終幕 名刀・天晴 その二 名刀・天晴
琴は土埃を蹴り上げながら、倒れた黒曜兵から刀を抜き取った。
息は荒く、腕も震えている。それでも目の奥の光は消えない。
「……こっち!」
叫びと同時に、刀を大きく振りかぶり、黒曜幹部めがけて投げ放つ。
刃は回転しながら宙を裂き、幹部の槍の柄にガンッと当たって逸れた。
命を奪う一撃ではない。だが、その一瞬、槍の動きが止まる。
そこへ霧島天晴が駆け込む。
「天ノ技・朝露」
地を這うような低い踏み込みで懐に潜り込み、懐を狙った攻撃。
しかし幹部は上半身を大きく捻ってそれを躱し、逆に槍の石突で天晴の肩を弾き飛ばす。
「くっ……」
よろめきながらも、天晴は再び距離を取る。
その間に琴はもう一本、刃を拾い、構えも取らず投げ放った。
狙いは正確に幹部の膝。
ガキン、と硬い音を立てて弾かれたが、幹部の膝がわずかに沈み、体重が偏る。
「……ッ!」
天晴の眼が鋭く光る。その一瞬の重心の乱れを見逃さず、踏み込む。
しかし幹部はすぐに槍を立て直し、刃を防ぐ。
「ちっ……」
歯噛みしながら天晴は下がる。だが琴の動きは止まらない。
彼女は兵の死体から抜いた刃を両手に持ち、左右交互に、間を置かず投げ続けた。
一撃ごとに、幹部は避け、払うために体勢を崩し、その隙を天晴が狙う。
避けきれない刃は腕や肩を掠め、細い傷を刻んでいく。
「……この女がっ…!」
怒声と共に幹部が琴へ踏み出す。
槍の穂先が風を裂き、地面を穿つ。土と石が弾ける中、琴は後退しながらも投擲の手を止めない。
その攻防の間、天晴は幹部の背後に回り込み、腰を捻った。
「……ッ!」
刀が走る。幹部はそれを辛うじて受け止めたが、力任せに押し返す余裕はない。
琴の刃が再び飛び、幹部の右腕をかすめた。瞬間、槍の動きが鈍る。
(今だ……!)
天晴は間髪入れず、踏み込みと同時に斬撃を繰り出した。
鋭い音と共に、幹部の肩口が裂け、鮮血が迸る。
その巨体が大きくよろめき、土煙が舞い上がった。
琴がさらに刀を投げる。
一本は腕に、一本は足元に突き刺さり、幹部の動きを止めた。
だが……
「……まだ、倒れんぞ…!」
幹部の声は濁っていながらも、底の見えない執念を孕んでいた。
槍を振るう腕にはまだ力が残り、その一撃は周囲の空気を裂いて轟音を響かせる。
天晴は即座に後退し、琴もまた距離を取る。
傷は確かに深い。
だが、その巨躯は未だ戦場に立ち、鬼の形相で二人を睨み据えていた。
(……化け物め。だが、必ず倒す)
天晴は刀を握り直し、再び低く構えた。
琴もまた、震える膝を叱咤して次の刃を拾い上げる。
幹部が踏み込み、長槍の穂先が地面をえぐる。
天晴は後退しながらも、目を逸らさずに間合いを測った。
その時……
ガンッ、と甲高い音を立てて、一本の刀が天晴の目の前に突き立った。
刃は陽光を受けて眩く輝き、柄には見慣れた刻印が刻まれている。
「……!」
振り返ると、森の木陰から鋼が歩み出てきた。
汗で額を濡らしながらも、口元には自信の笑みを浮かべている。
「天晴、待たせたな!」
鋼は声を張り上げ、突き立った刀を顎で示す。
「あんたの刀……名刀・天晴だ!」
天晴は刃を引き抜き、その重量を確かめる。
手にした瞬間、驚くほど自然に掌へと馴染んだ。
まるで生まれた時からこの刀と共にあったかのように、腕と一体となる感覚。
握る指先から伝わるのは、鋼が研ぎ澄ました刃の冷たさと、確かな命の鼓動だった。
「……手に馴染む…これ以上ない出来だ」
視線を幹部へと戻す。
鬼面の奥の瞳が、一瞬だけ鋭さを増す。
天晴は構え直し、唇の端をわずかに上げた。
「さぁ、終わりにしようか」
その声には、揺るぎない決意と、刃よりも鋭い気迫が宿っていた。
終幕その三に続く
後日談 大和
狸を捕まえた後、大和は本部の特定に務めた。その友好的な性格で、狸も簡単に心を許してしまい、居場所を吐いたと言う。これは下手な拷問よりも効果があったと言うが……




