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第1話 リアル・ワールド──異世界転移直前



──日本・東京──




──隼人はあの日、いつも通りに過ごしていた、そう思っていた。だが、実際はいつも通りではなく、むしろ非日常的なことが起こっていた。それももっと悲惨な事態が。これまでの記憶は全て隼人の回想でしかなかった──




西暦二◯五十七年──七月十三日・金曜日・午後三時過ぎ。隼人は自分の勤めている会社のオフィスで仕事をしていた。


「霧崎さん、以前から引き続いていた案件の報告書、作成終わりました。確認お願いします」


琴音とのいつも通りのやりとりを済ませ、受け取った資料に一通り目を通す。特に問題がないという旨を伝え、そのまま自分の仕事を一気に終わらせた。隼人は仕事のスピードが異常に早いため、他のチームメンバーの仕事も背負っているが、今日はその仕事を後回しにして、退勤準備を始める。というのも、先の昼休み、そばを食べながら琴音から夕食の誘いを受けていたのだ。彼女の方から誘うのはかなり珍しい、稀なケースだ。そもそも、琴音は内向的な側面があり、見知らぬ人に対して極端に塩対応になってしまう。だが実際、その塩対応が好みだとか言う──ドM的思考の人──からは意外にも人気が高かった。それゆえ、会社内では高嶺の花、そう言われているくらいだ。その反面、隼人は違った。彼とは大学時代からの付き合いということもあり、彼自身が彼女の扱い方に慣れているというところもあるのだろう。とにかく、琴音は隼人だけは気兼ねなく相談事ができる人、そう認識していた。


隼人はできるだけ急いで支度を済ませ、タイムカードを切った。タイムカード、とは言っても単にカードをスライドするだけだ。それにより、彼は会社という名の鎖から解放された。外は初夏の風が心地よく通り過ぎている。琴音との待ち合わせは会社から徒歩数分の所にある駅前。結局隼人が全てを完了させたのは十七時半を過ぎようとしていた時だった。駅はちょうど通勤ラッシュにあたりかけの時刻にあるせいか、人がごった返していた。彼女とは駅前にあるベンチで落ち合った。


「あ、やっときた。先輩、お疲れ様です!」


彼女の方が幾分先だったようで、結果的に隼人は琴音を待たせてしまうという形になってしまった。


「それで、これからいく店は予約何時からだ?」


「えっとね……」


琴音はスマホで──実際には端末式の空間ディスプレイだ──その店の予約ページまでとび、確認した。


「十八時からだよ。それじゃあ、行こっか」


琴音が予約した店は新宿区内に位置する。ここからでも十五分程度あれば十分なくらいの距離だった。二人は早速駅内へと向かった。




◇ ◇ ◇




「先輩、聞いてくださいよ!この間、例の上司が──」


琴音と隼人は新宿にある居酒屋に来ていた。二人は予約していた個室に座り、早速生ビールを注文していた。そして酒に酔いやすい琴音が早速愚痴を漏らす。これは大学時代から続いているので、隼人も知っていた。


「それで、最近仕事の方は順調なのか?」


「仕事?それは隼人がいるから大丈夫!」


酒に酔った琴音がピースサインを彼に向けてそんなことを言い放った。


「いや、俺に頼りすぎるのもよくないと思うんだが……。琴音だって俺がいなくても仕事できるだろ?」


琴音は酒が入っているせいか、いつもより表情が大きく出ていた。彼女はムスッとした表情でそれに応えた。


「先輩、それ、本気で言ってる?」


「ああ、俺は琴音のことをそう評価しているが」


隼人は生ビールの残りを飲み干し、新しく注文する。対し琴音は一気に生ビールを飲み干し、酔った勢いなのか少々声を荒げて宣言した。


「私は!先輩がいるから頑張れているの!もしいなかったらこんなに仕事真面目にしてないよ……」


宣言しから急に恥ずかしくなったのか、追加で注文する。その動作は完全に照れ隠しであると隼人は気づいていた。隼人は琴音とは相反して酒にはかなり強い。したがってかなり飲んでもあまり酔うことはない。そういえば、と隼人は話題転換を図った。


「最近日本の政治経済についてかなりデモが起こるようになったな」


「デモ……ああ、日本政府に対しての第一抵抗運動ファーストレジスタンス?最近よく問題になってるけど…確かアメリカ支持者が多く集まった団体でしょ?」


第一抵抗運動はここ数年あたりから顕著になってきた日本経済の悪化とそれに伴う物価の上昇、それに加えて内閣政府の泥沼化、に抵抗するための組織だ。組織自体は一般人ではなく、主に自衛隊などの軍人で構成されている。

その組織は国会に対抗するための手段として拳銃の密輸・携帯をしていて、最近では内閣総理大臣の暗殺計画、国会議員の暗殺で問題視されている。実際その行為は本来なら国家反逆罪に問われるが、いかんせんそもそも日本の規定上拳銃の所持が正式に認められているため、対処することはそう簡単なことではなかった。自分が狙われているかもしれないという状況に置かれている国会議員らはそれを黙認するしかなかった。しかし、その抵抗運動に対して保守派勢力がいることも事実だ。第三次世界大戦などと囁かれる時代であるのにも関わらず、日本国内では第一抵抗運動と保守勢力が争っているという、世界規模で言うならばなんともつまらない戦いをしているのだ。実際大変なのはむしろ板挟みされている国会かもしれない。


「その第一抵抗運動ファーストレジスタンスなんだが、最近一般市民まで巻き込んでいるらしい。それも米軍からの工作員を雇って」


表上、軍が一般人を襲撃することは規定違反になるので、その行為は国会に対して()()()()()抵抗だった。


「そもそも米軍にとって日本のゴタゴタに首を突っ込むメリットあるの、それ?」


「おそらく米軍の方も早く日本を実質的に支配したいんだろう……それに伴って面倒なことが起きていてな」


米軍──通称アメリカ自衛独立国家軍は、ここ数年、日本で引き起こされているデモに便乗して実質的支配を目論んでいた。というのも、日本が持つ最新科学技術は第三次世界大戦となった際に強力な兵器となりかねないからだ。今のうちに日本を米軍側につけておくことで実質的にアメリカは第三次世界大戦の火種を振り払おうとしていた。つまり、日本がいる限り米軍にも危害は与えられない、ということだ。元々の関係はその逆だったのだが、ここ最近でアメリカよりも脅威国として世界にみなされている。そこでアメリカはできる限り穏便にことを済ませたいらしい。本来ならこんな話は酒の場でする話ではない、そんなことは隼人も琴音も理解していたが、一度話し始めてしまっては途中で話を切るのは憚られた。


「俺の家──霧崎家──が日本を代表する剣道の門であることは知っているだろ?中にはアメリカ軍人もたくさんいる」


「ってことは『霧崎家』がこの内乱に参入しなきゃいけなくなる可能性が高いってこと?」


「いや、もうほぼ確実だろう」


時刻はとっくに二十三時を回っていた。この居酒屋は基本的に深夜0時まで営業しているので閉店までまだ時間がある。隼人はラストオーダーになるであろう注文を入れ、話を続けた。


「それに最近だと米軍がとある研究をしているらしい」


そもそも何でここまでの情報を知っているのだろうか、そんな疑問を酔いながらだが少なからず琴音は持っていた。


「とある研究って?」


琴音は聞き返したが、隼人は首を横に振った。


「俺もそこまで正確に把握しているわけじゃない。これだけははっきり言えるが──おそらくこの地球で起こり得ない事象を研究しているんだと思う」


隼人がそこまでの情報を知っているのは『霧崎家』にアメリカ軍人の門下生がいるからだ。と言うのも、霧崎家は表向きは日本の剣道を指導している一民家だが、裏では全世界のありとあらゆる情報を統制している。それゆえ、『霧崎家』は世界の秘密協定『アストラル・レイ』に加盟しているほどだ。だが、そのことは国会は当然知っているはずもなく、現段階で隼人の父、つまり現当主しか知り得ないことだった。実際に彼が情報を聞いたのはたまたま居合わせた軍人だった。言ってしまえば、それほどまでに霧崎家は世界で影響力を持っているということだ。それに脅威国、と一概に言ってはいるものの、それが『霧崎家』の研究内容であることは他国から見ても明らかだった。実際に知らないのは完全に情報統制をされている日本政府だ。彼女は頭が回らない状況でもなんとなく隼人が言っていることは理解できた。その中で琴音はある一つの仮定に思い当たった。その瞬間、彼女の頭からアルコールが完全に吹き飛んだ。


「もしかして先輩、今の仕事辞めるの?」


半分泣き顔を作りながら隼人に聞いた。琴音にとってハヤトがやめることは絶望に近かった。対し隼人は笑いながらその考えを否定した。


「いや、そう言うことじゃない。まあ状況次第ではそう言う手段を取るかもしれないが。そもそも俺は社会人になってからほとんど剣道なんてしてないから仮に本家に戻っても特にすることはない」


隼人は自身の立場を知らない。それゆえ、自分が今更戻ってもすることがないだろうと思っていた。


「まあなんにせよ、まだ仕事は続けられるから大丈夫だ」


「そう?それならよかった」




◇ ◇ ◇



隼人は琴音を駅まで送ることにして、居酒屋を後にした。彼女を駅前まで送り届けるため──最近は現代物理科学の応用によって無人タクシーというものが存在している──駅前を訪れたちょうどその時、隼人と琴音の意識が完全に途切れた。


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