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【完結】アンジェリカ姫の白い結婚 ~邪魔者王女は自由に生きたい!  作者: ぷよ猫


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【番外編】テオの葛藤 ~皇子の決断

本日2回目の投稿です。

 後悔先に立たず。

 テオは、熱に浮かされ朦朧とした脳みそで、この言葉を噛みしめている。

 

「ハックション!」


 ズズッと鼻を啜る。

 

「これでは舞踏会は無理ですね。欠席の連絡はしておきますから、ゆっくり休んでください」


 様子を見に来たロザリアにあっさりと申し渡された。

 こんなはずではなかった。

 (くだん)の暴漢騒ぎのせいで、テオは、急遽、剣技大会当日も猛獣使いとして会場の警備に加わることになってしまったのだ。アルフォンスとして正式に対面するはずだった競技場の観覧室は、アンジェリカとロザリアで使用することになった。その代わり、テオは、本日の舞踏会でアンジェリカをエスコートする予定であった。

 しかし、この体たらくである。

 会場の監視を鳥たちに任せ、情報収集をネズミたちにさせている間、裏方で忙しそうにしているロザリアを見かけたので、アンジェリカの様子が気になり観覧室へ訪れた。テオは、この機会に自分がアルフォンスだと明かし、謝罪するつもりだった。だが、目を離した隙に、アンジェリカが麦酒(ビール)を飲んで酔っ払ってしまい、そのチャンスを逃しただけでなく、思いっ切り麦酒を引っ被ってしまったのだった。


 布団に包まりながら、アンジェリカの言葉を思い出す。

 

『どうせ誰も見てないもん。一人だもん。ユッカとシンナさんがいなかったら、ずーっと一人ぼっちだった。こんなに皆がワイワイ盛り上がってる所で、寂しく茶なんか啜ってられっか!』


 これこそが彼女の本音だと、テオは胸を抉られた。

 母親を亡くして、ずっと一人だったのだ。王宮の離宮で、侯爵邸の広い屋敷で、祖国を出る時も、この国の離宮でも。そして、あの競技場の観戦室でさえ。シンナの正体は謎だが、少なくともこの宮廷にはいない。ユッカは猫だし、アルバーノが護衛になったのは最近の話である。

 気丈に振る舞っていても、まだ十五歳の少女だ。どこか抜けていて、危なっかしくて、放っておけない。


(ごめん、今度こそは――――)


 今度こそは、もう逃げない。そう誓いながら、テオはいつの間にか意識を手放していた。


 熱が下がり、ベッドで身を起こせるようになるまでに三日かかった。

 侍従からアンジェリカが旅立ったことを聞かされたテオは、ショックのあまり手に持っていたココアのカップを床に取り落としてしまった。


「なんだって! どういうことだっ? ゲホッ、ゲホッ」


 ガチャンと音を立ててカップの中身がこぼれてゆくのを気にも留めずに、侍従に詰め寄った。


「詳しくは存じませんが、アンジェリカ王女が剣技大会の優勝の褒美として願ったそうです」


「そんな馬鹿な、ゴホッ」


「子爵令嬢の恩赦のためだとかなんとか……」


「それが何で宮廷を出て行くことになるんだ?」


「さあ……」


「お前じゃ埒が明かない。父上に会いにゆくっ!」


「殿下っ!」


 はっきりとしない返答に業を煮やしたテオが、布団から出ようとする。慌てて侍従が制止した。


「まだ治っていないのですから無理は禁物です」


「だけどっ……ゴホッ、ゴホッ」


 今どうにかしなくてはいけない予感がした。もう間に合わないのではないかという焦りで、思い通りにならない体を必死に動かす。力の入らない腕がもどかしい。


 普段とは違うテオの様子を案じた侍従からの報告で、セリアがやって来た。

 シーツにココアの染みが飛び散っている。動揺している息子が、このまま安静にしていられる状態ではないのは明らかであった。

 セリアは、メイドがベッドメイクを直している間、暫しテオの話に耳を傾けた。


「我が息子ながらヘタレだわ」


 事情を知るや否や母親からため息交じりの一言が放たれ、ぐさりとテオの心を突き刺した。


「ヘタレ……」


「でなきゃ、へっぽこ?」


 セリアは息子に容赦がなかった。その辛辣さが逆に、テオの頭を正気に戻した。

 自分がいない舞踏会で、アンジェリカは優勝の褒美としてバルニエ子爵令嬢の恩赦を乞い、皆を納得させるために王女の身分の返上する覚悟を示した。

 テオは、それが縁談を拒む「アルフォンス」のためでもあったことをセリアに指摘されて知った。

 褒美は何にするのかと問うた時、アンジェリカが「ちゃんと幸せになれるように」と答えた本当の意味は、アルフォンスを解放することだったのだ。


(アンジーは、とっくに縁談なんて諦めてたんだな。もう誰かのお荷物にはなりたくないって言ってたじゃないか。馬鹿だなぁ、僕は)


 失ってみて、はっきりと自覚した。アンジェリカのことが好きなのだと。

 破談になれば、ジスラン帝の第八皇妃として国に留め置くことも選択肢の一つだったと聞かされて、テオは、その可能性に気づけなかった自分の愚かさを呪った。親交のために嫁ぎに来た王女が、簡単に国に帰れるはずがないのに。

 

「アンジェリカ様は、これが八方丸く収まる方法だと信じて宮廷を出たのよ。ご自分は何も悪くないのに、すべてを背負ってね。身分を捨てる潔さに、陛下も感服するほどだったわ。だけど、もう彼女はいないし、今更、好きだと言われても、どうしようもないわ。何にせよ、今はしっかり養生することね」


 セリアは、ぐったりする息子の体力の限界を見極めるように、ぴしゃりと言い捨て出て行った。

 テオは苦い薬を飲まされたあと、真新しいシーツの上に怠い体を横たえた。眠れそうで眠れない。目を閉じ、これからどうすべきか思案する。

 アンジェリカは、宮中を騒がせた責任を取ると言ったという。だが、責任を取るべきなのは自分の方だ。

 本来、勅命の婚姻に異を唱えるなど以ての外である。自分だけが政略結婚だなどと不貞腐れていたが、思えば、平等に機会は与えられていたのに、婚約候補の中から選ばなかったのはテオ自身だった。

 間違いを正すチャンスはいくらでもあった。何度もアンジェリカに会っていたし、ジスランに縁談を受ける旨をきちんと伝えていれば済んだことだ。

 今更、名乗り出て受け入れてもらえるだろうか?

 謝って、許してくれるのか?

 いいや、関係ない。ただ、当たって砕けるのみだ。


(追いかけよう)


 皇子の地位を捨ててでも――――。

 まずは、アンジェリカの行方を探さねばならない。

 テオは、自分が猛獣使いで良かったと思うのだった。

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