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第13話 カリナの休日、そして戦場へ



──【††カリナ視点】──




──カリナの休日──



ハヤトと洞窟を出てから、数日間、身体が言うことを聞いてくれない。おそらく、しばらくの間鍛錬をサボっていたからだろう。久しぶりの秘技連発で身体がこたえていた。だが、魔王軍の侵攻もすでに始まっていると聞く。ハヤトは早朝に部屋を出て、夜遅くに帰ってくる。後をつけて行ったが、途中で消えるようになくなってしまった。


『カリナも好きなことをしてていい』


彼の言葉が頭をよぎった。そうだ、魔王軍が攻めてくるとは言っても、おそらくそこまで強くはない──仮に強かったとしても、ハヤトがいれば大被害など起こるはずもない。そのくらい彼は強すぎる。もしかしたらフランを優に越しているかもしれない。


そう言い聞かせ、横になっていたベッドから起き上がった。


──久しぶりにソロで何かするか。


私は机に置いていた片手剣を持ってエルセルト街西門から外へ出る。冒険者ギルドで依頼を受注しなかったのは、Sランク冒険者カリナ・シヴァレーゼとして行動するためだ。冒険者ギルド本部のマスターがSランクになった時に私に教えてくれた変身スキルで名が通っている身体になる。


『────────』


私はSランク冒険者の体でスキル『瞬足』を使い、一気に森の深部まで駆け抜けた。


エンライト森林は割と深い方だといわれている。奥に進むにつれて日が入らなくなっていき、暗くなってくる。しかし私は『暗視』が使えるため、困るようなことは一切ない。一人でこの辺までくるのは久しぶりだ。風の音、川のせせらぎ、鳥の鳴く声、全てが澄んだ音で聞こえてくる。その時、急にカサカサと言う音が聞こえてくる。


「誰?」


返事はない。だが、なんだか人の気配だ。いきなり草むらから顔が出てきた。


「やったぁ!人だぁ!!」


どうやらこの森に迷い込んでいたらしい。顔を見るからに十九くらいの少女だった。


「‥‥‥あの‥‥‥大丈夫?」


半分驚きながらも私は彼女に尋ねた。


「ええ…なんとか。あなたもこの森に用事?」


「私は少し気分転換にとここにきた。あなたは…?」


「私は一応Cランクのクレア。この森で依頼を受注したんだけど迷子になっちゃって」


あはは、と彼女は笑って誤魔化した。


「そう……ちなみにどの依頼を…?」


「この森林に生えているストラジアンっていう薬草なんだけど。もしかして場所分かっちゃったりする?」


「それなら、この薬草は確かこの川を少し下ったところにある」


「本当に知ってるの……!本当にありがとう、女神様!」


「私は別に女神じゃない。ストラジアンを取りに行くんだったら私もついて行こうか?」


彼女は私の顔を見て、すぐに満面の笑顔を浮かべた。


「はい!よろしくお願いします!」





◇ ◇ ◇





「じゃあクレアは普段はパーティで動いているの。私はてっきりソロなのかと…」


川沿いを歩きながら私たちはそんな会話を交わしていた。


「そうだよ。基本的にはパーティで魔物の討伐とかやってるんだけど。あっ、ちなみに私はヒーラーね。今日はソロで動いてる。…ってごめん、私ったら自分のことばっかりで」


「クレアの話、とても面白い」


「……そういえば聞いてなかったけど、今ランクって…?」


「私?」


一応自分の背丈と胸、頭を触る。うん、大丈夫だ。これなら言っても問題ない。


「私はSランク冒険者」


そう言った途端、二人の間にある空気が凍りついた。彼女顔が見るまに青白くなっていった。


「も、申し訳ございませんでした!貴方様がそのような高ランクの方でしたとは!」


急に口調がカタコトになる。別に私は気にしてないのに。


「顔をあげて、クレア」


「でも……!」


「今の私は普通の冒険者。そこまで畏まられると困る」


なんとか彼女を落ち着かせようと試みる。…ハヤトの時はこうはならなかったのに。数秒後、彼女は顔をあげた。


「──そうですか、貴方様がそう言うのでしたら」



私たちはその後、ストラジアンを集めながら今までの冒険をお互いが語った。彼女は人族で、小さい頃から冒険者になることが夢でよく剣で鍛錬していたのだという。私の話は特にしていない。本当のことを言うと面倒だったからだ。


「…これくらいの量で大丈夫?」


「おーけーよ。このくらいあれば今日の依頼が達成できるわ。本当にありがとう」


「役に立てて良かった」


森林の出口まで案内し、彼女と別れた。別れ際に、「今度また!」そう言って駆けていってしまった。日はもう西に傾いている。久しぶりにこの姿で冒険者と話をした、そう思いながら大きく伸びをする。なんだか久しぶりにゆっくりした気がする。少し体の緊張もほぐれた。これなら魔王軍戦に向けて訓練が再開できそうだ。そう思いながら私はハヤトの待つ宿屋へと帰ったのだった。






◇ ◇ ◇






──魔王軍──



魔王軍第十部隊は今までになく活気に満ち溢れていた。


「皆の者、鎮まれ!」


その一言で部隊内は一気に静かになった。


「これから我が軍は都、エルセルト街に攻め込む。お前たち、準備はいいか!」


もちろん、筆頭にいるのは魔王復活計画に関与している幹部のカルだ。


「いいか!絶対にエルセルト街をデルタス様にお渡しするのだ!」


歓声が一際大きくなる。


「これからお前たちに総配置の確認をする。絶対にこの配置を守れ」


魔王軍第十部隊、とは言っても決して兵が少ないわけではない。軍の兵はおよそ十万、エルセルト街にいる人間の兵力は集まってせいぜい三万弱。カルはこの計算なら間違いなくエルセルト街を落とせると確信していた。彼は部隊をさらに細かく分け、配置を確認する。


──これなら非力な人間どもを易々と捻り潰せそうだ。そうすれば私の地位も……!


カルの命令は十万の軍にとどこおおりなく伝えられた。彼の声が伝えられるごとに魔王軍の士気はさらに上がっていく。そして進軍の準備も徐々に整い始めている。カルは出発前に魔王城謁見の間にきていた。そこにはデルタスが座っている。


「我が軍の進軍準備が整いました。今夜中に進軍いたします」


彼の顔は影に隠れていて見えない。


「了解した。ではカル、お前に告ぐ。これより、魔王軍第十部隊の進軍を開始せよ!」


「は!その命令、しかとお受けいたしました。このカルが必ずエルセルト街を落として参りましょう!」


「よろしく頼む──ああ、カル。お前個人に言い忘れていた」


デルタスはゆっくり玉座から降りる。だが、暗闇で顔を見ることができない。見えない身体から強烈なオーラが発せられているのはカルでもわかった。


「なんでしょうか?デルタス様」


「今回の戦、くれぐれも気をつけたまえ。それだけだ、もう下がってよい」


「それはどういう……?」


「聞こえなかったのか、もう下がれと言った」


「し、失礼いたしました!」


カルは慌てて謁見の間を後にした。そして自分の軍に向かって大声で叫んだ。


「これより、エルセルト街に向けて進軍を開始する!」




──エルセルト街──



エルセルト街・中央広場。そこにハヤトを含めた冒険者が集められていた。


「魔王軍はもうすぐエンライト森林に侵入する!皆に伝達する。ついに魔王軍が我がエルセルト街のすぐそこまで来ている!」


広場の中心で冒険者ギルド・ギルドマスターのフランがそう話している。もちろん、この声明はエルセルト街全域に届いている。


「エルセルト街は今や冒険者育成に欠かせない大きな街となっている。それをみすみす魔王軍の手に渡すわけにもいかない。お前たち、この街を全力で守りぬけ!」


彼の一言でより冒険者の士気が上がる。さらに追い打ちをかけるように大ニュースが流れる。ユリアが声を張って大ニュースを報じた。


「冒険者の皆さん。魔王軍侵略により、エルセルト街が危機的状況に置かれています!よって、私たち冒険者ギルドから緊急依頼を発行します。今回の戦いでより戦果を上げたものには特別報酬が支払わます!」


突然の冒険者ギルドからの緊急依頼発行により、エルセルト街はかつてないほどに士気が向上していた。


「偵察によると魔王軍の軍隊はおよそ十万、対し我らは三万と一見不利な状況にある。だが!お前たちには特殊なスキルと冒険者としての意地がある。我らには敵の数など関係ない!目の前にいる魔王軍を片っ端から潰すだけだ」


「これからお前たちを三つの部隊に分ける。一つ目は騎士団代理団長:セティーラ率いる遊撃部隊、二つ目は俺率いる迎撃部隊。そしてもう一つは騎士団副団長代理:リーゼット率いる救護部隊。この三つだ」




◇ ◇ ◇




「今回はよろしくお願いします、ハヤトさん、そしてカリナさん」


結果的にハヤトはセティーラが率いる遊撃部隊に所属することになった。もちろんカリナも一緒である。二人は先頭に立っているセティーラに挨拶すべく、軍の先頭に来ていた。


「俺たちは本当に救護部隊に回らなくて良かったのか?」


「ええ、問題ありません。あなた方のことはすでにフランから聞いておりますので」


淡々とそれを告げる。しかし、彼女はこの発言によって結果的に墓穴を掘ってしまった。セティーラの話を聞き漏らすはずもなく、ハヤトは気になってセティーラに問いかけていた。


「俺のことを知っているのか?」


セティーラはしまった、という顔、というよりかは困った顔になった。どうやらこれはフランに口止めされていたらしい。


「申し訳ありません、口が過ぎました。今のことは忘れてください」


「一体どういうことなんだ?」


彼女は一瞬言おうか迷って挙句、結局いうことにした。ふう、と少しため息を漏らしながら経緯を話した。端的にいうとハヤト対フランの最終模擬戦を見られていた、ということだった。ハヤトはさきの戦いで注意が散漫していて最後にすれ違った人物、なぜすれ違ったのか考える余裕なんてなかったのだ。


「そういうことだったのか……。それならしょうがないか」


「カリナさんのことは度々冒険者ギルド会議でご一緒させていただいたので存じておりました」


「そうだね、よく見かける」


「あなた方がお強いのは存じておりますが、お気をつけてください」


「ああ、セティーラもな」


そう言って彼女は部隊の戦闘に移動した。ハヤトもそれに続いて軍の後方へと移動した。


「結局セティーラさんに知られちゃってたね」


「そうだな。そういえばあの時カリナが関わらなかったのはなんでだ?」


「あの時は他にも結構人いたから。多分事情を知ってるセティーラさんが助けてくれたんだと思う」


──ということは結局知らなかったのは俺だけかよ。


ハヤトは少し悲しくなったが事態が事態なのでそうも言ってられない。



いきなり大きな音が鳴った。それは魔王軍がエンライト森林を超えたことを知らせる合図だった。ハヤトも気合いを入れ直す。いくら少し強くなったとはいえ、まだまだこの世界に来て日が浅く、経験不足だ。気を緩めたらおそらくすぐにやられるだろう。ハヤトは鞘からシンファトラを抜き、カリナと顔を見合わせる。遠くからセティーラの声が聞こえた。


「遊撃部隊、出撃!!」


「「「「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」」」」


遊撃部隊から凄まじい雄叫びが上がる。その声はエルセルト街の一般住民からすれば、魔物の雄叫びとして認識されただろう。とにかく、それくらい大きな音だった。


──もう少し声量に配慮したらどうなんだ?


そんな不満がハヤトの脳内に再生される。しかしここは戦場。余計なことを考えている暇など、ある意味初陣でもあるハヤトにあるはずもなく。カリナがハヤトの脳内再生を打ち切った。


「ハヤト」


「ああ、問題ない。いくぞ!」


再び剣をしっかりと握り、ハヤトは敵の本陣へ向かった。


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