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【祝コミカライズ】銀狼殿下の専属薬師~冷酷な狼王子は私にしか懐かない~  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第42話 夜風が運んだ言葉

 広間を出たあとの回廊は、嘘のように静かだった。


 石畳に落ちる足音が、夜の空気に吸い込まれていく。

 ノエルと私は、言葉を交わさないまま並んで歩いていた。


 怒りも、緊張も、すべて吐き出されたあとに残るのは──奇妙なほどの静けさ。


 やがて、人の気配が完全に途切れた中庭に出る。

 控えめに灯されたランタンの光が、低い木々と石の縁を淡く照らしていた。



 ノエルが足を止め、空を見上げる。

 私もそれに倣い、星の瞬く夜空を仰いだ。


 しばらく、沈黙。

 風が葉を揺らし、遠くで水音が小さく響いている。


 ……このまま何も言わずに終わらせることも、できた。

 けれど。


「……あの報告書」


 声に出した瞬間、胸がきゅっと縮んだ。


「全部、本当です」


 ノエルは何も言わず、ただ小さく頷いた。

 視線をこちらに向けることもなく、星空を見つめたまま。

 ──続きを促すように。


「生きるためだけに、必死でした」


 言葉を選ぶ余裕なんて、ない。


「名前を呼ばれることもなくて……誰かに覚えられることもなくて。存在していないのと、同じでした」


 指先が、無意識に握りしめられる。



「だから、薬草を集めて。混ぜて。あり合わせたものを売って……それで、何とか今日を越えようとして」


 小さく息を吸う。


「生き抜こうとしただけなのに……それすら、“罪”だと言われる」


 喉が、少し痛んだ。


 ノエルは、そこで初めて口を開いた。


「……お前が、その薬で誰かを救ったなら」


 低く、穏やかな声。


「それは、誇っていいことだ」


 胸の奥で、張りつめていた何かが、ふっと緩む。



 私は目を伏せ、知らず息を吐いていた。


「……今でも、あの頃の自分を恥ずかしく思うことがあります」


 小さく、正直に。


「生まれも、過去も、全部……綺麗じゃないから」


 でも、と言葉を継ぐ。


「あなたといると……それも含めて、“私”なんだって思えるんです」


 ノエルが、こちらを見る。


「過去も、今も」


 その瞳は、静かで、揺るぎがなかった。


「お前は、お前だ」


 一歩近づき、そっと手を取られる。


「そのすべてが──俺にとっては、かけがえのない存在なんだ」


 胸が、いっぱいになる。

 視界が滲み、星がにじんで揺れた。


 泣きたくなかった。

 だから私は、笑ったまま、小さく頷く。



 言葉は、もう要らなかった。


 沈黙の中、夜風が二人の間をやさしく通り抜ける。

 空には無数の星が瞬き、まるで未来を静かに照らしているようだった。


 過去を語ったからこそ、

 私はようやく──前を向ける。


 ここから先は、きっと。

 独りじゃない。


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― 新着の感想 ―
絶対読者には想像できないくらい悩んだだろうし苦しかっただろうし怖かったと思うけど⋯⋯、マリーちゃんが自分の過去についてノエル様とちゃんとお話できて良かったですಥ‿ಥ 読み進めていて涙が止まらないです。…
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