幕間 『時空かくれんぼ』
小学生の頃、よく、かくれんぼをした。
ジャンケンで何故か良く負ける俺は、いつも大抵鬼役をやらされていた。
そのうち、ジャンケンをしなくても、俺が鬼をやるのが恒例化した。
いつも探す役なので、「たまには隠れてみたい」と訴え、鬼役を交換してもらった事がある。
いつもとは違う役割を与えられた俺は、興奮し、気合を入れて隠れた。
意外なところに隠れて、鬼に見つからないよう、息を潜めていた。
日が暮れて、あたりが暗くなっても、隠れていた。
星が出てくる頃になって、様子を伺いに外に、出た。
俺以外の友達は、全員、帰っていた。
多分、殺人の動機なんてそんなものなんだろうな、と思う。
足元に転がる女の死体を眺めながら、漠然とそんな事を感じた。
そうすると、あの時俺を置いて帰った友人達は、間接的に彼女を殺した事になるのだろうか。
――夜の街。帰宅している俺の前を、この女が歩いていた事がきっかけだった。
ふと、振り返って俺を視界に入れた彼女は、少し、歩く速度を上げた。
まぁ、夜遅いし、独りで帰宅する女性なら、当然の用心といえない事も無いが。
しかしその時、俺は無能な上司の小言やら、職場の煩わしい人間関係やらにうんざりして、とても疲れていたので――、
なんとなく、その行為が癇に障り、
気付いたら、追いかけていた。
――なんで逃げるんだよ。俺は鬼か。
かくれんぼでもしようか。なんなら鬼ごっこでもいい。
俺が速度を上げたのに気付き、驚く彼女。
慌てて再び速度を上昇させる。
ちょっと、面白くなった。
俺に追跡されたまま、自宅に戻るのは不味いと判断したのか、彼女は狭い道を走るように逃げていった。
しかし、その判断は間違っている。
本来逃げるべきは、広い人通りの多い道だ。
人が少なく、カモフラージュ出来ない状況では、相当な体力差が無い場合、まず撒かれない。
で、今に至る。
倒れた女性。
俺。
煙を銃口から吐き出す"拳銃"。
ゴミ捨て場まで追い詰めたから、試しに銃で撃ってみた。
まさか初弾で頭に当たるとは思わなかったけど。
俺には銃の才能があるのかもしれない。
まぁ、そんなものがあったとしても、大して役に立つとは思えないが。
ふと思い立って、彼女を観察してみる。
華奢な身体。
派手な服装。
顔の左半分が吹っ飛んで、脳漿がはみ出している事を除けば、それなりに綺麗な、化粧の厚い顔。
人形みたいだな、と思った。
ちょっと、壊したくなって、もう一発、銃弾を撃つ。
乾いた銃声と同時に、彼女の右顔面が吹き飛ぶ。
さらにもう一発。
響く銃声。
飛び散る血肉。
もう一発。
銃声。
肉。
もう一発。
銃声。
肉。
もう一発。
銃声。
肉。
段々興奮してきた。これは、楽しい。
綺麗な人形を壊す、快感。それが元々は生きた人間だったのだという事実からの、背徳感により更に高まる。
もう一発、撃とうとした所で、腑抜けた音を銃が出し、弾丸切れを俺に知らせる。
――しまった。予備の弾丸は家にしか、無い。
それにこれだけ銃声を響かせたんだ。
そろそろ人が集まるかもしれない。
俺は後ろ髪引かれる思いをしながらも、もっと壊したいという願望を押さえ込み、帰路へとついた。
だけど、うん、そうだな。
次はもっと人形で遊びたいな。