【おまけの番外編】テオの聖夜 下
これで完結です。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
メリークリスマス!
テオが感心し、アンジェリカも「シンナさんは凄いのよ」と褒めた瞬間、ラムール神像から聖なる光が放たれた。
「わっ」
目が眩むような強烈な光輪に、テオは思わず目を細めた。
さすがに気配を消して見守っている護衛のアルバーノも驚いている。
“清めてくれてありがとう。その美しき心掛けのお礼として、我が祝福を授けよう。汝らの人生の旅路に幸あらんことを”
頭の中に声が響き、黄金の光が体を包んだ。アンジェリカは放心したように微動だにしない。テオは、咄嗟にスターサファイアの指輪がはめられた手を取った。
「わわわっ、びっくりした! ワシ、変化だけど効果あるんか?」
祈りの間に入室した時には少年だったユッカの変身が解けて、猫になっている。
「効果あるわよ。なんてったって『万能』の神だもん」
シンナも侍女から黒目黒髪の姿に戻っていた。
“やっぱり君だったのか。常世で見かけないから、寂しかったんだよ。この世でも私を気に掛けていてくれたんだね。嬉しいよ”
柔らかで心地の良い声に、テオは酔いそうなる。そこへ、シンナのキンキン声が割って入り、辛うじて正気を保った。
「これはアンジーちゃんが洗いたいって言うからよ! だいたいねぇ、神様が『寂しい』なんて嘘ついてんじゃないわよ。常世じゃ、ワタシがいなくなってまだ数分しか経ってないはずでしょ?!」
“ほんの数分でも君がいないと、心に穴が開いた気分になるんだよ”
「なっ…………!」
シンナが顔を赤らめ、絶句した。
(もしかして恋人同士?)
神に恋の概念があるのかどうかは知らないが、親密な関係であることはわかる。
アンジェリカも我に返って、寂しそうな顔になる。
「シンナさん、もし天界に帰りたいんだったら私のことは気にしないで――――」
そう言うだろうことは予想できた。アンジェリカはお人好しなのだ。自分より他人の幸せを優先する。
もしシンナが帰ってしまっても、王命でアルバーノが去ることになっても、いつかユッカが消えても、テオは、絶対にアンジェリカの傍から離れないつもりだ。もう二度と一人になんてしない。
「帰らないわよ! もうっ、兄さんが誤解するようなこと言うから心配かけちゃったじゃないの」
「お兄様? 恋人かと思ってました」
アンジェリカもテオと同じ誤解をしていたようだ。
「ワタシと兄さんは『創造の神』から生まれた兄妹なのよ。兄さんは『愛』の神だから、誰にでもこの調子なの。こんな神力たっぷりの声で語りかけられたら、人間なんてイチコロよぉ。お陰で、兄さんを崇める神殿が世界中にあるんだから」
原初の神である『創造の神』から生まれたシンナとラムール神と四柱の兄弟神は、数多ある神々の中でも強い神通力を持ち、格が上なのだという。
シンナの兄のラムール神は、『愛』の神であるがゆえに万人に愛の言葉を囁き、その声には魅了が宿るという。
「女の敵よねぇ。ワタシがいなかったら、アンジーちゃんだって危なかったわ! ここは常世じゃないのよ。ちょっとは加減してちょうだい!」
「ご、ごめんよぉ。じゃあ、兄さんはもう行くから、また明日ね」
妹に怒られたラムール神は、タジタジである。そそくさと立ち去るように黄金の光が徐々に小さくなり、やがて消えた。
テオが、明日も何かあるのかと疑問を口にすると、あちらの明日はこちらの百年後だとアンジェリカに教えられる。時間の流れが違うのだ。
テオは、まだアンジェリカの手を握ったままである。どさくさに紛れて繋いだまでは良かったが、離すタイミングを失していた。
「えーと、あ……こっちに隠し階段があるんだ」
そのままさり気なく、隠し扉の前にアンジェリカを誘導する。
皇族しか知らないカラクリを操作すると、一見ただの白い壁である部分がガタンと開いた。
「お二人でどうぞ」
アルバーノは誰も来ないように見張っていると言う。婚約者同士の二人に気を利かせたというよりは、帝室の秘密の抜け道を誰かに知られないようにとの配慮だろう。この大聖堂は宮廷と地下通路で繋がっている。万が一の時のための脱出路だ。
「ワタシも遠慮しとくわ。帝都の空はいつも飛んでて見慣れてるもの」
「ん、ワシも」
どうやら変幻自在なシキガミには、展望台の眺望はありふれたものであるらしい。
テオは彼らの言葉に甘えることにした。
「暗いから足元に気をつけて」
アンジェリカの手を引く。
「う、うん」
その手に力が込もるとアンジェリカの頬がサッと赤く染まるのがわかった。
螺旋階段を昇り、二、三人入るのがやっとの小さな展望台にたどり着いた。
冬の夜風がアンジェリカの長い髪を攫う。彼女は今日も髪飾りをしていない。テオは、この飾り気のない黒茶色の髪が好きだ。
突然、アンジェリカが手を振りほどいた。風に弄ばれる長い髪を両手で押さえつけている。
「もうちょっと、こっちにおいでよ。寒くない?」
テオはアンジェリカのすぐ後ろに立ち、着ているコートの前を開けて、頭一つ分小さい彼女の体をすっぽりと包み込むように広げ風除けにした。自然とアンジェリカの背中がテオの胸に密着する。
アンジェリカは、漸く大人しくなった髪から手を放し、テオのコートの内側でモゾモゾと身じろぎをした。
「うん、あったかい」
くすぐったいのは、黒茶の髪に触れる自身の首元なのか、それとも心の方なのか。
いい夜だ。
手も繋いだし、今は二人っきり。抱きしめようと思えば、すぐにでも叶う距離。テオの胸がドキドキと高鳴った。
「わぁ~、キレイ! 夜景なんて生まれて初めてよ。ありがとう、テオ!」
テオの下心をよそに、アンジェリカが無邪気に感動している。
聖夜の帝都は煌びやかだ。祭りで賑わい、街の灯りが消えることはない。年に一度だけ、この場所だけで見られる特別な光景だ。
「喜んでもらえて嬉しいよ」
アンジェリカが振り向いて、テオに笑いかける。すぐ間近で目が合い、テオの心臓が跳ねた。
「す……」
「好きだ」と言おうとしたその時、バサバサッと二羽の小鳥が飛んで来た。
「うん、うん。やっぱり聖夜の夜景はひと味違うわね!」
「ん! そうだな」
シンナとユッカだ。
「あれ? 結局、二人とも来たんですか。本当に、キレイですよねぇ」
アンジェリカが、しみじみと言う。
よもやのタイミングで邪魔が入り、テオはすっかり毒気を抜かれてしまった。
(まあ、いいか)
焦るまい。旅は始まったばかりなのだから。
ともあれ、今宵は聖夜だ。
テオは、幸せな気持ちでアンジェリカと帝都の灯りを眺めていた。
途中で筆が進まなくなり放置していた期間があり、無事に完結できてホッとしています。
2/11 異世界恋愛ランキング55位になりました。
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