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第1話 初戦と衝撃

 



エルセルト街はハヤトが思っていた以上に大型都市だった。あちこちで冒険者が歩いているのを見かける。さすが駆け出し冒険者が揃っているところだ。食品などを見て回っていたのだが、ありがたいことにここにあるほとんどの品が低価格で購入できるようになっていた。とりあえずハヤトは武具一式を揃え、ついでにポーション類もいくつか調達した。一通り準備を終えたハヤトは手始めに魔物を倒そうと決め──日本への帰り方を模索するための第一歩となる──森林に向かった。


ハヤトは街の門を抜けしばらく歩いたところで森林の中に入った。森林の風が気持ちいい。こんな風に今まで出会ったことがあっただろうか。ハヤトは不覚にも呑気にそんなことを思っていたのだが、突如として不安に駆られた。


──そういえば、俺って社会人になってからろくに運動もせず、体も鍛えていなかった。そんな俺が片手剣なんて振ることができるのか?そもそも、木剣は振ったことはあっても本物の剣なんか振ったことはないんだが…。

 

刹那、近くでカサカサと微かな音がなる。その音で思考を強制的に断ち切り、警戒心を強めながらゆっくりと辺りを見回す。それは単体ゴブリンだった。片手には小さい棍棒が握られている。


『ギキャ!』


ゴブリンがハヤトを目掛けて棍棒で向かってきた。それを剣で受け流そうとした時、突如として超音波が頭の中に響く。そしていきなり持っていた剣が発光し始め、ゴブリンの棍棒を弾き返した。彼は棍棒が華麗に飛んでいくのを目視していた。対しゴブリンは何が起こったか理解できておらず、呆然と立ち尽くしている。だが、それで彼の攻撃は終わりではなかった。その音がしてからすぐに、彼はゴブリンの後ろに誰かいるのに気がついた。そして、その影はゴブリンに近づき、影の剣で──突き刺した。


『クキャギャァァァァァァ!!』


──何が起こったんだ?


ゴブリンは血を噴き出して倒れ、体が崩れていく。ハヤトは呆然と今確かに目の前で起きたであろう事象を幻影でも見るかのように眺めていた。しかしそのそぶりも一瞬。彼は再びゴブリンを見つけ出し、再度攻撃を仕掛けようと脳内で同じ光景をイメージする。ハヤトがイメージした通りに先程と全く同じ攻撃を繰り出した。同じように体が動き、魔物の体が崩壊へと向かっていく。崩壊が完全に終わった後には魔石と思われるものが転がっていた。ハヤトはよくわからぬままその魔石を拾い、森林の深部へ潜った。



◇ ◇ ◇



彼はこの世界に存在する、一般的なスキルは使えない、と冒険者ギルドで明言されていた。シャロン曰く、この世界ではスキルを発動できるらしい。入手方法は先天的に手に入れるか後天的に手に入れるかの二種類の方法がある。スキルはこの世界の空間内に存在している小さな粒子『零基子(キシグル)』を体内から発せられる波動によって運動を定義する。そして定義した零基子が動くことで発生するエネルギー、すなわち摩擦エネルギーを利用して使用者との間で相互干渉をしていく中でエネルギー変換を行う。そのエネルギーで空間内の事象を一時的に捻じ曲げてスキルを発動するというのがこの世界でのルーツだ。しかし、先程も述べたように彼は()()()()スキルは使えない。ハヤトは後者の方法でスキルを手に入れたのだと自分自身に言い聞かせていた。それが一般的なスキルでないということも知らずに。


魔物の素体は主に『零基子』で構成されており、魔物が生命エネルギーよりも多い損傷を受けた場合、体内に流れている粒子が結合を失い、自由運動を始める。そういう訳で魔物の肉体は崩壊していくのだ。そして残った魔石は彼らの所謂心臓、零基子を結合し続けるための体内器官だ。これは冒険者ギルドの間ではかなりの額で取引されることが多い。しかし魔物の肉体崩壊を止め、肉体として保存できる方法もいくつか存在する。



◇ ◇ ◇



あれからハヤトはひたすら魔物を倒し、かなり森林の奥深くにまで到達していた。この辺まで来ると魔物の強さが格段に上がる。そろそろ引き返そうと思っていた矢先、ハヤトは大狼に襲われていた。いきなり爪が目の前にまで迫ってきた。体を守るべく脳内で『障壁』をイメージする。すると先程の超音波音がしたすぐ後にあたり一面に螺旋状の結界が施された──で重たい一撃を受ける。が、一撃でほとんどの防御結界が割れた。そのまま走りながら大狼の後ろへ回り込む。だが、その途中で尻尾による攻撃が行手を阻んだ。ハヤトは咄嗟に剣を身体に引き寄せながら叫んだ。


「チェンジ!」


キィンっと音とともにハヤトの剣と鋼鉄の尻尾が目の前でぶつかり、火花が飛び散る──そして尻尾を弾き返した。そのまま間合いを詰める。そして、唯一彼が扱うことのできる迎撃スキルと思わしきものをイメージした。大狼の爪攻撃を受け背後から影が大狼に襲いかかる。勝負は一瞬だった。甲高い断末魔とともに大狼が崩壊していく。そして完全に消えた先には一際大きな魔石が転がっていた。ハヤトはそれを拾い、エルセルト街まで戻った。


 街へ無事たどり着いたのはいいのだが、ハヤトは空腹で食に飢えていた。Gtを得るために冒険者ギルドへ向かた。ちなみにGtというのはこの世界での流通通貨だ。基本的に冒険者は魔物を倒して得た魔石を等価交換することによって生計を立てている。つまり、魔石は冒険者にとって生活に必要不可欠なものだと言える。


「今回の魔物の魔石全部でで2000Gtとなりますがよろしいですか?」


「ああ、頼む」


「ありがとうございました。次のご利用をお待ちしております。次の方ー!」


そのお金で料理屋で何か食べようと決め、ハヤトは何気なく街を彷徨きふと目に留まった店に入った。



◇ ◇ ◇



ハヤトが冒険者ギルドを去ってから小一時間が経過した頃、上層部──特にギルドマスターだ──は彼が持ってきた素材について騒いでいた。


「さ、先程の説明をもう一度してくれるか?」


そう言い出したのはエルセルト街冒険者ギルドに位置するフランだった。フランにすごい剣幕で言われた受付嬢はすでに半泣きになっていた。


「先程申しました通り、冒険者がたった一人で大狼──ラドルキを討伐しました。その冒険者の名前はハヤト。今日冒険者登録をしたばかりのEランク冒険者です」


「一人……しかもEランク冒険者だと!?あれはSランク相当の魔物だぞ!それに、彼のステータスは存在しないのではなかったのか?」


「あれではないでしょうか?虚偽報告。最近増えているのでしょう?」


そう答えたのはエルセルト街の序列第二位を誇るセティーラだった。彼女は訝しそうな目で報告書を見ている。受付嬢は首を振りながら応えた。


「……いえ、ここに証拠があります。この魔石は間違いなくラドルキのものです」


「「「………」」」


それは誰が見ても本物に違いなかった。フランがゆっくりと口を開いた。


「そんなことが……まあ何がともあれ、彼から決して目を離さないように」


この事態は──Eランクの新米冒険者がSランク相当の魔物を一人で討伐したことは──明らかに異常だった。彼ら──冒険者ギルド、特にフランがハヤトに目をつけたことは当の本人は当然知る由もなかった……。




◇ ◇ ◇




その後ハヤトは店で沢山食べて満腹になり、寝所を探していた。この街はかなり広いため幾つもの宿屋が存在しているが、一番お得なのはギルドが直接運営をしている──シャロンのいる──店だ。というのは新米冒険者の中では有名な話だった。


──行ってみるか。


先程までいた酒場で運よくその情報を聞き出すことができた。ついでにハヤトが所持している不思議なスキルについて聞いて回ってみたが、「そんな脳内でイメージしただけでスキルを発動できるなんて聞いたことがない」と馬鹿にされ、結局何の情報も得ることはできなかった。


「いらっしゃーい、ってあんたかい」


「午前中は世話になった。それで、宿を借りたいんだが」


「もうきてくれたのかい、そりゃ嬉しいね。さあ、入って入って」


シャロンから宿の部屋番号と鍵をもらい、指定された部屋へたどり着いた……。のだが、その後の記憶があまり定かではない。おそらく、風呂など諸々済ませてベットに直行したのだろう。宿屋でもスキルに関連した書物を特別に物色させてもらったが、ここにも彼が持つ特殊なスキルについての概要および存在、さらには転移者のことについて記載されているものは何一つなかった──。


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