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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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30/31

☆30かいめ☆ 魔王(の娘)降臨・リターンズ

公園での大勝利(?)の余韻を胸に、ラビリスは意気揚々と歩いて(迷って)いた。


「……ふむ。しかし、この世界は無駄に高い建造物が多いのぅ。空も狭い。人間どもは息苦しくはないのか?」


ぶつぶつと文句を垂れながらアスファルトの上を進んでいると、やがて視界が少し開けた場所に、ポツンと建つ平屋建ての建造物を見つけた。



「ほぅ。ここは空が広くてよいところじゃな。……む?何やら妙な建造物があるが……」


ラビリスは興味津々にその四角い建物へと歩を進め、その壁面を前にして驚愕に目を見開いた。


「ば、馬鹿な!壁一面が透明なガラスでできておるじゃと!?一体どうなっておるのじゃ、この世界は!?」


重厚な石造りの城しか知らない彼女にとって、それはあまりにも無防備で、かつ高度な魔法技術に見えた。

そのピカピカのガラス張りの壁面に吸い寄せられるように、彼女はとことことさらに近づいていく。



「……なにやら中には色とりどりの物資が並んでおるし、煌々と光り輝いておる……賑やかな内装じゃな」


偵察のため、覗き込むようにガラスの扉の前に立った、その瞬間。


ウィーン。


無機質な機械音と共に、ガラス張りの扉が勝手に左右へと開いた。


(なっ!……余の覇気を感じ取ったのか、扉がひとりでに道を開きおったぞ……!)



ラビリスはゴクリと息を呑んだ後、フッと不敵な笑みを浮かべた。


「……よかろう。この見事な造りの城、余が直々に中を視察してやろうではないか」


自動ドアに対してこれ以上ないほどのドヤ顔を見せつけ、魔王の娘はその建造物の中へと堂々と侵入した。





――一方、同時刻。


「ふぅ……。だいぶ落ち着いてきたな」


昼のピークの戦場を乗り越え、大地は肩をぐるぐると回しながら息を吐いた。


「それじゃ、俺はちょっとバックヤードで発注と書類の整理をしてくるから、しばらく店の方は二人に任せるぞ?」


彼はバックヤードへと続く扉のドアノブに手をかけ、レジカウンターに立つアルバイトの二人に声をかけた。


「承知しました。お疲れ様です」

「りょーかーい!」


蓮とヒナの頼もしい返事を聞き、大地は安堵と共にバックヤードの扉を開けた。

まさにその時、店の入り口から入店を知らせるチャイムが鳴り響こうとしていた。




バタンと扉が閉まり、大地の姿が完全に消えたと同時。


ポロロロロン♪


のどかな入店チャイムの音が、店内に響き渡った。


「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませ」


レジカウンターに立っていたヒナと蓮は、条件反射で声を上げ、自動ドアへと視線を向ける。

そして――二人の思考回路は、その瞬間にショートし、ピタリと停止した。



開かれた自動ドアの向こうから現れたのは、漆黒の豪奢なゴシックドレスを纏った、銀髪の少女。

透き通るような白い肌に、宝石のように輝く真紅の瞳。

その幼い容姿に似合わない、どこか尊大かつ威風堂々とした足取りで、彼女は「ふむ……」と店内を見渡している。


「な、なんじゃこの光の粒に満ちた空間は。天井から降り注ぐこの眩さは……魔法の光源か!?」


ラビリスが照明の光に目を細め、小さく感嘆の声を漏らす。

その一挙手一投足が、レジに立つ若きアルバイト二人の脳髄に、致死量の雷を落としていた。





(……っっっっ!?!?ヤッッッバ!!!!!)


ヒナは心の中で、メガホンを持って絶叫した。

持ち前のギャル的直感が、警報のようにけたたましく鳴り響いている。


(え、なにあの服!?超絶クオリティ高くない!?てか顔!顔が良すぎる!お人形さん!?いや、マジ天使!?激カワ通り越して神じゃん!!!ヤバいヤバい、尊すぎて吐きそう!!)


あまりの可愛さに、ヒナは口元を両手で覆い、ぷるぷると震え始めた。

今すぐスマホを取り出して連写し、「#リアル天使 #激カワすぎる迷子」とSNSにアップしたい衝動を、接客業の理性でギリギリ押さえ込んでいる状態だ。




一方、その隣に立つ法学部生・二階堂 蓮。

彼は表面上、いつもの冷徹な無表情を1ミリも崩していなかった。

メガネの奥の瞳も、静かに新入りの客を捉えているだけに見える。


しかし、彼の中の『決して開けてはならない扉』は、今まさに音を立てて吹き飛んでいた。


(……推定年齢、七歳前後。衣服の損耗は見られず、しかし歩き方には妙な気品と威厳がある。迷子の可能性が極めて高いが……いや、今はそんな法的な解釈はどうでもいい)


蓮は無表情のまま、レジ台を掴む指先にギリッと力を込めた。


(……完璧だ。なんだあの、小さく、尊く、守護すべき神聖なる存在は。黄金比すら超越したあの奇跡的な愛らしさ……!)


彼の脳内法廷では、すでに満場一致で一つの判決が下されていた。


――『国宝』に指定する。即座に、だ。


この穢れ多き現代社会において、あのような無垢なる(ように見える)存在が一人で歩いているなど、あってはならない。

全力で保護し、崇め、外敵から徹底的に守り抜かねばならない。

彼の内なる聖母信仰(ロリコン魂)が、かつてない激しさで燃え上がっていた。



「……蓮パイ」


「……なんでしょうか、千家さん」


二人は、ラビリスから一秒たりとも視線を外さないまま、小声で言葉を交わす。


「あれ、ヤバくない?マジで妖精さん迷い込んできた系?」


「……ええ。少なくとも、我が国の重要文化財保護法を法改正してでも、直ちに私的に保護すべき対象であることは疑いようがありません」


「言ってんのキモいけど、今回だけは激しく同意するわ」


二者二様のベクトルで限界を迎えつつある二人の熱視線を浴びているとも知らず、魔王の娘はコンビニという名の『魔法の城』の探索を、意気揚々と開始しようとしていた。





――その頃、バックヤードの大地は。


「ふぅ、やっぱりこの時間にお茶飲むとホッとするな」


などと独り言を言いながら、のんきに発注端末をポチポチと叩いていた。

まさか表の売り場で、自分の有能な右腕たちが、自分の隠し玉(魔王の娘)によって完膚なきまでに陥落させられているなどとは、夢にも思わずに。





ラビリスは店内をぐるりと見渡した後、魔法の城(コンビニ)を管理しているとおぼしき二人の兵士(店員)に狙いを定めた。


レジカウンターに向かって、漆黒のドレスを揺らしながら堂々と歩み寄る。

そして、いかにも知的な書記官といった風貌の、眼鏡の青年()を見上げてビシッと指を突きつけた。


「おい、そこの眼鏡の男!余は視察に来た。この眩い光に満ちた建造物は、一体何をするための城じゃ?答えるがよい!」


「…………ッ!!」


真正面から見下ろされ(※物理的には見上げられているが)、高圧的なお言葉を賜った瞬間。

二階堂 蓮の脳内法廷は、歓喜のスタンディングオベーションに包まれた。



(な、なんという事だ……!こんなに幼い容姿でありながら、今の威厳に満ちた語彙力……!アニメやゲームの真似事ではない、言葉の端々から滲み出る圧倒的な『知性』と『気品』!まるで高貴な血筋の王女が、お忍びで下界を視察されているかのようだ……ッ!尊い、尊すぎる……!!)


蓮は表面上は微動だにしていなかったが、その実、限界を超えた興奮により完全に言語野がフリーズしていた。


「……あ、……その、当施設は……りゅう、流ちゅう(流通)における……」


口をパクパクとさせるだけで、まともな音声が出ない。

大地の前では常に流暢に正論を叩きつける冷徹な法学部生が、ただのポンコツと化していた。



「なんじゃ、口のきけぬポンコツか。えぇい、使えぬ奴め!」


ラビリスが呆れてため息をついた、その時。


「ちょっと蓮パイ、使い物になってないじゃん!どいてどいて!」


痺れを切らしたヒナが、蓮を突き飛ばすようにしてカウンターから身を乗り出した。

彼女の目は、推しのライブ最前列を引き当てたファンのようにキラキラと輝いている。



「ねぇねぇお嬢さん!超絶可愛いね!?てかその服めっちゃ似合ってる!どっから来たの?迷子さん?」


ヒナは極限まで声を上ずらせながら、ラビリスに顔を近づけた。

そのあまりのテンションの高さに、魔王の娘は一瞬「ヒッ」と怯みそうになったが、そこは威厳でカバーする。


「ま、迷子ではないわ!気安く顔を近づけるな、下民が!余は魔王の娘、ラビリスぞ!」


フンス!と胸を張り、最高にドヤ顔で言い放った。

それを聞いたヒナは、一瞬だけ時を止めた後、カウンターに突っ伏して両手で顔を覆った。


(……ッッッッ!!ヤバい!!なにそれ!?『魔王の娘』!?設定作り込みすぎでしょ!!しかも『下民』って言われた!ご褒美じゃん!!尊すぎて心臓痛い!!ムリ!!)


ヒナのHPは、一撃で0になった。

彼女は机に突っ伏したまま、プルプルと震えながら呻き声を上げる。


「くぅ〜〜っ!マジ天使……いや魔王様……!設定守ってて偉すぎる……アタシの魂、生贄に捧げたい……」


「……は?」


ラビリスはポカンと口を開けた。

威嚇したはずなのに、一人は完全に沈黙し、もう一人は机に突っ伏して身悶えている。

人間の兵士は、どうやら魔族の者よりも遥かに精神構造が脆弱らしい。



「ふ、ふん。余の覇気に当てられ、ひれ伏しおったか。他愛のない奴め……」


ラビリスがそう結論づけ、再び一人で勝ち誇っていた、まさにその時。



ガチャ。


「あー、やっぱり発注端末の調子がおかしいな。……ん?どうしたお前ら。急に静かになっ――」


バックヤードから、ついに彼らの管理者であり、ラビリスの保護者でもあるコンビニ店長が姿を現したのだった。

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