『僕の運命の人になって!』と婚約者の弟君に告白されました
前作、沢山の方に読んでいただけて幸せです。
おまけのような長さです。ザマァはありません。
愛が重たい二人に挟まれました。
十月の五日。アシュフォード殿下と、より想いを深め、私はとても満ち足りた日々を送っていました。
今日も王太子妃教育を受け、先生に御礼を言い、部屋を後にすると、後ろから腰の辺りに何かがしがみついて来ました。
「シエラ!勉強終わったの?」
振り返るとそこにはやはり、アシュフォード殿下の弟君であり、この国の第二王子殿下のクリスフォード殿下がいらっしゃいました。
「まぁ、殿下。淑女に後ろから抱き着いてはいけないと言われませんでしたか?」
「……兄さまは抱き着いていたよね?じゃあ僕だってシエラを抱き締めてもいいじゃないか」
私は困ってしまって眉を下げる。クリスフォード殿下は歳の離れたアシュフォード殿下と、何かと張り合おうとなさるのだ。
アシュフォード殿下もクリスフォード殿下をあまり好きではないらしく、名前で呼ばれるのすら疎まれる。
この国の未来の王太子妃として、このままでは良くないとは思う。どうにかしたい。
たったお二人の兄弟なのだ。
それに、王妃様はあまりクリスフォード殿下を自分に近寄らせない。
クリスフォード殿下はきっと、母親恋しさに私に懐いて下さっているに違いないわ。
けれどこのままでは、アシュフォード殿下がクリスフォード殿下をより厭う原因になってしまう。それはこの国にとっても…アシュにとっても良くない事だから。
少し、はっきりさせておいた方が良い、わよね?
「クリスフォード殿下、私を慕って下さるのは嬉しいのです。けれど、私はアシュフォード殿下の婚約者。要らぬ火種を生む事は望みません」
だけど、聡明なクリスフォード殿下らしくない、まるで普通の子供の様にクリスフォード殿下は背伸びをして私の両腕を引き、顔を覗き込んだ。
「それは、僕とシエラが仲良くするのが良くない事だと言うの?なんで?兄さまばかりずるいよ!僕だってシエラが大好きなのに!!」
大粒の涙を大きな瞳からポロポロと溢し出してしまった殿下に私は慌てて身を屈ませる。
「私も殿下が好きですよ、けれど…」
「それは僕の欲しい『好き』じゃない!シエラ、兄さまじゃなくて、僕の『運命の人』になってよ!」
冷え冷えとする空気に私はハッとした。そこには怒りのあまり、表情がごっそりと抜け落ちてしまっているアシュが居たのだ。
私は慌ててクリスフォード殿下から距離を取ろうとしたが、子供でも男の子。なかなか上手くいかなかった。
「お、落ち着いて……ね?アシュ、そんなに怒っては駄目よ」
私の言葉にアシュはにっこりと笑った。目がまるで笑っていなかったけれど。
アシュは私にしがみついていたクリスフォード殿下を無理矢理剥ぎ取ると、手荒に放った。
「アシュ!」
「人の女を口説くなんて、ちょっと躾が足りてないんじゃないか?弟君」
どうしよう、アシュの眼差しはとても冷たい。今、アシュは弟を『敵』と判断しようとしている。
「待ってアシュ、違うのよ、きっと殿下は寂しくて…」
「寂しくて迫るのが許されるならシエラ。俺がもっとシエラを欲しても許されるよね?だってシエラは『俺の運命』なんだから」
これは、言う言葉を間違えたわ。凄く怒っていらっしゃる。どうしましょう?私、アシュを怒らせたくなんて無かったのに。
思わず涙が滲む。いえ、泣くのは卑怯だわ。そう、私が泣くのは卑怯だし、何より、こんな風に泣いては、王太子妃など務まらない。
でもそんな私の葛藤を理解してるかの様にアシュは私を抱き寄せると、背中を優しく撫でた。
「…………悪かった、泣かないで。もう怒ってないよ。シエラが愛しているのは俺だけだものね?」
「謝るのは私の方です…ごめんなさい。アシュ。私、いつだって貴方の味方ですのよ…?」
「…そうだな、そうだった。つまらない嫉妬でシエラを傷付けた。すまない」
そんな私達を呆然と見ていたクリスフォード殿下が、ポツリと私の名を呼んだ。
「………シエラ……」
縋る様に私を見つめるクリスフォード殿下に、私はアシュの背中を優しく三回叩いた。アシュは渋々と言った感じで私を離す…かと思いきや、手は決して離さなかった。
仕方ないなぁと、何処か嬉しい気持ちにもなってしまう自分を叱咤しながら、私はクリスフォード殿下に頭を下げた。
「寂しい、だなんて、勝手に決め付けてしまいました。申し訳ございません」
「……ううん。それも真実ではあるよ。ただ、僕の想いを、子供のものと決め付けられたのは、堪えたな」
私はもう一度口に出しかけた謝罪の言葉を飲み込んだ。どう伝えたら良いだろう。何が正解かは、分からない。けれど、私は伝えなければいけない。
クリスフォード殿下も、真剣な想いだったと言うのなら。
「私、クリスフォード殿下の『運命』にはなれません。けれど私達はいずれ、家族になるのです。大事にしたいと思い、弟の様に接しました事、ご不快だったならもう一度謝罪します。けれど、私はアシュを裏切る事はありません。クリスフォード殿下。『運命』は自分で決めるものだと、私先日、知りました。そしてその覚悟に、私は応えたいと思っております。もう一度お聞きします。謝罪が、必要でしょうか?」
クリスフォード殿下は、立ち上がり、服を正すと、涙を拭い、私に膝をついて手を出した。
「シエラ…姉さま。あなたは僕の初恋でした。僕の恋に真剣に向き合ってくれて、ありがとう。僕はこの恋を忘れません。いつか『運命』に出逢うまで。見守っていてくれますか?」
私は思わずホッと息を吐く。良かった、これできっと私達は家族になれる。
その小さな手に手を重ねようとしたら、横から強く腰を寄せて、抱き締められた。
「俺達二人で、お前の成長を見守っているよ、弟君」
「兄さまは大人気なさ過ぎませんか」
「失礼。まずお前のその失恋の覚悟を信じて居ないものでな」
「…………疑り深いんですね」
「俺ならそんな簡単にシエラを諦めないからな。なら、他の人間もそうじゃないかと疑うのは当然じゃないか?」
「チッ…」
「え?え?丸くおさまったんじゃないのですか?」
「愛情が希薄な親から産まれた俺達は、愛に飢えてるという点だけは似てるんだろうな」
「僕を愛して下さったのはシエラ姉さまだけですから」
「家族愛だからな」
「愛に違いありませんから」
何が悪かったのでしょう。
その日から、仲良くなっていただきたかったお二人が、余計に険悪になってしまいました…。
「シエラの隣は俺だ」
「なら僕はシエラ姉さまの向かえに座る事にします」
お願いします、仲良くなって下さい!!
読んで下さってありがとうございます(*´ω`*)
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