昼まで客は来ないかな」 修一はつぶやきながら、左右に手を上げているひとがいないか探し始めた。右のほうは手を上げているひとはいなかった。しかし左の車窓を見た瞬間修一は急ブレーキをかけた。そのせいでフロントガラスに置いておいたボックスティッシュが足元に転がってしまったが、修一の視界には入らなかった。


 そのとき修一の目には堂々と歩いている紫のワンピースの女しか映っていなかった。




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