第3話 レイン・アンダーソンという男
「レイン……なんでアンタがここに」
「久しぶりだな、ソフィア。今日もこの世界で一番美しい。けれど……」
不穏な空気を纏わせたレインがこちらに向かって近づいてくる。
抵抗しても無駄なのでじっとしていればこの前切った髪をひと房手に取られた。
「私に何も言わずに髪を切ったのは、いただけないな」
鳥肌がたち、私はピャッと飛び上がる。
レインの左手には私の髪が握られていたのだ。
しかも、ご丁寧に赤色のリボンがつけられている。
そういえば、髪切ったまま片付けずに出てきたような気がするけど……え、わざわざ拾い集めて持ってるってこと?
「レイン、アンタ本当にキモイよ……」
「うん、キモイね」
「お前は黙ってろ」
レインはミカエルを睨むが、すぐにこちらに向き直った。
「ソフィア、髪を切ったことと言い、この男の元にいるのと言い、いつからこんな事するようになったんだ」
「元々だよ」
私はレインに髪を切る許可を貰った事なんかないし、ミカエルの所にも普段から出入りしている。
何を今更と言いたいところだが、おそらくこの男には幻覚が見えているのだろう。仕方がない。
それはそれとして、私はふととある人物の存在を思い出した。
「というか、うちの元義妹は?」
「あの茶髪女?悪いが私の趣味じゃない。そもそも、ソフィア以外の女などどうでもいい。私はソフィアさえ居てくれれば……」
「そう。で?生きてるの?元義妹は」
ミカエルが横で「相変わらずバッサリ切り捨てるなぁ」と笑っているのはこの際どうでもいい。
私の問いにレインは一瞬キョトンとした顔になり、首を傾げた。
「知らないな。うちにいたが、少し前に実家に帰って、その後は特に」
「まあ、手紙来たし生きてはいるか……」
取り敢えず生きているのならばいい。
今は精神崩壊しているだろうが、そのうち治るだろう。
何より、生きているのならば元義妹はまだレインの婚約者だ。
少々可哀想だが、一度痛い目を見て学ぶいい機会になっただろう。
「たださ、レイン。彼女は今戸籍上平民だろう?このままソフィアの義妹君と婚姻関係を結んだらどうだい?」
「断る」
ミカエルの提案をレインは清々しい程にばっさり切り捨てた。
私としてもレインが提案にのってくれた方が嬉しかったんだけどなぁ。
「別に平民のままでも構わない。ソフィア、俺と婚約し直そう」
「えぇ〜……」
「不満があるなら善処しよう」
不満というか、存在自体が不快というか。
そりゃ、金も権力も美貌もある時期公爵様だ。
けれど、義妹の事からも分かるようにとち狂った男なのだ。