絆の花
続けて2話目!
本編は次からのつもり?
「いらっしゃいませー!」
「すみませんね。今日の予約の川田ですけれど……」
「はい!まずは奥様の好みを知るためにお話を聞かせていただけますか?」
本日のお客様は川田宝蔵様。
幼馴染で結婚してから50年連れ添った奥様へ50年の結婚記念に旅行を計画していたが1週間前に喧嘩をしてしまい仲直りが出来ていないらしい。
旅行は3日後、最悪旅行はどうなっても構わないがせっかくの記念日を仲が悪いまま迎えたくないらしい。
「それで花を送ることで機嫌を戻したい、と……」
「KEIさんの花は全国的に有名ですし……お願いします」
「もちろん最大限の協力は致します。ですが私たちはお客様ご自身の気持ちと花の美しさから成り立つ職ですので、まずは宝蔵様の素直なお気持ちを教えてください」
フラワーショップとして様々な花を取り揃え、お客様の要望にあった花を作っているだけで。
花の美しさを育て綺麗な渡し方を考慮し造形を整える。仕事として取り組めるのはそこまでであり、やはり最後は渡す本人の想いや気持ちが相手にどれだけ伝わるのかが重要なのである。
つまり伝えるのにぶっきらぼうに渡したり、相手の気持ちを無視して強引に渡したりすれば想いは届かず花も枯れる。
だからこそ僕らの理念は、ただ花を売るフラワーショップでは無く”花とともに想いを届ける”フラワーショップなのだ。
「私は最初に勤めた会社で必死になって働き若くして重役、今では社長を務めるまでになりました。自分の努力が実ったのはもちろんですが大変な時期に支えてくれた妻には本当に感謝しています。なぜ……あんなことを言ってしまったのか……」
「何を言ってしまったのですか?」
「会社のことで最近ミスが積み重なっていまして、1つ1つは小さなミスなのですが積み重なると問題は大きくなり若手社員たちを鍛え直そうと計画を立てていたとき妻に『その人にはその人のスピードがあるのだから、あなたは責任者として支えてあげればいい』と言われて……。今思い起こせば妻の言うことが正しいのですが、どうかしていた私が『女は会社のことに口を出すな』などと口走ってしまい。それからというもの夫婦仲も会社の経営も上手くいかず……」
「そういうことですか。それで奥様に謝りたいということですね?」
「……長年連れ添ったからか、素直に謝れないなんてことを言い訳にしたくはないのですが……。悪い時にはしっかり謝る。そんな子供でも分かっていることを今実感するなんて……」
おそらく宝蔵さんは根が素直な人なんだろう。
しっかり自己分析が出来ているから社長に上り詰められたのだろうなという感じがある。
「宝蔵様の依頼内容は承知しました。奥様に渡す花束を決め、あなたの素直な気持ちを伝えれば必ずうまくいきますよ」
「よろしくお願いします」
それから宝蔵さんと花畑を見て回り、どんな花束にするのかを1つずつ丁寧に選んでいく。
「あ!あの花は妻がよく飾っている花です!」
「あちらはアンモビウム。小さく白い花が美しいですよね。花言葉は――」
「あの花は最近玄関に飾ってある花だな」
「あちらはカモミール。リンゴに似た甘い香りを発するのでハーブの一種としても用いられます。ハーブの効果は――」
宝蔵さんと花を選んでいく中で、奥様がどれだけ旦那様のことを愛しているのかが伝わってくる。
僕の説明を聞いていくうちに、宝蔵さんもその花たちを偶然奥様が買ってきたものでは無く自分のことを第一に考えてくれていた”愛の深さ”に気づいて自然と涙を溢していた。
「――店長さん」
「……はい」
「私は自分のことしか見えていなかった。それなのに彼女は……ずっと私のことを想ってくれていたんだな」
「……はい。そうだと思います」
「今日はありがとう。自分のことも妻のことも会社のことも、1から頑張ってみようと思うよ」
「宝蔵様のお気持ちが届くようにお祈り申し上げます」
宝蔵さんは出来上がった花束を持ち帰って行った。
――――――――――――――――――
後日談。
数週間後、テレビの中でとある会社が大規模な事業改革を行うことを発表しており、先日の宝蔵さんが笑顔で映っている。
「この人、奥さんと仲直り出来たんだなー」
「元々夫婦仲は良かったみたいだもんね?」
「うん。最近旅行に行ってきた写真も送られて来たよ。……ほら」
パソコンに宝蔵さんからのメールで夫婦仲良くリゾート地へ行った際の写真を表示させる。
「良かったね!恵!」
「うん。でも2人はすれ違っていただけで愛情自体は変わっていなかったから。僕はそのすれ違いを気づかせてあげただけだよ」
宝蔵さんから送られてきた写真は2枚、1枚目は旅行の写真。
そして2枚目に映っていたのは新しく買ったという観葉植物。
その植物は熱帯アフリカ原産の植物でハート型の大きな葉をつける。
その葉の形もあり、「永久の幸せ」や「夫婦愛」の花言葉が付けられている”フィカス・ウンベラータ”。
夫婦で購入を決めたらしく、奥様はもちろんのこと宝蔵さんも今回のことで花言葉など”贈り物の意味”を含めた”目には見えない想い”について深く考えるきっかけとなったようで、それを会社へ向けたことで立ち直したようだ。
奥様はどんなときでも宝蔵さんのことを支え考えていた。
それは今までの夫婦生活にも表れていただろうし、何より奥様が最近家に飾り始めたという花は「アンモビウム」と「カモミール」。
「カモミール」の香りには不安やストレスの緩和といった効果があり、会社で抱えたストレスや疲れを無くし、家で少しでも癒されてほしいという奥様の気持ちが表れている花。
そして「アンモビウム」の花言葉は”不変の誓い”。
幼馴染の二人は幼い頃に約束をしていた。
子供の口約束なんてと周囲の大人たちは微笑ましく思っていた。
成長とともにお互いの距離が離れても尚、どんなときであっても奥様は宝蔵さんのことを想い続けていた。
彼女にとって約束は誓いとなり、その誓いを胸に子供から大人になっても彼を大切にしていたのだろう。
花言葉を知り、過去を振り返る中で宝蔵さんも思い出し、ついには涙を流した。
二人を繋ぎ離さなかった小さな誓いは――「あなたの傍で支え続けます」。