ニート更生人と名高い西園寺さん。~ニートが更生する話
「お父さん、早苗、武は起きたみたいね。部屋から独り言が聞こえたわ」
「なんだと、今、15時だぞ。全く、早苗、頼むぞ」
「うん。お父さん。今、抜くよ。エイ、抜いた」
・・・娘がWi-FiのLANケーブルを抜いた。
さて、これで出てくるか?
今日、長男、武を部屋から出して説得して、自立させるように説得する。
私は、田中勇治、48歳サラリーマンだ。息子は22歳、今年23歳になる。
本来なら、今年の三月に大学卒業予定だが、学生起業し、大学を中退しやがった。
そして、部屋から出てこない日が続き。もう3年もニート生活をしている。
『僕はニートじゃないよ。説明したじゃない。部屋で仕事をしているよ』
そんな話は良くある。
息子が部屋でインターネットを使って仕事をしているが
周りは、ニートだ。自立しろと言い。
出て行ったら、息子は実はネットで仕事をしていた。
ざまぁというパターンだ。
この話は、良く出来ている。大元の話は本当にあったことだろう。
動画配信サイトなどで、この話を題材にした動画なども良く見る。
話が派生して、面白おかしくなっているが・・・
中には、納得出来ないタイプのものも存在する。
それは・・・親父が、息子が部屋で働いているのが分からないタイプの話だ。
ダダダダダーーーー
「PC使えないんだけど、あー、Wi-Fiを抜いている!僕、今商談していたよ!どうしてくれるの!」
「・・・まあ、座れ、話をしよう。武、本当は、仕事などしていないだろう。お前はニートだ」
「だから、何度も説明したよね。インターネットを使って部屋で仕事をしているよ!」
「ほお、それは通用しないな。何故なら、俺は親父だからだ!」
「何を言ってるの。この前も、部下を部屋に招待したでしょう?見たでしょう?親父が乱入して会議を潰したでしょう?損失が出ているよ。親父、いい加減に理解しろよ!」
「それでもお前はニートだ」
・・・この、実は息子は部屋で働いていた!は、親父には通用しない。
親父は気が付くものだ。
息子が働いているかいないかなど。
働いていればわかるものだ。
「何故だよ。根拠を示せ!」
「それは、お前、俺の会社の健康保険被保険証、扶養親族のものを持っているだろう?
つまり、武は俺の扶養親族だ」
「何の事?だよ。早苗も持っているだろう!」
「税控除も入ったままだ。それで、通年審査が通っている」
「え?」
・・・会社の同僚で、妻を扶養に入れているのに、妻がパートで控除を受けられない金額、年間134万以上、稼いでしまった事件があった。
翌年、税務署から追徴のお知らせが来て、会社の扶養手当も含めて、返還となり、数十万円会社に返納した事件があった。
もっとも、悪気がなかったので、詐欺にはならなかった。
返還だけですんだ。
うちの場合、武が学生起業してからも健康保険と税控除に入れ続けたままにしていた。
しかし、税務署からは何も連絡が来ない。
扶養を切らなかったのは、本人から、何も言ってこない以上、こちらが勝手に扶養を外すことは出来ない仕組み。無保険状態になるからだ。
起業したのなら、当然、分かる話だ。
しかし、何も言ってこない。
それに、証拠はある。
俺は、武の所得証明書のコピーを見せた。
同居の親族は委任状無しで市役所で取れる。
「これは、健康保険組合と、経理に提出した去年度分の武の所得証明書だ。数字は0だな」
所得証明書に記載される収入は、去年の収入である。
つまり、武は、去年は税務署に申告した所得はない。
学生起業したと年から去年まで、二年間は無職無収入状態だ。
実は部屋で働いてました!の話で、親父が気付かない事例は、専業主夫だったら分かる。
俺の嫁は、保育士として働いているから、当然、この制度は分かる。
早苗は、今年から短大生だから、後2年は、俺の扶養だ。
と言っても武には理解出来まい。Fラン大学など行かせないで働かせれば良かった。
「・・・収入はあるよ。僕のビジネスモデルだと、今年の年商は一億円見込める!」
「それは、お前の感想だろう?」
「もう、いい!」
ダダダダダーーー
武は部屋に戻ったが、すぐに悲鳴が聞こえて来た。
「ウワーーー、誰だよ。あんたら、何で部屋にいる!」
武の部屋には、大柄な男、耳が潰れ、柔道をやっていた形跡のある180㎝の横太りした男と、
紺のビジネススーツを着た女性がいた。黒髪が肩まであり。20代後半、どことなく、武はミサキを思い浮かべた。
勇治が、話合いの隙に部屋に入れ、荷物整理を依頼していた。
「こんにちは。貴方がニート武君ね。私は西園寺君子です。初めまして、お迎えに上がりました。
着替えと、お財布はこちらのバックに詰めましたわ」
「・・・・」
男は無言で武を見る。
「ヒィ、ニート更生学校か?絶対に行かない」
「あら、ニートの更生なんて、そんなの無駄よ。自分で這い上がりなさいよ」
「出て行けよ。ここは僕の部屋だぞ!」
「私はこの賃貸マンションの借主、田中勇治様から、許可を受けて入りましたのよ。出て行くのは貴方の方ね」
・・・
結局、武は居間に戻り、父の前に座る。
武の後ろには、二人が立つ。
「いいか、武、こちらの方は、激戦の東京都大会で入賞したこともある元柔道選手の岩鬼さんだ。
もう一人は、合気道の達人の西園寺さんだ。暴れたら遠慮なく現行犯で取り押さえてもらう。
いつも、怒鳴って言うことを聞かせている母さんや早苗のようにはいかないぞ」
「・・・」
武はうつむいて下を向いたままだった。
・・・武の話だと、やっぱり、祖父母、俺の父親と母親から、出資と称して借金をしていたそうだ。金額100万円、また、妻の親からも借金、これも100万円、
そして、免許を取ると言って、嫁から30万円引き出した。合計230万円。
たまに、転売などをして稼いでいたようだ。
これを起業と言っている。
「・・・僕はネットの為替取引のスクールに入った。そこで、僕は筋が良いと言われて頑張っているよ!」
「いくら、払った?」
「30万円・・・」
「で、働いているというのは?」
「僕はマスターの直弟子、新しく会員になった人たちに、為替取引を教えているよ!」
「お金はもらっているのか?」
「いや、部下が会員を勧誘したら、3万円もらえる契約だよ。さらに・・」
「ああ、もういい。分かった」
俺は決断した。
「よし、この二人の紹介する職場で、一週間、きちんと、働けば、お前のやりたいようにさせてやる。Wi-Fiも使い放題だ。お前の邪魔はしないが、これ以上、借金はさせない。
母さんに謝れ、自動車学校に行くといって、違うことに使ったのだからな!」
「・・・母さん、ごめんなさい」
「・・ええ」
・・・僕は田中武、あれから、二人は、僕をドヤ街近くの警備会社に連れて行った。
「やあ、君が武君だね。ここで、一週間、頑張りたまえ」
「はい」
警備員の法定研修を4日間やって、実際に、働いたのは2日、1日は休みだから実質6日間しか働いていない。
夜勤はドヤ街の道路工事の交通整理、実質、立っているだけだ。
「オンドリャー、邪魔だ!ウック、ヒヒヒィ」
酔っ払いに怒号を浴びせられるのが辛いけど、何とか耐えた。
そして、給料。
「よく頑張ったね。法定研修2万円と、夜勤2日で2万円、食事と寮費は抜かせてもらったから、明細を確認してね」
「よく頑張ったじゃない」
「・・・・・・」
西園寺さんと、岩鬼さんが車で、家まで送ってくれた。
これで、僕は自由の身だ。
ガラじゃないけど、二人にお礼を言って、頭を下げた。
「有難うございました!」
「「えっ」」
あれ、何故、驚いているのだろう。
「オホホホ、じゃあね」
働くのもいいな。為替のコーチをしながら、バイトでもしようかと思いマンションの部屋を開けようとしたら、
「???開かない!何故?カギ?」
ガチャ、ガチャ
「え、え、え、表札がない!」
携帯は料金未納で止められている。
僕は急いで、Wi-Fiスポットに行き。メールで連絡を取るが、送れない。
「まさか。僕は捨てられたのか?ヒドイ!」
・・・・
☆隣の市
「如何ですか?田中様」
「ああ、建て売りとは思えない良いできばえだ。西園寺さん。有難う」
「長年賃貸マンションで、耐えた甲斐があったな。お前にも苦労させたな」
「貴方・・」
「早苗も、吉田君と結婚したら、こっちの棟にすめばいい」
「父さん・・・まだ、早いよ。でも、ありがとう」
・・・俺は二世帯住宅を買った。
本当は、老後、妻とのんびり過ごせる平屋を計画していたが、早苗が、結婚を前提に付き合っている彼氏を紹介してくれた。
彼は、地元の町工場に就職が決まったエンジニア。会社自体は中堅だが、工場の製造するある部品が世界シュエを大きく占めている。
海外出張もあるだろう。
若いうちは給料が低い。せめて住居代でも浮かせればと吉田君が通える距離に、二世帯住宅を思い切って買った。
「西園寺さん。本当に有難うございました。これで、娘の安全は守れます」
「いいえ。家を注文して下さるお客様のご相談を受けるのが我が社の方針ですわ」
彼女は西園寺グループ、地元密着型の人脈を大事にするグループ会社の会長のお孫さん。
本人は思ってもいないが、ニート更生人と名高い。
「ええ、ニート更生だなんて、無理です。放り出すしかありません。そのお手伝いをさせて頂きました。勿論、家を買って頂けるお客様、特別限定ですけどもね」
「「フフフフフ」」
「ハハハハハ」
武は超えてはいけない一線を越えた。
武は、俺が契約したマンションに、俺の許可を受けずして、会議と称して、早苗がいるのに、10名の男たちを入れた。
☆一月前
・・・早苗から、私の携帯に通話が来た。
『お父さん!助けて、うちに変な人が沢山来たよ』
『何?すぐに行く。早苗は逃げろ。え、写メを取られる?部屋に籠もっていろ。警察に連絡するからな』
俺はタクシーで向かい。自宅に帰った。警察が玄関で事情聴取していた。
『お宅の息子さんの許可を受けて入ったそうですよ』
見ると、10人、白髪のあるものから、20代前半の若者までいた。
イマイチ、どうゆう集まりなのか分からない。
『ホームパーティ会議だ?早苗がいるのに、早苗は高三の卒業前で家にいるのを知らないのか?』
『父さんの馬鹿!僕の面子を潰して!』
話を聞くと、仕事の会議をするために、集まったそうだ。早苗はバトミントン部の下級生の練習を指導するために学校に行き。帰ったばかりで、まだ、制服から着替えをしていなかった。
『チャリース、妹さん、JKじゃん!』
『ムム、それがしのメイドになるでござる』
『はじめまして、武君のスチューデントになった柳です。今度、ドライブしましょう』
『ヒィ』
『早苗、ご挨拶をしろよ。僕の部下達だ。お酒を買ってくるから、話し相手になってよ。どうせ暇なんだろう?』
武は早苗をおいて、コンビニまで、酒を買いに行った。
全く、これがどれほど、危険か分かっていない。
早苗は部屋に籠もって無事だった。
・・・
『あのな。ここは私が借りているマンションだ。ここで会議をするとは、馬鹿者が!許可しない!全員帰れ!』
この日から、武に不審を持った。
武がニートなのは知っていた。
ニートが働いていると嘘を付く分には、可愛いものだ。
しかし、この日から、早苗のスマホに、あの三人から、メールや通話が来るようになる。
『ドライブをしましょう』
『一緒に、コスプレを一緒に行でござる!』
『チース、ナイトプールいくっしょ』
武が妹のメールアドレスと、電話番号を彼らに教えた。
一体、何を考えている。
俺は、早苗を家に籠もらせ。
引っ越しをするから、それまで、のらりくらりと返事をしろとアドバイスをした。
引っ越しをしたら、スマホを買い換えて、連絡を取れないようにする。
家を知られたいじょう。強攻策は危険だ。
その時、引っ越しと一緒に、ニートを引き取ってくれると噂のある西園寺さんの話を知り合いから聞いた。
彼女は、西園寺不動産の家を買ってくれるのなら、ニートを引き取りましょうと提案をしてくれた。
この話に、妻と早苗は、快諾をする。
家庭裁判所に、武の廃除を申し出て、遺産相続を無しにして、引っ越しと同時に携帯番号も家族全員変えた。
会社に事情を話。近隣に転勤し、武が来ても居場所を教えないようにお願いした。
「それで、西園寺さん。武は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ではないでしょうね。間違いなく、這い上がれないでしょう。しかし、他に迷惑がかかれないように、回収は命じておきましたわ。その会社から後日、私を通して、健康保険に入ったと証明書をもらっておきますから、武君の扶養を切る手続きをして下さい」
☆☆☆公園
武は、警備会社で得たお金で、漫喫を転々としていた。
もうすぐ、お金も尽きる。
その時、武は公園のベンチに座っていた。
作業服を着たゴロツキのような男たちが武を囲む。
「おい、お前、最近、ここら辺でウロウロしているな」
「ヒィ」
「暇なら、俺たちの仕事を手伝えや。寝るとこと、飯だけは食わせてやる!」
武はハイエースに乗せられて、田舎の工事現場に行った。
☆一月後。
「ええ、給料、手取り9万8000円!僕、毎日働きましたよ!」
「ああ、きちんと法令を守っているぞ。お前は最低賃金だ。それに寮費と、社会保険を引いた金額だ。きちんと明細を見ろよ」
「ヒヒヒ、今まで、父ちゃんが払っていた金だぜ。小遣い約10万円だ。これでも良いご身分だぞ」
「そうだ、玉掛けもない。免許もない奴なんていらないけど。ある方から頼まれたのよ」
「ヒィ、僕、事務仕事できます。PC得意です」
「CAD出来るの?」
「え・・・何それ?」
「俺たちだって、ワードやエクセルぐらいできるわ。この仕事、上に行けば行くほど、PC仕事はやらなければいけないのさ。
お前は現場を1日竹箒で掃け。近隣住民から汚したとクレームが来ないようにな。それがこの現場でお前が出来る唯一の仕事だ!」
☆☆☆西園寺グループ本社ビル
「あの~うちの息子が10年間、部屋から出なくて、困ってます。ここなら、解決してくれると聞きました」
「はい、新築はもちろん。中古なら1000万円から、ニートを放り出すお手伝いをしますわ」
「え、更生じゃないの?」
「更生は無理ですね。ニート更生学校に行くぐらいなら、思い切ってニートを放り出して引っ越しをする方が、お高くないですよ」
「・・・それなら、お願いします」
彼女の仕事は繁盛している。
それだけ、悩む家庭が多いのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございます。