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【祝コミカライズ】銀狼殿下の専属薬師~冷酷な狼王子は私にしか懐かない~  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第44話 街長邸にて

 港町ズッパの街長邸は、豪奢でありながらどこか荒々しさを残していた。


 分厚い石壁には潮風で削れた傷が走り、床には異国風の絨毯が無造作に敷かれている。開け放たれた窓からは、海の匂いと香辛料の刺激的な香りが流れ込み、港町らしい喧騒がかすかに聞こえていた。


 重厚な扉が開いた瞬間、私たちはその中心に立つ大男と対面する。


 眼帯をした精悍な顔立ち。胸元を大きくはだけた服から覗く筋肉は、鍛え上げられていて、まるで海賊そのもの。


「殿下! ようこそいらっしゃいました――!」


 豪快な笑みとともに、街長は大きな声で迎えてくれた。


(……すごい迫力)


 思わず一歩引きそうになる私を、ノエルがさりげなく庇うように前に出る。


(少し前まで、この港街では狼牙が蔓延していた。そんな場所に、薬師協会経由で私が開発した予防薬が提供された。その功績への感謝と、今後の交流強化のために、街長が正式に招待してくれた――らしい)


「堅苦しい挨拶は不要だ」


 ノエルは淡々と告げる。


「……彼女を休ませたい。要件は手短に頼む」


「(一拍)……お、おう?」


 街長は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに豪快に笑った。


「なるほど、なるほど! さすが殿下ですな!」


 そのまま案内されたのは、長い木製のテーブルが置かれた広間だった。


 席に着くと、ノエルは自然な動きで私の椅子の背に手を添える。会話が始まってからも、その位置は変わらない。


「この度の予防薬の働きには、我が街すべてが救われました!」


 街長は胸に拳を当て、深々と頭を下げた。


「おかげで民は再び笑顔を取り戻しましたぞ!」


「……薬は彼女が開発した」


 ノエルが即座に補足する。


「感謝は彼女に」


「で、では奥様に何かお礼を――」


「いえいえ!」


 私は慌てて首を振った。


「お礼なんて。王子の妻として、できることをしたまでです」


「おぉ、なんと慈悲深い……」


 街長が感嘆した、その直後。


「さすが俺の妻だな」


 ノエルが、食い気味に言い切った。


「分かるか、街長。彼女は普通の貴族令嬢とは違う。見た目だけでなく、中身も素晴らしいのだ」


(……え?)


 無口で必要最低限しか話さないはずのノエルが、急に饒舌になり始める。


「薬師としての腕前は言うまでもないが、責任感が強く、民を思う心を持っている。私欲で動くこともない」


 淡々と、しかしどこか誇らしげに。


 街長はぽかんと口を開け、ニケは必死に笑いを堪えている。


(ちょ、ちょっとノエル……!)


 私の内心などお構いなしに、彼は続けた。


「この街が救われたのは、彼女がいたからだ」


 ――やめて。恥ずかしい。


「と、ところで!」


 空気を変えるように、街長が咳払いをした。


「この後のご予定は? 港町ゆえ、あらゆる品が集まっていて実に楽しいですぞ!」


 自慢げな笑みに、私たちは思わず顔を見合わせた。


「……どうかされましたか?」


「えっと……」


 言い淀んだ私の代わりに、ニケがあっけらかんと言う。


「ノエル、嫌われ者だから街の人に迷惑かけちゃうんじゃないかって、遠慮してるみたい」


「慣れている」


 ノエルは短く答えた。


「それに俺の個人的な問題だ」


 その一言で察したのだろう。街長は目を瞬かせたあと、大声で笑い出した。


「ガハハハッ! それは杞憂ですぞ、殿下!」


 腹を叩きながら、きっぱりと言い切る。


「我が街は、あらゆる民や文化を受け入れてきた歴史がある。そんな小さなことを気にする者なぞ、一人もおりますまい!」


「いや、俺は……」


「まあまあ!」


 街長はノエルの肩をどんと叩いた。


「せっかくなので、どうか足を運んでみてください。きっと殿下のお心にも触れるものがあるはずです」


 ノエルは言葉を失い、わずかに視線を伏せる。


 その横顔を見て、私はそっと口を開いた。


「……行ってみましょう、ノエル」


 小さく微笑むと、彼は一瞬だけ目を見開き、やがて静かに頷いた。


 会談を終え、玄関前。


「また来てくだされ!」


「世話になった」


 ノエルはそう言いながら、私の外套の留め具を整えてくれる。


「本当にありがとうございました」


 街長は別れ際、三人と順に握手をした。


 私の手を、ぎゅっと強く握り――


 次の瞬間。


 ノエルが、さりげなくその指を外し、私を自分の側へ引き寄せた。


 何事もなかったかのような顔で。


 けれど、その距離は確かに近い。


(……ほんと、油断も隙もないんだから)


 そう思いながらも、私はその腕の中が不思議と心地よくて。


 港町ズッパの潮風が、優しく頬を撫でていくのだった。


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