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第14話 魔王軍第十部隊軍団長との会談††



──【††元英傑・フラン視点】──



「とうとう始まったか……」


フラン率いる迎撃部隊はエルセルト街正門前に本陣を置いている。遊撃部隊も同様の位置に本陣を張っており救護部隊はこの陣よりも少し奥に置かれている。とはいってもそんなに離れているわけではない。あくまで感覚的な話だ。


「フラン様、今回の戦況どう見ますか?」


フランの隣にいるのは騎士団副団長のエリック。彼を含めた騎士団は臨時に対応できるよう、一定数の兵士は集めていた。それゆえ、今戦場にいるのは代理だ。一概に代理、といってもフランが人選した代理はエルセルト街の序列の上の方のものばかりだ。よって、そう易々とやられることはまず考えられない。


「今のところはまだなんとも言えん。今遊撃部隊が戦っている軍勢はおよそ三万程度。後の七万の軍勢がどう動くかでかなり変わってくるだろう」


だが、フランはこの戦いをそんなに苦しいものではないと考えていた。


──魔王軍と言っても所詮は知能の低い魔物の寄せ集めでしかない。少し厄介なものもいるが、その辺は彼らがなんとかしてくれるだろう。


彼らというのは無論遊撃部隊のことである。フランの部隊は、ちょうど遊撃部隊がいるところと救護部隊がいるところとの真ん中に位置している。そのため、どちらの支援に回ることも可能だ。


「今回の指揮が魔王軍最強とまで言われたデルタスじゃないといいんだが…」


「……?団長、何かおっしゃいました?」


今のフランは騎士団長として戦場に立っている。彼が唯一使うことのできる系統外スキル『封印』は流石に大人数の中で見られるのは少々まずいとフランは感じていた。彼は当時こそ不死身だということは誰もが知っていたが、時代が変わり、さらにフランが普段から人前に出る機会がほとんどなかったため、知らない人が急増したのだ。今そのことを知っているのは高ランカー、つまりSランカーのみである。フランはそんな迷いを振り切るように首を横に振った。


「ああ、いや。なんでもない。ただの独り言だ」


彼は魔王討伐戦の時、そしてエルセルト街建設中と二度もデルタスと遭遇していた。魔王戦の時は後一歩のところまで追い詰めたのだが、逃してしまった。二度目の対峙の時は、古代のアーティファクトが残っていたためギリギリ応戦できたものの、彼の力はより強くなっていて真っ向勝負など挑まれれば勝つことができないのは一目瞭然だった。フランは天使エレノアから不老不死を授かっている。しかし、その効果が持続するのはあくまで病気、老化などのいわゆる『内部からの侵食』の場合であって、戦場で剣を刺されればその効果は発動しない。つまり、『外部からの侵食』だった場合、人間と同様、死ぬ。彼が開発した再生魔法も存在するのだが、術者本人が死んでしまってはまるっきり意味がない。だんだんと遊撃部隊が撃ち漏らした魔物が内部まで浸透してきている。フランは救護部隊の援護を騎士団に任せ、戦場に出た。


──久しぶりに魔物を狩れる。


心なしか、彼の目はハヤトの戦いで見せたような妖しい光に包まれている。フランは元英傑だが、今はSランク冒険者として生活している。そのため、勇者時の『系統外スキル』には劣るがSランク冒険者特有の技『秘技解放(リリース)』が使えるようになっている。ただし、秘技解放には『封印』スキルは存在しない。彼は迫ってきた複数体の魔物の間にスキル『防御(プロテクション)』を張る。魔物、もといゴブリンが一斉に倒れ込む。そこに彼は容赦なくスキル『流星雨(メテオレイン)』を叩き込んだ。倒れたゴブリンに上空から流星群のごとく容赦ない剣の雨が降り注ぐ。その剣を受けゴブリンが絶命した。軽く血飛沫が上がる。


「さすが団長ですね!俺にもそんなスキルが使えたらいいのですが」


今の戦いを見ていたのか、エリックが感嘆の声を上げていた。


「いや、お前だって十分強いだろう?」


「そうでしょうか…?」


エリックは実戦や模擬戦であれば、エルセルト街屈指の実力者だ。だが、彼は昔から引っ込み思案なところがあり、自信が持てていない。それは本人が一番よく分かっている。


「おい、エリック。何度も言っただろう?少しは自信を持てって。それと…ここは戦場だ。そんなこと言ってないで魔物を片付けるぞ!」


「はい、団長!」


彼はAランク冒険者だ。一度集中しだすととんでもない入り用で次々と魔物を倒していった。さっきの自信のなさはどこへいったという具合である。フランは彼のそんな姿──次々に木っ端微塵にしている姿──を見て昔の自分の姿を思い出していた。それから小一時間程度、二人で魔物を片付けていた。だがいくら鍛え上げていても所詮は人間。彼らも息がかなり上がり始めていた。


──倒しても倒しても次々と湧いてくる。正直ここまで来るとキリがない。このままいけば、こちら側の体力が尽きる方が先だ。


どうにか戦況を変えようと考える。とは言っても前線の状況もあまり把握できていない中で戦況を覆すのは至難の業である。そう考えていた矢先のことだった。真正面からとんでもない速さの矢が飛んできた。それは黒い何かを宿している。寸前で『回避』スキルを使い、顔面スレスレで避ける。だが、避けたはずの矢が翻して戻ってきた。


「団長!」


エリックの声でそれに気づき、回避スキルを何度も使うが結果は同じ。何度でも彼の方向へ戻ってくる。まるでその矢に意思が宿っているような動きだ。フランは急いで周りに外部遮断結界を張り、外部との干渉を断ち切ってから『秘技:一心斬り』と『第二階梯魔法:闇祓』の二つを使用した。まさしく文字通り矢が真っ二つに割れ、事象を書き換えることによって中に宿っていた闇を闇系統魔法で相殺する。突然フランの周りが暗くなった。外を覗いてみても特に変化は現れていない。その暗くなった結界の中で声がした。


『お前がデルタス様の言っていたフラン・エルセルトか。ふん…思ったよりも弱そうだな』


「……お前は誰だ?」


その声に向かって問う。その声は彼をせせ笑っているようにも聞こえる。


『我は魔王軍第十部隊指揮官のカルだ』


「それで……お前が俺に何か用か?」


『お前は以前英傑だった…昔のような力はもう残っていないようだがな。時にフランよ。すでに新しい英傑が現世に君臨しているようだな』


「だったらどうする?」


フランは剣を構えて周囲を観察する。


『そんなに警戒しても無駄だ、我は近くにおらん。それにもう英傑の名前は知っている…そう、ハヤトという名だったか。今回はお前に条件をつけにきた。返答次第では今から我が軍を撤退させても良い』


──わざと俺にカマをかけたのか。返答次第では、という言葉には引っかかるが。


「それで、条件というのは?」


カルは笑いを含んだ残虐な声でそれに返答した。


『これからハヤトとやらと戦う。そこにお前は手出しするな』


「んな……!」


──いくらなんでも無茶すぎる。勇者とはいえ、まだこの世界に来て日が浅い。


答えを出し渋っていると、その声が耳元まで近づいてきた。


『フランよ。お前の命、我が握っていることにまだ気付かぬか。哀れなことよ』


「なんだと!」


フランは急いで結界を解こうとするが、結界が破れない。何度試しても割れる気配が微塵も感じられなかった。さすがにフランも焦る。結界が破れないということは敵の術にハマったということになるからだ。ここで『封印』を使えば話が早いのだが、いかんせん相手が見えない以上、そんな真似をしても無意味なことはわかっていた。


「……そうか。つまり俺に拒否権はないということか」


『やっと気づいたか。そうだ、初めからお前に拒否権などない!』


──相手の術にハマった以上、ここで悪あがきをしてもどうしようもないことは一目瞭然だ。今は彼を信じるしかない。これでエルセルト街が救えるのなら…!


フランは肩の力を抜き、相手に降参の意を伝える。流石にフランだけでこの結界を破るのは無理があった──昔の力があれば話は別だが。


「……解った。その条件、飲んでやる。ただし、今すぐここにいる全兵を撤退させろ!」


『……言ったはずだ。返答次第、では、と。お前は決断が遅かった。我が軍の九割を撤退させる。後の一万弱の兵は──せいぜい頑張るんだな!』


再び大声で笑ったかと思いきや、その声は急速に小さくなり、結果も徐々に破れていく。彼は思い足取りで代理の三人を招集した。




◇ ◇ ◇




「……っていうことがあった」


「その話は本当なのですか?」


「ああ、そう言われた。ハヤトと軍団長が対決するらしい」


救護部隊のリーゼットが戦況を表した図を見て唸った。ハヤト及びカリナのことはセティーラに知られてしまったため、Aランク冒険者のエリック、セティーラ、リーゼットの三人にはすでに話してある。そして彼らもフランの正体、そして魔法のことについても大方話してある。そうしないと仕事の都合上、うまくいかないこともあるからという理由の苦肉の策だった。


「いくら彼でも無茶なんじゃない?」


「……当時──彼にあった当初なら俺もそう思っていただろう。だが、実際は彼の力は俺をすでに超えている」


その発言を聞き、四人が驚きの意を示した。


「フラン様は彼と戦ったのですか?」


「ああ。俺も興味本位で戦ったんだがな、最終的に魔法を使ったよ。いくら『封印』で力が制御されているとはいえ、あれは本当に肝が冷えた」


「彼はそんなに強いの?」


「おそらくSランク冒険者──いや、勇者の力さえも圧倒している可能性が極めて高い。ただ、本人はそのことに全く気がついていないみたいだが」


「なるほど。それなら彼に任せても問題はなさそうね」


四人が揃って頷く。フランはそんなことより、と先を進めた。


「ひとまず彼のことはおいておいて、こちら側の対応の話をしよう。今戦場にいる魔物に加えておそらく後一万追加される。ここが俺たちの山場だ。いかに死者を出させないかが重要になってくる」


「そうですね……ここに一箇所に固めるのはどうでしょうか?」


Aランク冒険者三人とフランは戦況を覆すための作戦会議を始めたのだった。




──救護部隊・リーゼット──


フランからの招集を受ける少し前。



ついに戦いが始まったらしい。至る所で出撃の合図が繰り返されている。今回の使命はとにかく怪我人の治療をすることだ。私が持っているスキルの中には死者を生き返らせるようなものは存在しない。つまり、重要なのは死人と怪我人を間違えることなく治療を完了させ、一刻も早く戦場に復帰させること。私は治癒スキル関係でAランクまで上り詰めた数少ないものの一人だ。私の場合、治療速度が他の使用者と比べて圧倒的に速いことが評価されたらしい。


早速怪我をした兵士や冒険者がこちら側に運ばれてくる。早く治療しないと。治癒スキルを発動させた。


回復(ヒール)


数秒後には彼らの出血は止まっている。そして苦しみに満ちた表情はすでに和らいでいる。


「あ、クレアさん!この人の治療お願い!」


回復スキルを会得しているものはこの街には少ない。それゆえ、戦場において人員はかなり重宝される。私は周りにいる人に次々指示を出していく。



しばらくすると重症なものも当然現れてくる。そんな人には『回復』の上位スキル、この街で私しか使えないスキルを使用する。


大回復(ハイヒール)


重症な人はこれで一気に回復する。しかし、このスキルには大きなリスクが存在する。人間が瀕死の状態から急に全回復すると当然体内の血液が足りなくなる。その補填が間に合わなければ死んでしまう。そんなこともあり、このスキルは本来あまり使わない。



リーゼットはどんどん運ばれてくる怪我人の治療をしつつ、前線のことを気にかけるのだった。


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