第12話 勝率が極めて低い模擬戦 ⑵
そのまま二日間が過ぎ‥‥‥四日目。
ハヤトは少しずつだが真意を動かせるようになった。だがあくまで動かせるだけであり、いまだに理を破るには至っていない。本来ならここまで早く真意を動かせる、なんてことはない。英傑というバフがあったからこそこなせたことでもあった。
「今日は俺が開発した魔法の種類について教える。魔法は火、水、風、土、雷の五元素が基本となっている。その五つを基軸として階梯魔法が構築される。そして、知っているだろうが階梯が上がるにつれて威力も倍増する」
「なるほど‥‥‥その五元素を応用すればまだ作り出せるってことだな」
「まあそういうことになるな。んで、そろそろコツが掴めて来たんじゃないか?」
「まだ真意を動かせるようになっただけだが」
フランはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。ハヤトは少し嫌な予感を覚えながらも彼の話を聞くことにした。
「そりゃあ上出来だ。それならもう一度模擬戦をやれそうだ」
その言葉を聞いてハヤトは心の中で予感が的中してしまったことを憎んだ。だが、いくら憎んでみたところで結果は変わるはずもなく。
「もう模擬戦か?強くなった気がまるでしないんだが」
ハヤトがフランに教わっていたことは何も魔法のことだけではない。基礎体力の底上げ、剣の捌き方、体の使い方など、さまざまなことを教えてもらっていた。結果ハヤトに見えたのは鬼化したフランだった。
「まあ何がともあれ、今は魔法に専念しろ」
その後みっちり夜遅くまで魔法の詠唱練習叩き込まれた。その夜、魔法の詠唱、そして真意の移動をやりすぎたせいで身体中が悲鳴を上げていたのはいうまでもない。
五日目
もう特訓を開始してからもう五日になる。フランの教え方がうまかったのか、ハヤトが頑張ったからなのか、はたまたその両方なのかはとにかく、なんとか第一階梯魔法を会得することができた。(とは言っても、まだ手に浮かせられるだけで、まだまだ実用的ではない。)そして、ハヤトは少しだけ、剣筋が良くなったと実感できるようにまでには成長していた。ハヤトは前回同様、戦闘訓練場に片手剣──シンファトラだけ持っていく。
「よう!今日は早いな!」
相変わらず彼は気配を消すのが上手い。声をかけられた当の本人であるハヤトはいきなり背後から声をかけられて思わずビクッと体だけが反応した。
「っ!なんだよ、驚かすな」
「わりい、つい脅かしたくなっちまって」
相変わらずはっはっは、と笑う。
「よし、今日は模擬戦だ。ルールは俺に一筋入れること。そしてどんな魔法を使ってもかまわん。もちろん、系統外魔法も使っていい。では始めるぞ!」
また前回のように彼を取り巻く空気が凍てつく。だが、前回と違うのは、彼の空気が前回よりも濃いことだ。だが、ハヤトはこんなことを気にしている場合でもなかった。ハヤトはしっかり剣を我流の構えで握った。ハヤトとフランは同じタイミングで足に力を入れる。そして、同時に地面を蹴った。二つのシンファトラが激しくぶつかり合い、当たったところから火花が飛び散る。それくらいまで彼らの模擬戦は激しいものだった。筋肉量が違いすぎるせいもあり、ハヤトの方がやや、というかかなり部が悪い。『加速』の力で彼の力に対抗する。対零基子が彼の足元に密着する。そして激しく何合も打ち合う。彼の剣の一振り一振りが重たい。ハヤトが自身で身体強化していなければあっけなくやられていただろう。しかし、フランは未だスキルを発動していない、つまりこれよりも数段階強いということになる。それでも力は拮抗していた。彼の攻撃をギリギリで交わし、系統外魔法『螺旋結界』を発動。
「ほう…まだあ面白いもん隠し持っていたのか」
空中の対零基子がベクトル運動を始め、ハヤトの周囲に結界を施した。だがそんな結界も彼が剣で軽々しく一振り一振りで一枚、また一枚と割れていく。しかしハヤトにとってフランが一枚一枚割ってくれるのはいい時間稼ぎとなった。ハヤトは身体に感じる真意を左に動かすよう指示を促す。その瞬間、脳に頭痛が走ったのだが、そんなことお構いなしに真意を無理やり動かす。頭痛が走ったというのはこの世界での定義を破ったことを意味するものだった。ハヤトの左手に真意が宿る。まだまだ実戦で使うには程遠いがそれは思わぬ使い道もある。フランが最後の一枚を割った時、ハヤトは魔法を詠唱した。
『第一階梯魔法:ファイヤー・ボール』
ハヤトがその魔法を発動させた瞬間、彼だけにしか聞こえない超音波で『キンッ』という音がした。魔法の発動には超音波音がなると言うのは階梯魔法においても同じだった。ハヤトの左手から眩い光が放たれる。ハヤトはそれと同時に系統外迎撃魔法『剣技残像』も展開していた。当然フランは結界を破りつつ流れるように攻撃してくる。彼の剣が当たった瞬間、ハヤトは隠していた左手を彼の顔に向ける。
「うぉ?!」
彼は眩しそうにしながらも、『カウンター』を回避しようと体を捻った──だが、一歩遅かった。ハヤトの影、もとい分身が剣を振り下ろす。数秒後、彼の頬に一筋の赤い線が入り、血が流れ出始めた。一瞬二人の空間の時間が停止する──と、唐突にフランは笑い始めた。
「はっはっは!これは参った!まさか教えた階梯魔法をこんなことに使うとは!」
フランは剣を鞘に納め、大声で笑った。ハヤトはというと、今の状況がうまく処理できないでいた。じわじわとフランに勝ったという実感が湧き上がってくる。
──今まで一回も当たらなかったのに、当たった。
「ハヤト、ひとまずはこれで訓練を終わりにする」
「え…もう終わりなのか?」
「そうだ。それが条件だからな。それにしても……っ!」
フランはさっきのことを思い出したのか、まだ笑い続けている。
「そうだ、お前に一言言っておこう。魔王軍との戦い、期待しているぞ!」
そう言いながら訓練場を去っていった。
──本当に、当たったのか?
正直彼は相当手を抜いていたのではないか、そう思えてきて仕方がない。まあ何がともあれ、フランに一太刀入れたのだ。それだけは間違いない。
魔王軍との戦闘まで残り二日。自然とハヤトの拳に力が入る。
──少しは強くなれたんだ。これなら多少魔王軍に太刀打ちできるかもしれない。
ハヤトは訓練場を去るとき、ある人とすれ違った。だが、その時彼はフランがかけていた結界魔法のことなどすっかり頭から消え去っていた。
──【††元英傑・フラン】──
俺は今日もハヤトに模擬戦を挑んだ。彼の力を試したい、というのは建前で、実際にはもう一戦ってみたかったのだ。一週間鍛えただけで、俺が長年苦労して作り上げた魔法を本当に習得しちまった。いったいどうなっているんだ、あいつは。元々先天的に使えるとはいえ、いくらなんでも早すぎだ。この世界の理はそう簡単に──英傑の力を持ってしても──本来なら破れないはずだ。俺もそう思っていた。が、結果は違った。ハヤトはたったの一週間で理を破ることだけにとどまらず、もう第一階梯魔法まで発動できたというのだ。もしかしたらこの先本当に危険なのはこいつなのかもしれない。明らかに魔王よりも強い、俺はそう確信している。そんなわけで俺はハヤトに再び模擬戦を仕掛けた訳だが……。一週間でさらに強くなっている。それでも本人は全く自覚がないらしい。はっきり言ってこれは異常だ。
今回もハヤトの戦いで魔法を使うことになった。正直思っていたよりも強すぎてスキル、魔法なくしてハヤトに勝とうというのはもはや無謀の挑戦に他ならなかった。ハヤトが攻撃してくる直前『身体強化』『瞬足』『腕力増幅』…自分が持てる最大限の魔法とスキルを使っていた。俺は元々相手にスキルや魔法発動が悟られないようにするのが得意だった。そのおかげで彼に悟られずに全力を出していた。強がりでハヤトが見せた初見の技に皮肉を混ぜる。
「ほう…まだあ面白いもん隠し持っていたのか」
『螺旋結界』と定義された系統外魔法が彼の周りに展開される。俺は全身全霊をこめながら一枚一枚割っていく。だがその時、彼が第一階梯魔法を発動させたのだ。流石にまずいと思い、回避しようと思ったのだが、後ろから迫り来る黒い影には気づけなかった。結局、俺は彼に攻撃を許してしまった。
『この俺が、負けた……!!』
そんな言葉が俺の頭でこだまする。と、突然俺は笑いが込み上げてきた。それが負けたことへの諦めだったのか、感心だったのかはよくわからなかった。
「はっはっは!これは参った!まさか教えた階梯魔法をこんなことに使うとは!」
そう言って俺は彼に背をむけ、皆が待っている冒険者ギルドへと戻った。




