第8話 沈黙の王妃、そして暗躍する者
マリーが結婚初夜を過ごしているころ。城の奥深くにある側妃アルマの私室では、静かな会話が交わされていた。
暗くしっとりとした室内には甘い香りのお香が漂い、仄暗い光が揺れている。
アルマは無表情のままカップを手に取り、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。すぐそばには、侍女のイーラが控え、沈黙を守っている。
目の前には、ノエルの専属薬師が静かに立っていた。
「――ノエル殿下の呪いは日々、悪化しております」
薬師の報告に、アルマはわずかに瞼を伏せた。
「そう」
「抑制薬で様子を見ていますが、専属薬師の意見としましては……」
「それ以上はいいわ」
興味なさげに、アルマは薬師に目を向けることもなく、カップをソーサーに静かに置いた。
その仕草を見て、薬師はそれ以上何も言わず、侍女のイーラに目配せされながら部屋を後にする。
「貴方の腕には期待しています。今後とも、よろしくお願いしますね」
イーラの微笑を向けられ、薬師は静かに頷いた。
「……かしこまりました」
そのまま廊下へと出る。
ノエルの専属薬師は、そっと背後の扉を振り返った。
(王妃様は相変わらず息子に無関心、か。可哀想な殿下……だが、我が目的のため、この立場を利用させてもらうぞ)
彼の瞳には、静かな企みの光が宿っていた。