表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝コミカライズ】銀狼殿下の専属薬師~冷酷な狼王子は私にしか懐かない~  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/44

第43話 そうだ、視察(デート)に行こう

 昼の陽光を浴びて、海がきらきらと輝いていた。


 街道の先に広がる青は、どこまでも澄んでいて、視界いっぱいに風と潮の匂いを運んでくる。白い帆を張った帆船がゆったりと沖を進み、遠くの港からは人々の笑い声や呼び声が、波に混じってかすかに届いていた。


 先頭を歩くのはニケ。

 その少し後ろで、ノエルと私は並んで歩いている。



 ──いや。

 正確には、“並んで”というより。


 ノエルは、ごく自然な仕草で私の腕を組んだまま、離そうとしなかった。


(……あの、ノエル?)


 心の中でそっと呼びかけるけれど、彼は涼しい顔で前を見据えたまま。まるでこれが当然だと言わんばかりだ。


 そんな様子を振り返ったニケが、ぱっと笑顔を咲かせる。



「ねぇノエル、これから向かうズッパの街って、魚が有名なんだって!」


 弾んだ声で振り向きながら、身振り手振りまで加えて続ける。


「焼き魚とか、干物とか、港町ならではの料理がいっぱいあるらしいよ! なにか食べてみようよ!」


「ふふ、楽しそうね」


 思わず微笑むと、ニケは満足そうに頷いた。


 けれどノエルは、わずかに肩をすくめて小さく息を吐く。


「まったく……どうしてもついていくって聞かなかったしな」


 そう言いながらも、その声音はどこか柔らかい。


「まぁ、今まで一緒に外出してやることもできなかった俺に、責任があるのかもしれないが」


 仕方ない、とでも言いたげに視線をニケへ向ける。その表情は、ほんの少しだけ楽しそうだった。



「でもね!」


 ニケがすぐさま食い下がる。


「ズッパに来たなら、港も市場も見なきゃ意味ないよ!」


「……だが、観光よりも用事を済ませるのが先だ」


 ノエルはきっぱりと言い切った。


「それが終わったら、マリーと行ってくるといい」


「えー? なんで? ノエルは行かないの?」


 不思議そうに首を傾げるニケに、ノエルは一瞬だけ視線を逸らす。


「……そのズッパの街には、あまりいい思い出がなくてな」


 そして、少し自嘲気味に続けた。


「それに俺は……あまり民に好かれていないだろう」


 その言葉とともに、ノエルはまた前を向き、歩みを進める。


 私は思わず、眉を下げた。


(ノエルは国や民のために戦ってきたのに……避けられてしまうなんて)


 胸の奥が、ちくりと痛む。


(そもそも今日だって、この街の長が正式に招待してくれたのに……)



 少し間を置いてから、私は話題を変えるように口を開いた。


「それにしても……今日はモルト様、ついてきませんでしたね~」


 努めて明るく言うと、ノエルは一瞬だけ言葉を止めた。


「……あいつは今、隣国との会談に出ている」


 そして、私の腕を組んだまま、何事もないように付け加える。


「だから今日は、誰にも邪魔されない」


(いや、代わりにすごい人たちがついてきてるんですけど!?)


 心の中で叫びつつ、私はおそるおそる後方を振り返った。


 そこには、銀狼殿下直属の護衛騎士団が、整然と隊列を組んで歩いている。

 陽光を反射する甲冑はまぶしく、その一糸乱れぬ動きは、どう見ても“散策”ではない。


 むしろこれは──


(完全に、公務の視察……!)


 海風に揺れる白い帆と、騎士たちの重厚な足並み。

 その対比がどこかちぐはぐで、私は思わず小さく苦笑した。



 少し前を歩いていたニケが、くるりと振り返り、空いている方の私の袖をそっと引いた。


「ねぇお姉ちゃん」


 声を潜め、ひそひそと。


「ノエル、どうしちゃったの?」


 私は一瞬、言葉に詰まり、小さく首を傾げる。


「それが分からないの……」


 同じく小声で返しながら、ちらりとノエルを見る。

 彼は相変わらず無表情で前を向いたまま、私の腕をしっかりと抱えて歩いていた。



「この間の一件以降、なぜか様子がおかしくて……」


 そう囁いた瞬間、脳裏にひとつの光景が浮かぶ。


 夜の王城。

 静かな中庭で、灯火が控えめに揺れていた。


 ノエルは、私の肩にそっと手を置いて──


『俺は彼女と共に生きる。それが俺の選択だ』


『神獣の力にすがらずとも、人が人として立てる国に──彼女となら、それを目指せる』


 その静かな決意に、モルト殿下が言葉を失った、あの夜。


(……あのときから、だ)


 ノエルの距離感が、明らかにおかしい。


 そう結論づけた瞬間──



「……やはり」


 唐突に、低い声が落ちてきた。


「お前の匂いは、落ち着く」


 無表情。

 至って真面目な声色。


「え、えっと……」


 私は一瞬、言葉を失う。


「ひ、人目もありますし……」


 そう言いながら、ちらりと周囲を見渡した、そのとき。


「マリー様」


 背後から、やけに整った声がかかる。


 振り返ると、そこには騎士団の一人が、微動だにせず立っていた。


「私たちのことは、どうか“空気”だと思ってください」


「い、いやそれは……」


 思わず否定しかける私をよそに、騎士はさらに続ける。


「我らはノエル様より、『邪魔するな』と命じられておりますゆえ」


 胸に手を当て、至極真面目な表情で。


「どうか……我らのためにも」


「は、はぁ……」


 言葉を失いながらも、私は小さく息を整え、ノエルを見上げた。


「……それでも、恥ずかしいんですけど」


 少しだけ声を低くして。


「ノエル。街に入るまで、ですよ?」


 すると──


 ノエルは足を止めることなく、真面目な顔のまま、ほんのわずかに俯いた。


 そして。


 耳の先が、あからさまにしゅん、と折れた。


(……え)


 ニケがそれを見逃すはずもなく、ぷるぷると肩を震わせている。



「……分かった」


 素直な返事。

 けれど腕は、ほんの一瞬名残惜しそうに、きゅっと力を込めてから離された。


 胸の奥が、妙にくすぐったい。


(なにこれ……可愛すぎない?)


 そう思ってしまった自分に、私は小さく頭を振るのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◤  5月より漫画連載スタート!  ◥
   こちらはノベル版となります。
◣(小説家になろう・出版社の許諾済)◢
bwmd4qh49dwuspxh50ubf887kg2_t3m_bo_fk_6xau.jpg
― 新着の感想 ―
真面目に激甘な発言をしてみたり、街に入るまでと言われてシュンとしてしまったり⋯⋯。ノエル様の様子が激変しましたね!! 思わずニヤニヤしてしまいました(ꈍᴗꈍ) 初めて行く街にワクワクしたりノエル様の様…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ