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第10話 特殊訓練宣言

           




ハヤトら一行はセティーラと軽い世間話をしながらエルセルト街に戻ってきていた。セティーラに連れられながら冒険者ギルドへ赴いた。冒険者ギルドの受付がある方ではなく、裏口から通される。受付の方は今日もいち早く依頼を受けようと冒険者が集っていた。セティーラがある部屋で止まり、ドアに向かってノックする。その後、彼女はお辞儀をしながらフランの仕事部屋に入って行った。ハヤトもそれに続く。


「フランさん、本当にありがとうございました」


「気にするな。私どもとて、教会からのお告げがなければ手の打ちようがなかったのだから」


「それよりも、お前たち二人に話しておきたいことがある。すまないが、下がってくれるか?」


「は!」


フランの元鍛え上げられた騎士団はものの数秒でもたつくこともなく部屋から退出した。


「それで、話というのは…」


誰もいなくなったところでハヤトは口を開いた。


「ああ、私の部下から先程聞いた話なんだが、どうやらエンライト森林のあたりで魔王軍が進軍しているらしい。それに私の見積もりだと後一週間足らずでこのエルセルト街に到着するだろう。そこで」


立ち上がってフランはハヤト、カリナに頭を下げた。


「お前たち二人に魔王軍との最前線で戦ってもらいたい」


エンライト森林は、エルセルト街から数キロ離れた所に位置する。そこから魔王軍が進軍しているらしい。とはいっても、今の段階ではただの憶測でしかなかった。まあそんなことだろうとハヤトは予想していたがまさか本当にこの話が降ってくるとは思わず、少し驚いた表情で応答する。


「頭を上げてくれ、むしろ俺たちが頭を下げる方だ。俺はいいと思うんだが」


ふと隣にいるカリナに目線を移す。


「うん。私もハヤトと同じ意見」


「それなら話が早い、本当に世話をかけるな。では魔王軍が進軍してきた時は頼んだぞ。話しておきたいことはそれだけだ」


お辞儀をして部屋から出て行こうとしたのだが、途中でハヤトだけ呼び止められた。カリナには先に宿屋に戻っているように促し、フランと二人きりという、なんとも重苦しい雰囲気になった。


「なあ、ハヤト。お前に一つ確かめたいことがあるんだが」


いきなり砕けた口調になったことから、私用であることは確かだ。ハヤト自身もそれに応えて応答の仕方を変える。


「なんだ?」


「ハヤト、単刀直入に聞く。お前は系統外スキル所持者か?」


「……一体なんの話だ?」


いきなりの質問に半ば焦りながらもハヤトはどうにか質問に質問を返した。


「隠す必要はない」


──系統外魔法なら使えるが。だが、この世界には魔法は一人を除いて使えないと言っていた。それになんで『系統外』関連を知っているんだ?


完全に隠し通せないと悟ったハヤトは、仕方なくそれを暴露した。誤解なく言っておくが、これは不本意の行動である。決してハヤトは自分から名乗り出たかったわけではない。


「‥‥‥わかった、正直に話す。あなたが言っている系統外スキルではないが、系統外魔法なら使える」


「──やはりお前だったのか。俺の判断は今度こそ間違えてなかった」


そんな彼を試すようにフランはじっと見つめている。


「なんで系統外スキルのことを知っているんだ?」


「──それは私が初代英傑だからだ」


「‥‥‥は?」


一瞬──とは言えない時間、ハヤトの脳がフリーズした。二千年前の人物が現在生きているなんて到底信じ難い。そのため、脳がフリーズするのも当然と言えば当然だろう。さらに彼はそんな他人が聞いたらさぞ腰を抜かすであろう情報を飄々(ひょうひょう)と言ってのけたのだ。


──いやいや、そんなはずはない。この世界で魔王を封印したのは約2000年前のはずだ。そんな昔の人間が生きているはずがない。


「ならこれならどうだろう──私の実名は佐崎柚刃だ。」


「‥‥‥っ!!」


改めてそれが現実であることを突きつけられる。今度こそハヤトは彼が本当に初代英傑だと信じざるを得なかった。


「本当に…初代英傑なのか?」


「ああ、ってさっきから言ってるだろうが。で、ハヤト。お前が今持っている系統外魔法は?」


ハヤトの驚きを適当にあしらい、これが本命だと言わんばかりに強調している。


「‥‥‥本当に誰もいないよな?」


「安心しろ。一応結界魔法を施している」


またもや異世界でしか聞き得ない、実在しない情報をさらっと言ってのけた。新たな情報にハヤトも困惑する。


「エレノアが言っていたもう一人の魔法使いってフランだったのか?」


「ああ。その通りだ。だが、お前みたいに先天的に得たものじゃない。俺は独自のルートで魔法研究を進めていた」


彼は壁に飾ってある剣を眺めながら語り始めた。剣は壁に二つ飾られており、両方同じ見た目である。


「俺が召喚されたのは、この世界で言うとちょうど2000年前。魔王が誕生した年だ。当時、俺は数個の系統外スキルを使いこなす英傑だった。とは言っても、それは契約スキルで得た『借り物』だったが。だが……魔王討伐戦の時、俺を庇って何人ものSランクのパーティメンバーが死んでしまった」


彼は苦しそうな表情で語っている。彼の『召喚』という記憶も現実世界で事象変更された後に施された夢だ。


「彼らが死んでいくたびに、今まで俺が縛っていた契約という鎖が解けてその時に得た系統外スキルが消滅していった。俺のパーティメンバーの一人だったアリナと契約した時、『封印』というスキルを得た。激戦の中、最後まで残ったのは俺と彼女だけだった。彼女は俺に最後の希望と称した『秘技:祝福(ブレッシング)というスキルを俺にかけ、その後再び彼女は戦場へと戻った。あの時は聞き取れなかったが、去り際におそらく『さようなら』と言ってたのだろう‥‥‥俺は最後の力を振り絞って魔王に彼女からもらったスキル『封印』でなんとかその場を凌いだ」


「戦争が終わった後、俺は彼女の安否を必死に確認したが、彼女は結局戦士していた。だが、俺にはまだ『封印』の力が残っていた。パーティメンバーが全員死んでしまったことで俺も死のうとしていたが、今度は天使エレノアにある条件を突きつけられ、結局不老不死の体になってしまったというわけだ」


「──で、その条件ってなんだったんだ?」


「次の英傑候補、つまりお前を全力で鍛え上げることだ。確かに系統外スキルは強い。だが、俺はその時から系統外スキルに封印がかかっていて使うことができない。そんな時に出てきたのがこれだ」


彼は立ち上がって、手を上に翳した。


『第一階梯魔法:ファイヤーボール」


フランによって定義された魔法が顕現する。手のひらに小さな火の玉が宿った。だが、第一階梯魔法のせいか、少し小さい。


「これは俺が地球から逆輸入してきたものだ」


彼はイタズラを覚えた子供のような表情を見せる。


「つまり、俺にその魔法を教えるってことか?」


「ご名答。だがな、ハヤト。これは俺が独自で作り出したものだ。それにまだ第四階梯魔法までしか俺も作れていないんだ」


「つまり、俺がそこから先自力で編み出さなきゃいけないってことか」


「ああ、そういう解釈で間違っていない。俺の見込みだと一週間で魔王軍がエルセルト街を侵略しに来るだろう。それまでにお前に魔法の基礎を叩き込む」


今まで他人事だと思っていたハヤトだったが、今から教えると言われ、驚愕の表情、いや呆れた表情を見せる。エレノアが系統外魔法には劣るが魔法を独自で生成し定義できると言っていたことを思い出した。彼がここでフランの独自で編み出した生成方法を学ぶことである程度のノウハウは身につけることができる。つまり、これから魔法生成のための基礎を教えるということだ。


「それと‥‥‥これをお前にやる」


フランは壁にかかっている片手剣をハヤトに渡した。


「これは…?」


「これは俺が英傑だった時に使っていたアーティファクト:シンファトラだ。そう簡単には折れないし、仮に折れたとしても鍛冶屋で剣を叩けばすぐに元に切れ味に戻る。元々エレノアにもう片方は次の英傑に渡せと言われていたんだ」


「あなたの剣は?」


「俺のか?そんなの心配しなくていい。元々それはこの剣合わせて双剣だったものだ。俺ももう片方持っている」


壁にかかっているもう片方の剣を指差して答えた。


「そうか。それならありがたくもらっていく」


「稽古の時間は後で知らせる。話はそれだけだ。すまないな、時間を取らせて」


──まさかギルドマスターが初代英傑だったとは。でも、彼のおかげで強くなれそうだ。


フランが生み出した階梯魔法は系統外魔法に劣るものの、日常でスキルがわりになることは一目瞭然だ。スキルが使えないハヤトにとってその基礎を教えてもらえることは幸運だった。




◇ ◇ ◇




冒険者ギルドを出たハヤトは、カリナのいる宿屋の方に向かっていた。ハヤトらが仮住まいとして使っている宿屋は女将の好意によって、いわばアパート・マンションといった形の契約になっている。とはいえ、いつまでもこのエルセルト街に残っているわけにもいかなかった。彼は謎に重たい宿屋のドアを開け、久々に会った女将ことシャロンに挨拶をする。


「久々だな、シャロン」


「おう、久しぶりだな。それにしたってあんた、なんでも道中で倒れていたんだって?」


「実は……」


ハヤトは内心面倒臭いと思いながらもシャロンに先程あったことを説明した。とは言っても、天界で起こったことなどはさすがに伏せたのだが。


「へえ、そんなことがあったのかい。まあなんにせよ、あんたたちが帰ってきてよかったよ。そうだ、カリナちゃんが部屋で待ってるよ」


ハヤトは階段を登り、カリナの待つ部屋に向かった。


「ハヤト、おかえり」


部屋のドアを開けた瞬間、眠たそうな声が室内に響き渡った。実際、彼女の目は半分とろんとしており、すでに寝巻きに着替え、寝る支度を始めているところだった。


「ああ」


「それでギルドマスターとの話ってなんだったの?」


眠たさが浸透しつつも、興味津々と言った様子である。先程の会話に入れなかったカリナにとって興味のある話題には違いなかった。ハヤトはザックリと概要を話していく。


「そのことなんだけどな、カリナ。魔王軍進行まで後一週間あるだろ?なんかギルドマスターに鍛えてもらうことになった」


「──そうなの?」


声はあまり驚いているようには聞こえないが、彼女の瞳孔が開いていた。滅多に表情を顔に出さないのでそう言うところから読み取るしか術がないのである。


「彼が独自で習得した魔法を俺に教えるとかなんとか」


「ハヤトが使う魔法となにが違うの?」


ハヤトはなんて説明しようか頭を捻った。そして──しばらく考えた結果、あまり詳しく説明しない方を選択した。彼女の脳の半分は夢の中であるため、言っても理解しないだろうと踏んでの決断である。決してカリナに意地悪をしたかったわけではない。


「まあ詳しい説明は置いといて、要は自分が戦闘時に使える手段が増えるってことだ」


「それじゃあハヤトは一週間ここにいないの?」


少し寂しそうな表情を作ってそんなことを言ってくる。はっきり言って「それはずるいだろ」と思ったのだが、そんなことはおくびにも出さずに飄々と告げる。


「いや、そんなことはないぞ。ただ…彼の厳しさにもよるだろうが」


「そう‥‥‥。私もこの一週間は戦闘に向けて訓練しようかなと思って」


流石にSランク冒険者とは言っても、大人びた身体になってからあまり動いていないまま戦闘に行っても体が動かないらしい。実際戦っている時のカリナは少し顔を引き攣らせていたことを思い出した。


「それならちょうどいいな。この一週間はそれぞれの休暇ってことでいいか?」


「わかった。それならはぁとも…──」


結局眠気には耐えられなかったのか、話している途中に寝てしまった。


「今日の朝もあんなに寝てたのにまだ寝るのか」


ハヤトは苦笑しながらも、そっとベッドに横たわらせる。結局そのままハヤト自身もベッドで寝てしまった。




◇ ◇ ◇




時刻午前二時三十分。ハヤトはある物音で不意に目が覚めた。


──何か音がする。これは‥‥‥寝息か?いや……待てよ?泣き声か?


ハヤトは体を逸らそうと動こうとした──結果動かなかった。少しずつ音が聞き取れるようになってくる。


「……ト。ハヤト」


どうやらハヤトの名前を読んでいるらしい。声を出そうとしたがやる前から結果はもう目に見えている。やっぱりダメだった。


「……怖いよぉ」


どうやら悪夢にうなされているらしい。それも話している内容を察するに、おそらく以前のパーティにいた頃の記憶だろう、そんな予測をハヤトは寝ぼけた頭で思考する。もう彼には詳しいことを考える脳は起動していなかった。それゆえ、彼女が言ったことも聞き逃してしまう。


「‥‥‥アリナ‥‥‥私はどうしたら‥‥‥」


だが、そんな寝言も数分経つと消え、元の寝息にもどった。その途端、ハヤトは金縛りが解けたかのように急に動けるようになった。背中の方を見ると、カリナが背中に顔を埋めて寝ていた。


──意外と年齢相応なところもあるんだな。


ハヤトはその姿勢のまま再び眼を閉じた。次の日、その二人の格好を女将のシャロンが目撃することになるとハヤトは夢にも思っていなかった。その後何故か他の宿泊者から『おめでとう』と言われたのだが、一体どういうことなのだろうか。そんなことを考えたハヤトだった。



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