プロローグ
真夏の昼下がり。蝉の鳴き声が、空を溶かすように響いていた。
少女は、ひとりで踏切の前に立っていた。
遠くを見つめている。
何もない片田舎。その先に、いったい何が見えていたのか――
ミーン、ミンミンミン……ミーン、ミンミンミン……
カン、カン、カン、カン――。
蝉が鳴く。踏切が鳴る。
まるで決断を迫るように、夏の音が少女を包み込む。
少女は、一歩、前へ踏み出した。
遮断機が、ゆっくりと彼女の背後に降りる。
目を閉じる。彼女の中を、様々な記憶が駆け抜けていく。
――十五年間の、全部。
……ガタン、ゴトーン、ガダン、ゴドーン……
その音を合図に、少女はふらりと線路の中央に出た。
そして、何かを見つけて――微笑んだ。
ダダン、ドドーン、ダダン、ドドーン……
電車が来る。止まらない。容赦なく、少女を飲み込んでいく。
ガダン、ゴドーン……ガタン、ゴトーン……
電車が通り過ぎると、世界は一瞬、静寂に包まれた。
少しして、誰かの――裂けるような悲鳴が、夏空に響いた。
その日から、少女の死は何度も繰り返された。
親友の記憶の中で。
幼馴染の夢の中で。
そして――弟の幻想の中で。
少女は、何度も、何度も、死んだ。
だけど、いつまでも、生き続ける。誰かの心の中に、生き続ける。
後悔が。
悲しみが。
苦しみが。
そして、絶望が。
決して、消えることはなかった。
そう――永遠に。