猫になりたかったの
あなたを見て、毎日思った。猫になりたいと。猫になれれば、あなたに撫でられ、愛され、ずっと一緒にいれた。どうして私は人間なんでしょうね。どうしてあなたは私を愛でてくれないのでしょうね。
「猫みたい」そんな比喩はいらない。撫でないで。また私はあなたに擦り寄ってしまう。
「どうして泣いてるの?」鳴いてなんかないわ。そう。決して鳴いてなんかない。泣いてるのよ。あなたは私なんか本当は見てない。あなたは誰でも愛せるから、私一人の事なんて愛してくれないの。
あなたは人の前では冷たい顔をした。
猫の前では優しく笑った。
犬の前では顔を強ばらせた。だって、犬が怖いんだものね。
だから、私は猫になりたかった。
犬は嫌だった。
人も嫌だった。
けれど、私は人間だから。あなたも人間。
さぁ、なにができるかしら。
手を繋ぐことも
抱き合うことも
キスを交わすことも
一晩寝ることも出来るわ。
そんなことはもうしたわね。いつのことだったかしら。
その行動に愛がないと私は知っていたけど、それでも愛し続けた私は馬鹿ね。
「好きなの」と言い続けた私は馬鹿ね。
さぁ、嘲笑いなさいよ。笑って欲しかったわ。こんな醜い私を。
なのにどうしてあなたは「僕の様にはならないで」と呟いたの?
私は一歩一歩、あなたに追いつこうと、追いかけたのに。
鬼は私だと思っていたわ。鬼はあなただったの?
―おーにさんこっちよ。
あなたが言っていると思った。
違った。
私が言っていた。あなたは追いかけなかった。あなたはあなたのまま、ずっと鬼でいた。
私を鬼にはさせなかったのね。
もう私は、鬼のようになりたいと思ってないよ。
あなたのことを嫌いにもなってないよ。
ただ、もう愛でてくれないのは寂しいなと思ってしまっただけ。