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【祝コミカライズ】銀狼殿下の専属薬師~冷酷な狼王子は私にしか懐かない~  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第32話 崩れゆく信頼と真実の影

 


 石壁に囲まれた尋問室。湿った空気の中で、男の冷たい声が響いた。まるでそれが日常の報告であるかのように、感情の欠片もなかった。


「……命令だった。それ以上の意味はない」


 その言葉が部屋の空気を凍りつかせた。私は思わず身を乗り出す。


「命令……誰の?」


「雇い主の命令。それだけだ。雇い主の事情に興味はない」


 彼の瞳は静かで、まるで湖面のように何の波紋もなかった。そこに後悔も、葛藤もない。


(この人……本当に、人の命をなんとも思っていないの?)


 胸が締めつけられる。どうしてこんなに冷たく、淡々と「命令だった」なんて言えるのだろう。


 その沈黙を破ったのは、ノエルだった。



「……」


 彼は一歩前に出ると、ゆっくりと男の正面に立つ。まるで風の流れを読むように、微かに鼻を動かした。


「……やはりな。ツィオを殺したのは、お前だったんだな」


 その言葉に、男のまぶたがぴくりと揺れる。


「え……?」


 私は息をのむ。ノエルの声は低く、怒りを押し殺したように震えていた。


「何人もの血が混ざった匂いがした。ツィオを殺した奴を追った、あのときと同じ匂いがな」


(ツィオさんを……この人が……?)


 胸の奥で何かが軋む音がした。ノエルはゆっくりと拳を握りしめ、牙を噛みしめるように言葉を吐き出した。


「貴様がツィオを――!」


 その瞬間、私の手が無意識に胸元へと伸びていた。彼の背中から放たれる怒気が、肌を刺すほど痛い。


 だが、男はそんな殺気をものともせず、ふっと笑った。



「何が可笑しい」


 ノエルの声が鋭く跳ねる。


「……あいつを、ただのお人好しな善人だと思っていたのか?」


「……何だと?」


 ノエルの瞳が細められ、赤い光がゆらりと揺れる。だが男はその視線を正面から受け止めたまま、淡々と語り始めた。


「ツィオは、私腹を肥やすために完成した“狼牙”をスラム街で売るような男だ」


「なっ……」


 空気が重く沈んだ。耳の奥で、どくん、と心臓の音が響く。


「ツィオは組織の中核にいた。研究のためって建前だったが、やっていたことは金のための人体実験なんだよ」


「実験……?」


 私は小さく呟いた。喉が乾く。頭の奥で警鐘が鳴っているのに、言葉が出てこなかった。



「孤児院を使ってな。集めた子供たちに試薬を投与して、効き目や副作用を調べていた。もちろん、組織の命令なんかじゃない。あれはツィオ自身の独断だ」


「……そんな……」


「やつは“理想の薬”を作りたかったらしい。だが一番の目的は金だ。完成した狼牙をスラム街で売りさばき、組織の資金源にもしていた。……だがやりすぎた」


 男は静かに目を閉じた。


「組織のルールを破り、目立ちすぎた。だから――処分された」


「……っ、そんなはずがない……」


 ノエルの拳が震えていた。机の上に置かれた記録の束を睨みつけ、唇を噛みしめる。その肩が、ほんのわずかに揺れている。


「ツィオは……俺にとって……」


 彼の声が掠れた。私には、それが悲鳴のように聞こえた。


(あの人が……そんなことを……信じられない。信じたくない……!)



 ◇


 ――あれは、まだ俺が八歳の頃だった。


 夕暮れの光が長く伸び、灰色の廊下を照らしていた。王城の奥深く、誰も通らない静かな道を、幼い俺はひとり歩いていた。足音だけがやけに響く。慎重で、小さくて――そして、どこか寂しかった。


 立ち止まった先には、重厚な扉。実母であるアルマ妃の私室だった。


「……母上……」


 小さな声で呼びかける。けれど、返事はない。


「……開けて……」


 扉は沈黙を守り続けた。指先で取っ手に触れても、ただ冷たい感触だけが返ってくる。肩が震える。泣きたいのに、涙は出なかった。


 そのとき――


「こんな場所で、風邪を引くぞ」


 温かい声が、背後から静かに届いた。振り返ると、白衣をまとった若い薬師が立っていた。優しい目をしていて、どこか安心できる雰囲気を持っていた。


「……お兄さんは誰?」


「私はツィオ。キミの専属薬師だ」


「せんぞく……? でも僕は神獣人だから薬なんて……」


 ツィオと名乗ったその男は、やわらかく笑って膝を折り、俺の目線に合わせた。


「神獣人だろうと、王子だろうと、キミは私の患者だ。だから何も心配いらないよ」


 その声があまりに穏やかで、胸の奥の不安が少しずつ溶けていった。差し出された薬包からは、薬草の清らかな香りがふわりと漂った。


(この香り……あのときと同じだ)


 ツィオの差し出す手があたたかくて、俺はそのまま小さくうなずいた。



 あの日、初めて抑制薬を飲んだ。神獣の力を制御する――その未知の行為に、幼い俺は怯えていた。でもツィオは、何も言わずに俺の手を握ってくれた。


「……ツィオのおかげで怖くなかった」


「そうか。なら、よかった」


 ツィオはいつもそうやって、俺の恐れを静かに受け止めてくれた。王族であることも、神獣人であることも関係なく――ただ“ノエル”として向き合ってくれた。


(ツィオは……俺にとって、ただの薬師じゃなかった)


 王族でも神獣人でもなく、ひとりの“ノエル”として初めて与えられた信頼と居場所。ツィオは、俺の孤独な世界に射した、一筋の光だった。



拙作をお読みいただき、本当にありがとうございます。

読者の皆さまの応援が書く原動力となります。

もしよろしければ、★評価などいただけますと、作者の励みになります。

今後の創作にもつなげていきたいと思っております。

心より感謝をこめて──今後ともよろしくお願いいたします!

◤  5月より漫画連載スタート!  ◥

   こちらはノベル版となります。

◣(小説家になろう・出版社の許諾済)◢

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
まさかツィオさんを殺した犯人が捕まった人だったとは!!  驚きが隠せない読者です。 少しだけ明らかになったツィオさんとノエル様の過去。 ずっと信じていたものが崩れ去ってしまうのはとても恐ろしくて信じた…
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