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どうやら魔王の娘を拾ったようです。〜コンビニ店長(39)のほのぼの奮闘記〜  作者: 彩月鳴


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☆28かいめ☆ いざ出陣!初めての単独任務(散歩)!

一方、時間は遡り――大地の出勤直後。


ガチャン、という冷たい金属音が響き、ドアが完全に閉ざされた。


「……ふむ。行ってしもうたか」


ドアの向こう側で、大地の足音がコンコンと廊下の奥へ遠ざかっていく。

それが完全に聞こえなくなるのを見計らってから、ラビリスはポツリと独りごちた。



さっきまでの朝の慌ただしさが嘘のように、部屋の中に静寂が降りてくる。

聞こえるのは、冷蔵庫の低いモーター音と、窓の外を走る車の音だけだ。


「……さて」


ラビリスはパンッと一つ手を叩き、首から下げた「城の鍵」をチャリッと鳴らした。

寂しさなど微塵もない、と言わんばかりに胸を張って振り返る。


「大地という主戦力が欠けた以上、この城の守護は余と配下たちで固めるしかあるまい」


彼女の視線の先には、キャットタワーの上で「なんの騒ぎだ」と大あくびをしている黒猫のリキ。

そして、新しいベッドの上に鎮座するウサギウス一世(+玉子侍)の姿があった。



「聞け、配下たちよ!これより『第一次・城塞防衛作戦』を開始する!まずは城門の封鎖じゃ!」


ラビリスはぶつぶつと呟きながら、教わった通りに玄関の鍵のツマミを回し、さらに重いチェーンロックをガチャリと念入りにかけた。


これで外からの侵入者は完全に防げる。

完璧な防衛陣形を敷き終えた魔王の娘は、満足げに頷くと、スリッパをぺたぺたと鳴らして部屋の奥へと進軍していった。




「まずは、この世界の『情報収集』じゃな」


ラビリスは腕を組み、部屋の隅に設置されている薄型のテレビを睨みつけた。

大地から「赤いボタンを押せば映る」と教わった、黒い棒(リモコン)を手に取る。

恐る恐る、しかし魔王の娘らしく威厳を保ちながら、親指でポチリと赤いボタンを押した。


ピッ。


『――というわけで、昨晩の不倫騒動についてですが……』


画面がパッと明るくなり、朝のワイドショー番組が映し出された。

スーツ姿の人間たちが、巨大なフリップボードを囲んで深刻そうな顔で議論を交わしている。


「ほぅ。朝から賢者たちが集い、何やら重大な軍議を開いておるようじゃな」


ラビリスは感心したように頷き、画面の前にちょこんと座った。



「……む?『有名俳優の隠し子疑惑』じゃと?なんじゃそれは。他人の色恋沙汰など、我ら魔族は下級のゴブリンですら話題にせんぞ。人間界とは、かくも平和で退屈なところなのか?」


呆れ返りながらも、彼女は画面から目を離さない。

未知の文化に対する好奇心には勝てないのだ。



しばらく「ほほぅ」や「くだらぬ」と相槌を打ちながら見ていると、ふいに番組のコーナーが切り替わった。


『続いては、春のお出かけスポット!都内に新しくオープンした、超大型の公園をご紹介しまーす!』


明るい音楽と共に映し出されたのは、広大な土のグラウンドと、その中央にそびえ立つ巨大な複合遊具だった。

赤や青で彩られた、ジャングルジム、巨大なチューブスライダー、そしてターザンロープ。

そこを、小学生くらいの子供たちが奇声を上げながら駆け回っている。


「……なっ!?」


ラビリスは身を乗り出した。


「な、なんじゃあの巨大な鋼鉄の砦は……!?複雑に入り組んだ鉄の迷路(ジャングルジム)をよじ登り、恐るべき高所から一気に滑り落ちておるぞ!しかも、あの中空を滑空する縄(ターザンロープ)の機動力……!」


画面の中では、無邪気な子供たちが次々とアスレチックをクリアしていく。



「見よ、あの若き兵士たちを。恐怖など微塵も感じさせず、雄叫びを上げて過酷な障害物に挑んでおるではないか……!」


ラビリスの真紅の瞳が、興奮と闘志にカッと見開かれた。


「そうか……!あれが人間どもの『修練場』か!!」


完全に解釈が明後日の方向へと飛んでいった。

彼女の中で、あのカラフルな公園は「幼少期から戦士を育成するための過酷な軍事施設」としてインプットされたのだ。


「……ふふ、ふふふ。なるほどな」


ラビリスは口元に不敵な笑みを浮かべた。


「平和ボケした世界かと思うたが、裏ではあのようにして己の牙を研いでいたというわけじゃな。人間どもも、存外侮れん種族のようじゃ」




ピッ。


テレビの電源を切り、興味を失ったように立ち上がる。


「ふん、まぁよい。所詮は下等生物の戯れじゃ」


彼女はベッドに戻ると、鎮座していたウサギウス一世をそっと抱き上げた。


「ウサギウスよ、そなたも退屈であろう。特別に、余が直々に撫でてやるぞ」


もふもふとした頭を優しく撫でながら、一人で語りかける。

だが、相手は忠実なる無言の騎士だ。

「うむ、大儀である」と一人芝居を続けても、5分もすれば限界が来る。




「……つまらぬ」


ウサギウスを丁寧に枕元の定位置に戻し、大きなため息をついた。

リキはキャットタワーの最上段で丸くなり、微動だにしない。

部屋に満ちる、圧倒的な退屈。



……ぐぅ。


その時、ラビリスの腹の虫が、退屈を打ち破るように小さく鳴いた。


「……ふむ。腹が減っては戦ができぬと言うしな。兵糧の確認といくか」


彼女はスリッパをぺたぺたと鳴らし、キッチンへと向かった。

大地に教わった通り、冷蔵庫の扉を開ける。

ちょうどラビリスの目線にある棚に、ラップに包まれた黒い塊が二つ置かれている。

ご丁寧に『昼飯用。レンジで1分温めろ』という大地の走り書きメモ付きだ。



「……ふん、気が利くではないか」


ラビリスは指示通りに「レンジ」なる魔法の箱で温め、熱々の塊――おにぎりを手に取った。

包みを開けると、海苔の香ばしい匂いが広がる。


一口、かぶりつく。


「……んんっ!?」


中から溢れ出したのは、ほぐした魚肉と、酸味とコクが絶妙に絡み合った白い魔性のソース。


「な、なんじゃこれは……!?この白い練り物、ただならぬ中毒性があるぞ!?口の中で魚の旨味が爆発しおるわ!」


それは、魔界には存在しない味の革命。

ラビリスは夢中でおにぎり(ツナマヨ)を平らげた。

二つ目も瞬殺だった。



「ふぅ……。人間の食文化、恐るべし……」


満腹になり、ソファで満足げに腹をさする。

エネルギーが充填されると、再び退屈が首をもたげてきた。



(……そういえば)


脳裏をよぎったのは、さっきテレビで見た「鋼鉄の修練場(公園)」の映像だ。

楽しそうに、いや、勇敢に鉄の砦に挑んでいた幼き戦士たち。


(『散歩ぐらいなら出かけてもよい』と言っておったな。……これは散歩の延長線上にある、重要な『視察』じゃ)


都合の良い解釈が完了した。

ラビリスは決意の表情で立ち上がり、ハンガーラックの前で腕を組んだ。


「さて、衣装は何にするか。先日大地が用意した動きやすい服もあるが……」



彼女は少し考えた後、ラックに丁寧に掛けられていた自分の服――豪奢なフリルとリボンがあしらわれた、漆黒のゴシックドレスに手を伸ばした。

この世界に転移してきたときに着用していた、彼女本来の衣服だ。

大地の手によって綺麗に洗濯され、シワひとつなく掛けられている。


「ふん。やはり初めての単独での公式な視察じゃ。人間どもに魔王の娘としての威厳を知らしめるには、この正装しかあるまい!」


(※注:端から見れば、平日の昼間にガチのゴスロリ衣装を着て歩き回る、かなり目立つ子供です)



手早くドレスに着替えたラビリスは、最後にウサギウスの隣に鎮座していた配下――「玉子侍」のキーホルダーを手に取り、ドレスのポケットにねじ込んだ。


「……貴様を余の護衛に任命する。名誉に思え」


準備万端。

魔王の娘は、初めての単独任務へと赴くべく、意気揚々と玄関へと向かった。

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