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第七話 氷の女、妄愛、毒鳥神の巫女

「狂う?私は今までも私の為にしてきただけ。私以外の誰もがどうでもいい。私が大切なのは私だけ。それが今までのヴァーナという女。あんた達が影で私を炎の髪を持った氷の女なんて陰口を叩いた通りだった。つまり私は私の都合で動いてる。確かに少しだけ価値観は変わったけど、私の行動原理は何も変わらない」


ヴァーナはセルベールに嘲笑うように告げる。


セルベールは救援が突如として牙を剥いた事に顔を歪めながらも説得しようとする。


「てめぇはネルヴィナ姫様と親友だろうがよ!姫様も裏切るっていうのか!」


くすくすと、本当に可笑しいものを見るようにヴァーナは笑う。


「私と姫様が親友?違うわ。私と姫様はただの同類。姫様も私と同じで他人などどうでもいい、そう思っているのよ。最も姫様の場合は毒鳥神の巫女ゆえ、でしょうけど。幼い頃から神と契約した者は非常に強い影響を神から受けるから。その事があの人から他人を遠ざけた。まあそんなことはどうでもいいの。準備したせいで少し遅れたけど、私は私の可愛い人を連れていく為にここへ来たんだから」


「可愛い人だぁ?」


「ええ、そこの男の子よ」


そう言って俺を指差す。


『ぎぇぇぇぇ!あやつは変態神オーグゥンの巫女なのじゃ!妾の神聖にして崇高なる肉体を暴力と欲望で汚そうとした神じゃ!妾が殴っても蹴っても悦んで向かってきた怖気の走る輩じゃ!オーグゥンは一万年ほど妾をストーカーし続けたのじゃ!妾が自分の神界を生み出すまでじゃ!美しき妾に求婚する神は山ほどいたが、あれほど気持ち悪かったのはオーグゥン含めて数人じゃ!』


「私達は神と契約すると神の影響を受けるわ。元々、神は自らと存在が似通ったものを愛する。神は子を作れないから代替行為かもね。ただでさえ似ているのに、幼い頃から影響を受ければさらに存在としては似通っていく。私もそうで、もはやオーグゥンの一部、化身とも言える。その代わりに強大な力が貸し与えられるけど。オーグゥンはそこの男の子の契約している女神におぞましいほどの激愛、狂愛を持っていたのよ。監禁してでも、嫌われてでも、暴力を以てでもいいから、巫女と御子を通じてでもいいから、少しでも関わりたい、そこまで狂い抜いている。当然、オーグゥンの化身に近い私も女神に存在が似通った彼に対して近い気持ちを持つ。何もかもが好ましく感じてしまう。まあ母親の好みと娘の好みが似るようなものね。玉座の間で彼を殺せなかったのはそのせい。契約は成されていなくとも、愛する神の存在と似ている気配がしたのね。そう、これが愛なのね。相手を監禁して私以外の何も目に入らないようにしたいわ。私の中で可愛い貴方の価値がどんどん高まっていくの。ああ、そんな怯えた顔もするのね。いい、最高よ」


いや、それは愛じゃないよ!愛だとしても非常に特殊な愛だよ!


うーん、ギャルゲーとかで簡単に好感度が激上がりするキャラみたいな感じかなぁ。


ああいうのって大抵目当てのキャラの攻略を邪魔するんだよなぁ。


「おいまて!アヌゥと付き合ってたんじゃなかったのか!あいつを捨てる気か!」


心底下らないものを見る目でヴァーナはセルベールを見る。


「はぁ?言ったでしょ?私は私にしか興味がなかったと。彼が余りにもしつこいから数度買い物に付き合っただけ。私は唇すら誰にも許した事はない。私に触れていいのは私だけ。これからは彼だけだけど。さて、冥土の土産に説明してあげたけどそろそろ死んでね。私は可愛いお婿さんと山小屋でセックス三昧、そしてたくさん子供を産んで二人で育てるの。通俗的な女の幸せとやらを極めるのよ。子供なんて微塵も興味がなかったけどこの人の子供なら可愛く思える。ううん、生まれてもいないけど既に可愛い」


ぶつぶつくねくねしだしたヴァーナに対して、気持ち悪いものを見たとでもいう苦い顔をセルベールはする。


遠くからセルベールを呼ぶ大勢の声が近付いてくる。アヌゥが救援を呼んだのだろう。


「あら、何だか話していたら邪魔者がうようよ来るみたい。駄目ね、いつもの冷静な判断が出来てない。私の最愛の人の会話になると無限に話が続いてしまう。ふぅ、私も隊長格だけどさすがに複数の隊長格と戦うのは辛いから、逃げましょ愛しい人。退職金代わりに城の財物を色々と盗んできたから欲しいものがあるなら買ってあげる。ああ、セルベール、私は貴方に微塵の興味もないので見逃してあげる。多少は抵抗出来そうだし、面倒そう」


俺をヴァーナは何処かへ連れていこうとするが、差し出された手を俺は取らない。


敵かも知れない者の手など簡単には取れない。もし魔力が充分にあったら即座に光化の魔法で逃走している。


でも逃げた先で他の強い奴と出会ったら終わりだしなぁ。温存したいよなぁ。


あー、怖いよー。舐めるような視線がー。うわー。


「あら?どうしたの?もしかして私は好みじゃないの?一般的に言わなくても私はかなりの美形と自負しているけど。料理も上手だし、貴方に剣神由来とはいえべた惚れだから尽くして尽くしてしょうがないわよ。ああ、やめてね。男特有の論理で長々と弁舌を振るうの。貴方がどれだけ素晴らしい言葉を言おうが意味はないから。そうね、こうするわ」


セルベールに向けていた十本の剣の先が俺を標的とする。


「死にたくなかったら、私と一緒に来て。私の一番の幸せは貴方と共に生きることだけど、二番目の幸せは貴方と共に死ぬことなの。私は別に二番目の幸せを掴んでもいいのよ?最善ではないけれど、それでも充分に幸せだもの。どうしたい?死にたい?生きたい?大分弱ってるみたいだし、選択肢は二つだけよ。さあ、選んで」


姉さんに麻里、あなた達もそうでしたがどうして俺にはこういう愛の重すぎる人しか寄ってこないのでしょうか。


生きたい俺はヴァーナの手を取る。剣を使うのにその掌は驚くほどに柔らかかった。


ただその新鮮なときめきのようなものはヴァーナの手が軟体生物のように蠢いて俺の手を揉み揉みすることで台無しになったが。


何この子、さっきまで無表情だったのに顔をにやにやさせながら俺の手の感触味わってるわぁ。怖いわぁ。


「ああ、ごめん。貴方の手が余りにも素晴らしくて。無事に脱出したら一日中揉ませて。さて、手を取ったということは私のお婿さんになって私に子供を三人以上孕ませて幸せな生活を作ってくれる契約に同意したと見なすわ。ちなみにこの契約は撤回出来ないから」


にこにこ顔で恐ろしい事を言ってくるが、今は我慢の時である。


「ねぇ、大切な事を聞き忘れてたわ。貴方の名前は?」


「神野秀男。名前が秀男だ」


「そう、私の名前はヴァーナ・ジンノよ。これから末長く宜しくね」


もにゅもにゅと先程からこちらの手を掴んで離さない事が感動的になりそうなこの瞬間を台無しにしてるよ。


ぷにぷにもちもちしてて実は大変に気持ちが良いがそれは黙っておく。


二人でぐだぐだ会話をしているといつの間にか騎士達に囲まれていた。


「あれ、まずいわね。隊長格が二人に姫様までいるじゃない。うーん、突破は難しくなったわね。ここで一緒に死ぬ?」


疲労で俺も周りが見えてなかった。くそっ、こんなとこで死ぬのかよ。


『うぬぅぅ!うぬぅ!魔力がないのでは幾らなんでも手助け出来ないのじゃ!安心するのじゃ!死んだら魂は妾の神界に閉じ込めて永遠に二人で幸せに生きるのじゃ!』


何の慰めにもならない上に怖いこと言ってる!こんなんばっかだよ!


騎士達を押し退けて一人の女性が俺達の前に立つ。


黒くて長い髪を腰まで伸ばし、前髪は横一直線に切られており、瞳は紫で切れ長、顔に浮かぶ笑顔は華やかで、まさにお姫様。


青いドレスを姿勢良く着こなす姿は現代日本の高校生である俺からしたら映画の世界だ。


「ああ、僕の親友、ヴァーナ!どうして王家を裏切るような事をしたんだい?どうして僕達の友情を裏切るような事を!」


「ネルヴィナ、演技するならせめて表情くらいは変えなさい。滑稽過ぎるわよ」


「ひどい、ひどいやヴァーナ!わからず屋にはお仕置きだぁ!毒鳥神パトフーイ、やっちゃってぇ!」


ネルヴィナの背後に巨大な紫色の四対の翼が現れる。


「ヒデオ、ネルヴィナの契約により得た力は毒の翼。毒鳥神パトフーイの持つ数百の恐ろしい腐毒の翼を四つ貸し与えられてるわ。貴方の光腕や私の剣神の神器なら耐えられるけど、他の場所なら鎧だろうが盾だろうが溶かし崩されて命に関わるから気をつけて」


紫の毒の翼から羽ばたきと共に空間に致死の羽がばら撒かれた。

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