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【完結】アンジェリカ姫の白い結婚 ~邪魔者王女は自由に生きたい!  作者: ぷよ猫


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【番外編】テオの葛藤 ~再会 (終)

番外編最終話です。

明日、おまけの番外編が二話分あります。


 体が回復してすぐ、両親に自らの思いを告げたテオは、ジスランの鋭い視線に射貫かれた。


「その決意は変わらないんだな?」


「はい。全ての原因は私の未熟な行動によるものです。王女が責任を取って身分を返上するのであれば、私も皇子の身分を捨てます」


 テオは躊躇なく答えた。

 ジスランは肩の力を抜き、表情を緩める。そして、隣にいるセリアと目を合わせると肩をすくめた。大方の話は、予め承知している様子である。息子が皇籍を離れると発言しているのに、驚きもしなかった。


「最初から素直に王女と面会していれば、すんなりと事が運んだものを。でも、まあ、それがアルだからね」


「ただのヘタレですよ。好きな()に告白も出来ずに、うじうじと情けない」


 セリアは毒舌であった。


「しかし、皇籍離脱は認められん。貴重な猛獣使い(テイマー)をよそにやるわけにはいかないんでね」


 尤もな意見である。所属を離れれば、敵に雇われる可能性もあるのが猛獣使いだ。皇籍は、テオを国に縛るための枷でもあるのだ。


「父上っ!」


「お前も王女もまだまだ甘い」  


 ジスランは、ニヤリと笑う。


「だから、アルにはこれをやろう。丁度いい。お前も王女と一緒に世界を見てこい」


 手渡されたのは、間諜をしながらアンジェリカの旅に同行せよとの勅書であった。無期限の指令は、事実上、テオの身が自由であることを意味していた。

 ジスランは、アンジェリカの王籍離脱届を取り出して、目の前でビリッと破った。


「これを王女に返すのを()()()いなかったら、危なかったな。子爵家令嬢の恩赦ごときに、身分返上までは必要ないさ。覚悟は見せてもらった。それで十分だ。よって、婚約は続行される。ちゃんと彼女を幸せにしろよ? でないと国際問題になるからな」


 ()()は、この宮廷を出て自由に見聞を広めることを許す――――褒美の内容に相違はない。

 やっとすべてが丸く収まったとジスランは満足げであった。

 ただ、アンジェリカの行方は誰も知らなかった。身の安全のため影を護衛としてつけるはずが、いつの間にかいなくなっていたというのである。


 テオが宮に戻って旅支度をしていると、バルコニーの手すりにエルが停まった。

 寝込んでいる間、エルはまったく姿を現さなかった。任務以外で何日も会わずに過ごすことは、エルを使役するようになって初めてのことだ。

 仕方がないので、他の鳥たちにアンジェリカの行方を捜索させているが、状況は芳しくない。それらしき人物がいたかと思えば、すぐに宿を移ってしまうのか居場所が定まらないのだ。


「どこにいたんだ? 心配したんだぞ」


 テオが駆け寄るとエルは目をぱちくりとさせる。


“心配しなきゃならないのは、おいらじゃなくて、あの子だろ?”


「今、皆に捜してもらってる。見つかったら、すぐに追いかけるよ」


“あいつらじゃ、見つけるのにいつまでかかるのやら。あの子は、明朝、海鮮市場に現れるよ。朝ごはん食べるんだって、あの護衛と話してたのを聞いた”


「エル?!」


“言ったろう? あの子のことは気に掛けとく、って”


 エルは、そう言って翼をはためかせた。


「ありがとう!」


 テオは荷造りを急いだ。

 帝都のはずれの海鮮市場は、運河のほとりにあり、水揚げされたばかりの魚が新鮮なまま運ばれる。海の幸を堪能出来る食堂がひしめき、観光の目玉となっていた。

 一方で、港まで直通する船便が運行されており、外国へ行くには海路が手っ取り早い。テオは、アンジェリカが、もう明日にでも出国するのだと思った。


(絶対に見つけないと!)


 テオは気合を入れて、まだ夜が明けきらない帝都の道をひた走り、立ち込める朝靄の中を待ち構えたのであった。

 

 その甲斐あって、無事にアンジェリカと再会出来た。

 アルバーノの他に、お供らしき女性と少年が一緒だった。彼らの宿泊している平民向けの小さな部屋で、テオは必死に弁明した。

 正体を明かした後は「アルフォンス様なんて嫌いよ」と詰られ、目の前が真っ暗になりかける。


「だけど、テオのことは好き、大好き! 一緒に旅が出来るなんて嬉しいわ」


 直後にこの一言が聞けた時は、天にも昇る心地だった。

 そして、隠し事はお互い様だとアンジェリカの長い長い告白が始まったのである。

 少年がユッカに変わり、女性が黒髪をなびかせて宙を舞う姿に、テオは腰を抜かしそうになる。しかし、秘密を明かしてくれた喜びが(まさ)った。

 母方の祖父ガイオの故郷である遠い東方の国へ行くのが目的であるという。彼女はそこの星見の一族で、(おさ)なのだそうだ。ただし、東方の国に一族の末裔がいればの話だが。


「東方の国って、あの小さな島国のこと? 民は皆、黒目黒髪だそうだよ」


 以前、皇族専用の図書室で見聞録を読んだことがある。テオがうろ覚えの知識を引っ張り出すとアンジェリカが目を輝かす。


「そう、それよ!」


「それなら港から船に乗ってペリツィ王国に出て、そこから直行便が出ているはずだよ。昔と違って今は航路が発達してるから、一か月もあれば着く。早速、船便を手配しよう」


 直行便と言えども物資の補給があるので、いくつかの港に停泊するが、ガイオの時代とは比べ物にならないほど、遠方へ行くのに便利な世の中になった。

 次の瞬間、アンジェリカにジロリと睨まれる。


「テオは、何にもわかってない!」


 ふくれっ面も可愛いと思いつつ、テオは内心焦っていた。せっかく許してもらって和やかな雰囲気になっているのに、おじゃんになっては困る。


「ちょっとテオ君! それじゃ、旅の醍醐味がないじゃない。直行直帰の任務じゃないのよ」


「ん、そうだ! とびっきりの旅を楽しもうって言ったばかりなんだからさ、もうちょい空気を読もうぜ」


 シンナが文句を言ったかと思えば、ユッカも不平を訴える。

 テオはハッとする。そう言えば、今まで必要な情報が集まれば次の任務で、ゆっくりとその土地を楽しむことなどなかった。


「ごめん。母に言われたよ。僕は『へっぽこ』だってさ」


 途端、アンジェリカが機嫌を直して、ハハハと笑い出す。


「『へっぽこ』だなんて、お父様みたい! 『へっぽこ』を好きになるなんて、きっと私はお母様に似たのね」


 どうやらネーブ国のリベルト王は『へっぽこ』らしい。好きな子に『へっぽこ』と呼ばれてショックだが、嫌われるよりマシだ。テオは、アンジェリカの笑顔にホッと胸をなでおろした。


「奥方様は、お人好しですからね」


 テオの横で、アルバーノがぼそりと呟いた。


 その後、一月(ひとつき)ほど帝都に留まることになるとは、この時のテオは思いもしない。

 旅はのんびり、恋もゆっくり進んでゆくのだ。 

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