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第17話 盛大な祝杯と誘惑




──んん……ここ…は?


ハヤトはゆっくり目を開ける。そして辺りを見渡す。少しふわふわな布が下に敷いてある。ハヤトは寝ぼけた頭で少し思案した。


──あれから俺はどうなったんだ?


「あ、ハヤト。起きたんだね」


ちょうどいいタイミングでハヤトの看病をしていたらしいカリナが顔を覗かせている。ハヤトは頭で思っていた質問をそのままカリナに質問した。


「ここは……?」


「ここはシャロンさんの宿屋。ハヤト、数日間起きなくて死んじゃったのかと思った」


「って俺そんなに寝てたのか?具体的には?」


「ざっと一週間程度」


いきなりびっくりするぐらいの日数を提示されるハヤト。あの後ハヤトは不覚にも意識を消失してしまった。いや、昇天していた、と言った方が正しいだろうか。ハヤトらが魔王軍第十部隊のカルを討伐してからは魔王軍の指揮が大幅に低下した。いきなり後退し始める魔物もいれば、死を覚悟で襲ってくる魔物もいた。もっとも、一番数が多かったのは後者の方だ。カルが張り巡らせていた結界が解けてから、フランはすぐにハヤトらの元へと駆けつけていた。一方、セティーラをはじめとした騎士団代理、そしてフランの名により待機していた兵が魔物の残党を全て片付けた。だが、カルがいた時と比べて魔物の統率力が一気に崩れたため、スキルで一網打尽にするのは最も容易だった。そして、ハヤトはリーゼットのおかげもあって傷口は全て完治していた。カリナの方は先も言った通り『自動再生』で全てを自己修復していた。それゆえ、二人に残されたのは精神的疲労だけだ。これに関してはどちらかといえばずっと寝ていたわけではないカリナの方が重症だった。


「おお、ハヤト!目覚めたのか!」


カリナの音を聞きつけてか、シャロンならずフランまでも駆けつけてきた。もっともここはシャロンの宿屋なので彼女はいてもおかしくはない。だが、フランがいるのは予想外だ。


「ああ。まあ目が覚めたと言ってもついさっきだがな」


「ハヤト。これから冒険者ギルドの報酬でみんなで打ち上げするんだが私の料理、もちろん大量に食べるよな?」


シャロンは有無を言わさぬ口調でハヤトに圧をかける。結局、冒険者ギルドからの依頼報酬はどういうわけだかフランに渡ったらしい。それで、皆に今回のお礼として打ち上げをすることになっていた。本来であれば、撃退したその日にするつもりだったのだが、いかんせんハヤトが目覚めない状態だったので彼が目覚めたから、ということにしていたのだ。


「ハヤト、私も料理作るの。シャロンとどっちが美味しいか食べてみて」


いつの間にか、シャロンを敵対視ているように見える。ハヤトはカリナとシャロンの両方から圧をかけられていた。カリナの方はシャロンに煽られたこともあり、かなり料理に対抗心を燃やしていた。そんな状況を見かねたのか、フランが二人を牽制し口を挟む。


「二人とも、あんまりハヤトに詰め寄らないようにな。ハヤト、二人の言った通り、今日の夜、エルセルト街の中央広場で盛大な打ち上げをするんだが、来るか?……ああいや、別に今日じゃなくてもいいがな」


そう言ったフランを今度は二人が睨む。二人の顔は今日がいいと言っているように伺えた。これではハヤトに選択権があってないようである。彼はそんな三人に圧倒され、ただただ頷くことしかできなかった。


「ああ……分かった。それで、何時からなんだ?」


「そうだな……これから六時間後だ。それじゃあハヤト、また後でな」


そう言ってフランがそそくさと部屋から退出する。それに続くようにカリナとシャロンも部屋から退出した。その途中で「シャロンには絶対負けない」とか「お前には百年早いわ」とか言っているのが聞こえたが、ハヤトはそれに特に口を挟まず、無言を貫き通した。


──なんか一気に疲れた。一体あの二人に何があったんだろうか……いやそんなことを考えるのは杞憂だ。


時刻は十二時を少し過ぎていた。よって打ち上げが始まるのは十八時過ぎであることがわかる。それまで階梯魔法の練習でもしようかと考えかけて、途中で自分の脳を牽制する。ハヤトは自分がすっかりこの異世界に飲み込まれていることを感じ、少し寂しくなった。「結局、魔王を倒した後、俺は地球に帰れるのか」そんなふとした疑問が浮かぶ。だが、彼はそんなことを深く考える程脳のリソースを割いていたわけではなかった。考えることを放棄した彼は再びフカフカのベッドで眠るのだった。




◇ ◇ ◇




異世界時間十八時三十分。ハヤトはシャロンの宿屋で一通りの検査をし、あり物の服に着替えてエルセルト街中央広場まで来ていた。検査とは言っても、そこまで医術が発展していないので簡易的な物だった。今回の打ち上げは正式的な物ではないため、服装はなんでもいいらしい。実際に会場に来ている人は比較的ラフな格好のものが多かった。会場となった中央広場ではすでに酒──という名のアルコール入りジュース、正確に記すとウイスキーだ──を飲み始めていた。軽快なリズムを奏でている音楽と共にダンスを披露する人もいる。それぞれやりたいことをしている、と言った様子だ。


「ああ?お前がハヤトか?」


ハヤトは会場に来て早々、かなりアルコールが入った連中に絡まれていた。周囲で酒を飲んでいる人が一斉に彼に注目する。彼は仕方なしに相手せざるを得なくなった。


「ああ、俺がそのハヤトだ」


おお、と歓声が上がった。どうやら今回の戦いで有名人になったらしい。だが、フランの情報統制のおかげでハヤトが英傑であることは未だ知られていない。ひとまず周囲から湧いてくる質問を適当にあしらいながら、ハヤトはカリナのことを気にかけていた。


──あいつはいったいどこにいるんだ?それにフランもさっきから見かけないし。


ハヤトがそう思ったタイミングで広場の中央に大勢の人が群がっていることに気づいた。(余談だが、エルセルト街中央広場は円型でかなり広い。それゆえ、彼がはじめに見つけられなくても仕方がなかった。)そこで一斉に歓声が上がる。その声の中に「一気!一気!」や「おお!こりゃまた美味しい!」「こんなものを作るなんて…天才だ!」なんて言葉が混じっていた。ハヤトも気になり、適当に理由をつけて絡まれている連中を振り解き中央へ向かった。観客の中心には酒樽をもう何個開けたかわからないくらいの量の酒が、カリナとシャロンは酒を飲みながら料理対決をしており、隣で酒を大量に飲んだであろうフランが大声をあげて笑っていた。


「はっはっは!これは傑作だ。まさかカリナが料理下手だったなんて!」


酔っ払った勢いなのか、フランは心中を明かしたらしい。それにムッとなったカリナはフランに包丁を向けていた。ハヤトは急いで観客をかき分け、彼女の目の前に立った。


「おい。何やってるんだ?」


「あ、ハヤトだぁ!今から二人で料理作るから食べてみて!」


どうやらウイスキーを飲んで少しハイになっているらしい。それでもシャロンに対する闘志は消えていなかった。一方シャロンは悪魔的な表情を浮かべていた。


「なあハヤトよ。あたしの料理がまずいわけ、ないよなぁ?」


少し、いや相当ドスのきいた声でシャロンは言葉を発していた。彼女は酔うと完全に人格が変わるらしい。そんな様子をみて、ハヤトは必死に頷くことしかできなかった。結局、料理対決の勝敗はシャロンが圧勝した。というのも、出された料理はかたや完全に炭となったものが、かたや完全に計算し尽くされたものが出された。ハヤトが結論を言い渡すのは難しいことではなかった。その結果で剥れたカリナが若干涙目になりながらハヤトに突進してきたが、それを難なくこなした。



◇ ◇ ◇




「ハヤト、お前はこれからどうするんだ?」


料理対決がひと段落し、観客が減ってきた頃、唐突にフランが話を振った。


「まさか、ずっとこの街にいるわけでもないんだろう?」


ハヤトは頷きながらそれに応える。


「ああ。これからこの街を出て次の街を経由して王都まで行こうと思ってる」


「そうか……。ってことは次はラディンオス街か?」


「そうなるな。そっち経由の方が王都に近そうだ」


ラディンオス街はエルセルト街を出て西に位置する。ハヤトも当然実際に訪れたわけではない。よって地形などっはよく解っていなかった。フランは唐突に何か思い出したかのような顔つきになった。


「そうだ。お前にまだ伝授してなかったな。少し体をこっちに寄せてくれるか?」


フランの指示通り、ハヤトは側までより、フランに背中を見せる。フランはそれと同時に何かの呪文らしきものを唱えた。唐突に背中が薄く光り始める。


「これは限られたごく一部の人が知っている転移のスキルだ。これでいつでもエルセルト街に帰って来れる」


最後に思いがけないプレゼントをもらい、ハヤトはお礼を述べてフランと少し雑談を交わした。その後、二十一時に盛大な打ち上げはお開きになった。ハヤトはアルコールが入ったカリナを連れて宿屋へ戻ったのだった。




◇ ◇ ◇




その夜。ハヤトは思わぬ音で目を覚ました。辺りを見渡すが、彼には暗視スキルがないためよく見えない。その間、まだ音が続いている。少しずつ暗闇に慣れてきた目を凝らして、あたりの様子を観察する。そこには散らばった服と雑に置かれた下着類、色々と目にしてはいけないようなものが次々と見えてくる。その状況に少し怖くなり、ハヤトは恐る恐るカリナの方を見た…‥だが、そこにカリナの姿はなく、その代わりに彼は隣の柔らかい感触に気がついた。


──何だ、これ。まさかおっp……!!


ハヤトの顔に動揺が走る。隣にいたカリナは絹を一切纏わない状態で横になっていた。ハヤトが驚いて立ち上がり、距離を取ろうとした矢先のことだった。白い手にグイッと引っ張られる感覚がして、その場から動けなくなる。


「カ、カリナ?!」


だが、呼びかけてもそれには応じない。ただ、聞こえたのは一言のみ。


「やっとこれで……ハヤト、もう逃さないよ」


カリナがハヤトの身体の上まで登ってくる。ハヤトは頭の中では冷静沈着だった。しかし、それは頭の中だけで、身体はしっかり反応していた。さっきまで寝ていたと思われた彼女は実は初めから寝てなどいなかったのだ。


「私の身体じゃ、不満?」


「いや、今はそんなこと言ってないで服を着ろ、服を!」


「ねえ……不満?」


今のカリナは身体的に齢十七歳前後。胸もそれなりに成長していた。それがハヤトの体に当たる。流石にここまで来られてはハヤトも冷静ではいられなくなる。そして──ついに脳が爆発した。カリナはすでにハヤトの下着まで手が伸びている。半分脳死状態に陥りながらハヤトは必死に叫んだ。


「おい、やめろって……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


──全てが完了したのは午前二時過ぎだった。結局ハヤトはカリナによって骨抜きにされた。何をされたのかは皆の想像通りである。



その日の朝、二人は眠気に耐え、エルセルト街の冒険者並びに住民、フランに見送られながらエルセルト街を発ったのだった。


これにて第一章エルセルト街編が完結です。いかがだったでしょうか。私の稚拙な文章でも読んでいただける方々がいることに感謝です。幾度となく改変を施してまいりましたが、やはり完璧な文章を作るって本当に大変なことですね。これからは第二章ラディンオス街編をお届けしていく予定です。更新頻度がまばらになるとは思いますが、僭越ながらこれからも応援していただけると幸いです。次の更新はスキルについて、もしくは番外編となります。

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