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【完結】アンジェリカ姫の白い結婚 ~邪魔者王女は自由に生きたい!  作者: ぷよ猫


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【番外編】テオの葛藤 ~猛獣使いと王女

本日2回目の投稿です。

 弱冠十五歳にして離縁された王女。

 どこからそんな情報を仕入れてきたのか。

 瞬く間に噂は広がり、帝室が認めていないので誰も大っぴらには口にしないが、王女が到着しているにもかかわらず公式発表がないのは、何か事情があるのではないかと勘繰る者も出始めている。

 テオは、これで体のいい断り文句が出来たと内心ほくそ笑んでいた。


「ア、アルフォンス。こ、このままでは、アンジェリカ様のお立場がありません。か、か、彼女はいい人ですよ。お、お会いしてみませんか?」


 腹違いの姉のロザリアは内気な性格だが、その分、周りの空気をよく読む。

 その彼女が王女を庇うのは、このままではいけないと思っているのだろう。橋渡しを申し出てきたのだった。


「あの若さで離縁されるような人ですよ? 騙されてるんじゃないですか」


 別に本心ではない。皇后の娘として宮中をつぶさに見てきたロザリアが、簡単に騙されることなどないことも知っている。王女を避けるための、ただの口実だ。

 すげなく断られたロザリアは、残念そうに肩を落とした。

 その様子を見て、ほんの少しネーブ国の姫に興味が湧いた。だが、結局テオは意地を張り、せっかくのチャンスをふいにした。



 そうしてネーブ国の王女がトエ帝国に来て一か月ほど経ったある日、テオは、荷物を取りに自分の宮へ戻る途中で猫を見つけた。

 テオは猫好きだった。

 普段の間諜の任務の際は、ネズミと鳥を好んで使う。小さくてすばしっこいネズミは様々な場所へ潜り込むのに適しているし、鳥は空から追跡したり伝達文をやり取りするのに重宝するからだ。

 しかし、猫を仲間にしたいという願望はかねてから持っている。チョロが反対するから遠慮してるだけで、チャンスがあればいずれは、と思う。

 そう言うわけもあって、ついフラフラと茶トラの子猫に近づいていった。


「こっちにおいで」


 テオが手招きして猫を誘う。

 ところが冷めた視線を投げたまま、距離を取ろうとする。


「おいで、おいで」


 そう言って数歩近づくと、警戒したように数歩遠のく。それが何度か繰り返され、サッと走って行ってしまった。

 テオはあ然とした。こんなことは初めてだ。猛獣使いとして、あり得ないことだった。


(そんな馬鹿な……)


 呆然と立ち尽くす庭園で、古株の庭師が、パチン、パチンと伸びた植え込みの葉を切り揃えている。

 テオは、その厳つい顔をした老人に猫のことを尋ねた。


「ここ最近、たまに見かけますよ。儂の孫が洗濯係をしておりますが、メイドたちのたまり場によく食べ物をもらいに顔を見せるようで」


 庭師は、被っていた帽子を取って挨拶してから、そう答えた。

 メイドのおこぼれに与るということは野良猫か、とテオは思った。ならばなおのこと、なびかない理由に納得がいかない。飼い主がいない方が、使役しやすいからだ。

 釈然としない気持ちで、庭師と世間話に興じる。最近の調子はどうか、待遇に不満はないか、そのようなことだ。腹を探り合う社交場は苦手だが、人と話すのは嫌いじゃなかった。


 そうこうしているうちに、庭園の入口に人の気配がして視線を移した。

 そこには、簡素なワンピース姿の見知らぬ少女がいた。

 無造作に下ろしたダークブラウンの髪、髪色よりも数段明るい薄茶の瞳。手首には翡翠の腕輪と指にサファイアが光っている。皇妃の侍女にしては飾り気がなく、メイドにしては手入れが行き届いた艶やかな髪をしており、佇まいに品があった。

 目が合った瞬間、引き込まれそうになる。

 この庭園を抜けた先には、第八皇子である自身の宮しかなく、任務で留守がちのため訪れる者は限られている。警戒を怠るわけにはいかないと、テオは慌てて気を引き締めた。

 突然、さっき逃げていったの茶トラの子猫が、少女の肩に飛び乗った。少女はびっくりした様子で、子猫を胸に抱き直す。

 テオは、迷わず声を掛けた。


「こんにちは。僕はテオ。君が、その猫の飼い主なのかい?」


 少女は、見つかっちゃった! とでも言うように肩をすくめ、くすんと笑った。


「こんにちは。私はアンジェリカ。この子はユッカよ。よろしくね」


 どこかで聞いた名だと記憶をたどりながらユッカを撫でると再び拒絶される。

 飼い猫の警戒が伝播したように訝しげな表情になったアンジェリカに、じっと瞳を覗き込まれた。

 テオは、なぜか目を逸らせなかった。抗えない眼力に囚われながら、ひょっとして彼女も猛獣使い(テイマー)なのではないかと確信めいたものを感じた。既に使役する者がいるなら、ユッカの態度に合点がいく。

 テオは、思い切って自分が猛獣使いであることを明かし、その会話の中でアンジェリカがネーブ国の王女であることを知った。


「アンジェリカ……そうか、君がネーブ国の」


「ええ、でも今みたいに、気軽に話してくれたら嬉しいわ」


 想像していた印象とは、全然違う。気さくで、嬉しそうに口元をほころばせる姿があどけなかった。


(こんなに可愛いのに、なんで離縁されたんだ?)


 テオは、不覚にもアンジェリカに心惹かれていた。

 聞けば、彼女が通じ合う動物はユッカだけらしい。そういう猛獣使いもいなくはないが、優秀とは言えない。その上、猫は気まぐれで諜報に向かない。これでは、国家機密を探るなんてマネは無理だろう。テオは、そう結論づけた。

 しかも、ユッカはまだ体を硬直させたままだ。一瞬でも疑いの目を向けたことが愚かしい。


(やっぱり、猫は癒しだよなぁ)


 主従関係というよりは仲良しと言った方がピッタリのアンジェリカとユッカを、テオは羨ましく感じた。

 アンジェリカは、猛獣使いと話すのは初めてだと無邪気に目を輝かせている。その瞳につられてテオは、また会う約束をしてしまった。


「ありがとう! 私のことは、アンジーでいいわ。じゃあ、また来るわね」


「じゃあ、僕のことはテオで」


 ユッカを追って部屋着のまま離宮を飛び出してきたというアンジェリカは、大急ぎで戻っていった。その後ろ姿を見送りながら、テオは、きちんと名乗らなかったことを後悔した。


(何をやってるんだ、僕は)


 なにも身分を偽らなくとも良かっただろう。おそらく一介の騎士だと思われている。テオは、次に会った時に婚約者であることを告げて謝ることにした。

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