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第5話 取り返しはつかない

あの日からレインは私にべったりになった。

今日もレインは紅い瞳を輝かせて上目遣いでこちらを見てくる。


「ソフィア、うちに泊まっていかないの?」

「そういうのは私じゃなくてうちの父親とレインのお父様お母様にお願いしな」


懐いてくれる美少年が可愛くないと言えば嘘になるが、このまま成長させる訳にもいかない。

だって彼は将来公爵になるのだから、突き放すのも大切だ。

……それはそれとして、弟が出来たようで嬉しかったのだけれど。


そうこうしているうちに私たちは13歳になった。

それまでは家庭環境を除けば比較的平穏に過ごせたのだが、何を隠そうレインが変態じみてきたのはこの頃からである。


「ソフィア、今日は泊まっていくだろう?」


来た頃には曇っている程度だったが、現在は大雨が降っている外を眺めながらレインは私に問いかける。

人見知りで小柄、その上よく女子と間違えられていたレインはこの四年で背が伸び、社交性も兼ね備えた美少年へと成長していた。

紳士的だとご令嬢たちからも大人気だ。


「まあ、こんな雨の中走る馬も可哀想だし」


二匹の愛馬を心配していれば、レインはソファに座る私の横に腰をかけた。

そして、私の両手を握ってくる。


「私のお願いを聞いてくれるかい?」

「うん。嫌な予感しかしないけど聞いてあげる」


レインがこう言ってくる時は決まってロクな内容じゃない。

嫌がる私とは対照的にその綺麗な顔でレインは花が舞うような笑顔を見せた。


「嬉しいよ。どうか君の使用済みの下着を私に……」

「くたばれ変態」


勢いのままに私はレインを四つん這いにさせ、踏みつける。

しかし、扉の側に死んだ魚のような目で控えていた執事は冷静に口を開いた。


「ソフィア様、それはレイン様には逆効果かと」

「……そうね」


私はどこか興奮したように顔を赤くしたレインを見て彼を踏みつけるのをやめた。

……この頃には大分取り返しのつかないことになっていた。

ここまで来たらレインはもう止まらない。


「君の部屋を作ったのだけれど誰からも賛同を得られなかったんだ。来てくれないかい?」

「拒否権は?」

「ないよ」


嫌だなぁと思いつつも私はレインと共に目的地の地下室へと足を運ぶ。

意を決して扉の中を見て……私は思い切り扉を閉めた。

そして、レインの胸ぐらを掴む。


「アンタ、これを公爵夫妻とか使用人たちに見せたわけ……?」

「勿論」

「このド変態ストーカーが……!」


自らの婚約者だということも忘れ、レインの股間を蹴り飛ばす。

それすら痛みに悶えながらも喜んでいるのだからとんだ異常者だ。

私は大きなため息をつきながら現実と向き合うべく扉をもう一度開ける。


壁から天井まで私の写真で埋め尽くされ、中には魔法で撮ったであろう入浴中や着替え中の写真まであった。

嘘でしょ、これいつのやつ?全然気づかなかった……!

勿論、写真だけで済んでいる筈もなく、いつだか着ていたドレスや下着までもが置いてある。

千歩譲ってドレスは許すとして、人の下着をそんな所に置くな!

そして、それを本人に見せるとかどういう神経してるわけ!?


あの可愛かった頃のレインはどこへやら。

この時、私は本気でレインの婚約者を辞めようと思った。

とはいえ、そう簡単に婚約破棄出来る訳もなく。


「本当にごめんなさい、ソフィアちゃん……。教育の仕方を間違えたみたい……」

「私からも謝らせてくれ。もう愚息の奇行は誰も止められないんだ」


泣く泣く謝られるお義母様、申し訳なさそうに項垂れられるお義父様。

公爵夫妻もレインの奇行を止める事が出来ずにいた。

それからもレインの変態ストーカーぶりは留まるところを知らず、諸々のコレクションは増え、私に対する束縛も強くなる一方。

しかし、人生とは分からないもので。

義妹の一件があり、婚約破棄まで漕ぎ着けたのであった。

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