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終幕 名刀・天晴 その五 “孤高の雇われ侍・霧島天晴”

 数日後。

 霧島天晴(きりしまてんせい)の最期は、仲間たちへと静かに伝えられた。


 まず、涼川定平(すずかわさだひら)の屋敷。

 報せを聞いた定平はしばし黙し、やがて深く息を吐いた。


「……惜しい男を失ったな」


 そう言って目をつぶり、眉間にしわを寄せる。


 傍らに控えていた酒倉大和(さかくらやまと)も、強く拳を握りしめる。


「天晴さんのような者は、二度と現れぬでしょう。……我らが語り継がねば」


 定平は頷き、眼差しを遠くにやった。


「うむ。武士である以前に、一人の人として……後の世に残さねばならぬ」


 屋敷にいる家臣や女中も、天晴の活躍や定平と共に行動していたことは知っていたので、みんな残念そうに思っていた。


 黒布(くろぬの)の隠れ家では、また違う反応があった。

 黒布の頭領・(じん)は報告を受けると、しばらく目を伏せたまま言葉を探すように黙っていた。

 やがて、低く重い声で呟く。


「……残念だ。奴ほど頼りになる者はなかった」


 その声音には悔恨も未練もなく、ただ一人の侍を、友人を失った寂寥だけが滲んでいた。


 そして、美乃(みの)

 報せを受けた美乃は、(こと)の胸に顔を埋め、子どものように泣きじゃくった。


「やだよ……天晴さん、あんなに強かったのに……!」


 琴は彼女を抱きしめ、震える背を優しく撫でる。

 涙に濡れた声で、それでも真っ直ぐに言った。


「……大丈夫。天晴さんは、生き続けてる。私たちが忘れない限り」


 その言葉に、美乃は嗚咽を止められず、それでも小さく頷いた。


 天晴の死は、多くの者の心に深い痕跡を残した。

 それぞれの胸の奥で……彼の存在は、消えることなく燃え続けていた。


──────


 一年が過ぎた。

 四季は巡り、山の木々は再び緑をまとった。

 桃色の花を咲かせたさざんかが、天晴を見守っている。


 天晴の墓前には、懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 涼川定平は正装で姿を見せ、墓の前に手を合わせる。


「天晴殿……今年も国は乱れている。だが……あなたが守ったものを、私は確かに守り続けている」


 酒倉大和は腰の刀に手を置き、凛とした表情で立つ。


「天晴殿。私も日々、特技を高めるようにしています。いつか……天晴殿に誇れる人になりますね」


 美乃は小さな花束を抱え、墓の前にそっと置いた。


「天晴さん。私、ようやく家族を安心させられるようになったよ。……まだ泣き虫だけど、頑張ってる」


 目尻に光る涙を拭いながら、彼女は笑顔を作った。


 琴はその横に立ち、静かに瞼を閉じた。


「天晴さん。私、本を書きました。あなたの本で、私を守ってきれたこと、こんなに凄い人だってこと、たくさん書きました。私のこと……どうか見ていてください」


 そして、(はがね)

 彼は墓前に跪き、力強く土に触れた。


「天晴……俺、鍛冶場を一般に開くことにしたんだ。いっつも金持ってきてくれるあんたはもういないし、自分で稼がないとな。そこで来てくれた人に、あんたのこと教えるんだ。『この刀、凄いだろう?俺が作った刀で、親友が使ってたんだ』って……」


 その瞳は潤んでいたが、決して曇りはなかった。


 全員の視線の先で、墓に突き立てられた名刀が陽の光を浴びて鈍く光る。

 その輝きは、まるでまだ天晴が立っているかのように力強かった。


 彼の名は……霧島天晴。

 自由のために戦った、孤高の雇われ侍である。


 その魂は、今もなお風と共に在り、語り継がれていくのだった。



作者の一言

こんにちは、シエルです!

「天晴ッ!孤高の雇われ侍」無事完結しました!

まだ書きたい物語はありますので、もし興味を持ってくれたら、他の話も読んでくれると嬉しいです。

それではまた……

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