隠れ家レストラン まんまと戦場に行かされた件スピンアウト 散文詩
隠れ家レストランに初入店 まんまと戦場に行かされた件 抜粋
ドラマを詩のように書いて能の幽玄ぽい世界を作りました。散文詩として発表します。
隠れ家レストランに八十島が招待された場面です。
これで、興味が出たら本編もお楽しみください。
ビルの外は暗くなり、既に夕餉の屋台に向かう街の人々の生活が始まっていた。
受付の裏に回ると表の人々の気配は消え。地下に向かう階段は電球色のランプで灯されていた。夕暮れが似合うレストランを演出しているのだろうか。
ドアノブに手をかける。
と、後ろから風が吹いた。
吸い込まれた。
八十島海人にドアを開けた記憶はない。
吸引されたと思ったという。
丈夫そうな木製ドアがあったのにそのドアに吸い込まれた。
前に倒れそうになった。
倒れまいと片足を一歩踏み出した。
その片足が「砂」に埋もれる。
気付いたら、そこにいた。
目の前に広がるのは夕映えの砂浜。
両足が砂を踏んでいる。
振り返ると入ってきたドアは遠くだ。
「ここ何処なんや」
「ここが隠れ家レストランなんか?」
隠れ家レストランは部屋なのに部屋ではなかった。
「半野外」だった。
天井が天空に溶け込み雲が浮く。
床と壁が砂浜や松林と一体化して、空と海が青く細い線で繋がっている。
まさに水天、髣髴として青一髪だ。
波の音も聞こえる。
その空は日没前の空
西の空に太陽と夕焼雲
夕焼雲の裂け目にポツリと宵の明星
正面の低い空に赤く染まる綿雲
天高く黄色に染まる鰯雲
東の空にぼんやり白い月
未だ真っ青な空に満月が見えている
八十島はきょろきょろと周囲を見回す
「八十島様」
あの風、爽籟が八十島の背に当たった
そう感じた
後ろを見ると宙に浮かぶ黒霞から、娘がキラッと光って現れた。
膝を隠したスカートの裾が
爽籟に揺れる
『メイド服だ。
一瞬、別人や思うた』
「八十島様、こちらへ」
八十島は、その声で、あの黒い影から現れた光の麗人と同一人物で間違いないと分かった。
爽籟、秋風を纏う光の麗人、奥山紅葉。
八十島海人はメイド姿の奥山紅葉についていく。
周りの景色全体が
紅葉を中心にして
高速で動いている
すべてが移動している中心に紅葉がいる
紅葉の前方に沈みかけの紅い太陽
そのうえに眩しく輝く宵の明星
後ろに月があるのだろうが、見えない
光の波が津波のように
前から寄せて来て、
全てを後ろに押し流して行く
前を歩む紅葉の後ろ姿は
真っ黒な影の輪郭となって
光の津波に立ちはだかる
その凛としたメイドの黒影が
光の海を鋭利に切り裂いてなびきながら
進む
やがて円形のカウンター席の奥に僕を導くと、カウンターの一部を跳ね上げてその中に入った。
『不思議や。飲食スペースには砂が一粒たりとも吹き込んどらん』
カウンター席に座ると、いつの間にか、景色が元通りになっていた。
目の前にはテーブルを隔ててメイド姿の奥山紅葉がいる。
その後ろに夕映えの浜が広がっている。
ちなみにメイド服はひざを隠すクラッシックなものだ。
『ミニのメイド姿も見てみたい』
だが、八十島は思わず考えてることと全く違うことを口に出していた。
「夜もここで働いとるの?」
八十島は思った。
「本当は
『ここは何処、さっきの入り口は何、ほんで、あんたはいったい何処から《出現》したの』
と質問すべきやったやろうか?
ちなみに、カウンター席までに歩いた際に見えたもんは全て幻影に違いないよなぁ。
そのほうがこの場合自然やし、正しい質問やったはずや。
でもなんでか出来へんかった。
絵のような絶景とモデルのような美人が同時に現れたからやな。
僕は昔から美しいもんに弱い。つい無中になってしまうんや。そのせいかもしれへんな。
せやけどこの違和感はなんやろう。
僕が昼寝の起き抜けで、寝ぼけてボーとして歩いとったから、
ここがどこやか、居場所が分かれへんなっただけや。自分を見失ったちゅうわけやない。
ウン、ウンそうや。幻影や」
と。




