表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

わら

 目覚まし時計がけたたましく産声をあげた。その音で修一は目が覚めた。


窓の外を見てみると空は一面雲が包みこんでいた。修一の心も同じようにすっきりしてはいなかった。そして、寒さと格闘の末なんとか布団から起き上がり、リビングへと向かった。


「一体なんだったんだ」椅子に座りこんでつぶやいてみるが、答えは返ってこなかった。


 修一は朝食のトーストをほおばりながらテレビの電源を入れた。昨日は家に着くと晩御飯を摂らずにすぐに布団へ飛び込んでしまった。そのため今朝は普段以上の食欲を感じた。


「今日は寒気が流れ込んで来ているため、朝から例年以上の寒さに見まわれます」


 画面を見るとニュースでは天気予報がやっていて、アナウンサーと思わしき女性がしゃべっていた。十一月に入ったばかりだが、修一自身もだいぶ寒さを感じていた。この間までの残暑が嘘のようだ。


 朝食を済まし片付けると修一は再び布団に横になっていた。時間にはまだ余裕がある。


(あの女、なにがしたかったんだ)


 考えてもなにも思いつかなかった。あの路地裏に連れて行けば、売春でも親父狩りでもなんでもできた。でも金は一切盗られていない。金が目当てじゃないということになる。でもそうするとなにが目的だったのか。そもそも俺に近づいてきたのは故意なのかたまたまなのか。また、あの占いの道具が用意されているということは以前から準備がされているということになるが、そんな計画的に敷き詰めても実行したい計画があるのか。疑問は湧いてくるばかりだった。


「意味がわかんねえよ」そうつぶやくと修一は起き上がり、仕事へでかけるため身支度を始めた。


 

 他の準備を終え、あとは着替えるだけだった。修一は部屋着からスーツへ着替えている途中、昨晩の女の言葉を思い出していた。


『あなたはきっと明日外に出たとき何かにさわるわ。その一番最初にさわったものを一日全力で守りなさい』頭の中で何度も繰り返し唱えてみる。


「まさか暗号になってるのかっ」一瞬なにか道が開かれたかのように思ったが、どう考えてもそれらしき気配は感じられなかった。そもそもこんな意味のわからない暗号なんて解けるほどの頭脳の持ち主ではない。


 もうあまり気にしなくていいか、そうつぶやき、着替え終わると修一は仕事に出かけることにした。時計を見ると八時を回ったところだった。


 外に出ると家の中以上の寒さを感じた。風も強い。アパートの前に植えられている樹の葉も散り始めている。


「まじかよ、寒すぎだろ」そうつぶやくと修一はポケットから家の鍵を取り出して施錠した。するとあることに気がついた。


「外で触っちゃったじゃねえか・・・」昨日は家の鍵のことをすっかり忘れていて、最初にさわるのは車の鍵だとばかりに思っていた。


(外出たらそりゃ戸締りするよなあ。すっかり忘れてたよ。そうするとなにか、今日はこれを死守しなきゃならないのか。いつも持ってるから特別大切にする必要はないだろ。てか人の家の鍵盗むくらいなら金盗んだほうが早いし。なんだよ悩ませやがって)


 そんなことを考えながら修一はアパートの階段を降りていた。降りてすぐの駐車場には修一の車が止めてあって、それに乗りこんで仕事に出かけるのだった。すると急に修一の足がほつれた。地面に足を滑らせたのだ。


「うわあっ!!」そう叫びながら修一は地面へと一直線に落ちていた。


 そうして声にもならない悲鳴をあげながら地面にぶつかった。全身を強く打ってしまったようだ。


「痛てえよちくしょう・・・」そうつぶやきながら修一はなんとか起き上がることができた。スーツは汚れてしまった。すると修一は手になにか握っていることに気がついた。落ちた拍子につかんでしまったらしい。修一は恐る恐る開いてみた。


「・・・靴ひも?」


 それは確かに汚れて色あせた、白い靴ひもだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ