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【完結】アンジェリカ姫の白い結婚 ~邪魔者王女は自由に生きたい!  作者: ぷよ猫


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39 剣技大会 ~観覧席にて

本日3回目の投稿です。

(は? しょ、処刑っ?!)


 ミュリエルの口から「処刑」の二文字が飛び出した時、落雷に打たれたような衝撃がアンジェリカを襲った。

 宮廷で起きた騒動であるだけに、軽罰とはいかないだろう。けれど、さすがに死罪とは予想していなかったのである。

 であれば、なぜバシュレ公爵がマノン嬢に罪を押しつけ、知らぬ存ぜぬを決め込むのか合点がいく。子爵令嬢一人の命で、家門と娘たちが救われるのなら、当然そちらを選択するだろう。公爵が冷徹なわけではない。当主として、守るべきものが多すぎるのだ。

 しかしながら、怪我人が出なかった事件である。重すぎる量刑ではなかろうか。


「処刑になるのは確かですの?」


 信じられない思いでミュリエルに問いかける。


「お父様からそう聞いています。マノンは最初からすべてを自分一人で背負う覚悟だったのだろう、と。私が自首しても、家に迷惑がかかるだけで処刑は覆らないと言われて、もう、どうしたらいいのか」


 自分が馬鹿だったのだとミュリエルは、後悔の言葉を何度も口にした。

 アンジェリカには、掛ける言葉が見つからなかった。背中をさすり、どうにか落ち着かせてから御者が待つところまで送り届けた。


「王女殿下、今までのご無礼を謝罪いたします。お許しくださいませ」


 ミュリエルは、深々と頭を下げてから姿勢を正して馬車に乗り込んでいった。



 

 剣技大会の会場である帝国競技場には、貴賓用の観覧室が設けられている。

 アンジェリカは、離宮に戻って着替えた後、ロザリアと一緒に再び馬車に乗り、そのうちの一室に通された。

 部屋というよりは、広いベランダのようなものである。扉代わりのカーテンの奥にテーブルがあり、飲食しながら観戦出来るようになっている。

 アンジェリカは席に座り、メイドの淹れた紅茶を飲んだ。ロザリアは、開会式のために席を外している。普段は表に出ない彼女も、今日ばかりは主催者の一人として壇上へ上がる。その後も何かと忙しいだろうから、いつここへ戻って来られるかわからない。つまり、一人なのだった。

 婚約者のアルフォンスに嫌われているのでなければ、皇妃や令嬢たちと一緒に和気あいあいと観戦して、こんな形で放置されることもなかっただろう。


(こんなことなら、一般席で麦酒(ビール)を片手に観覧したほうが良かったわ)


 会場は熱気に包まれている。もう冬になろうかという時期なのに、冷えた麦酒が売れる理由がよくわかる。


 マノン嬢の処刑は本当らしい。

 馬車の中でロザリアから聞いた話によれば、皇太子の毒殺未遂以降、宮廷内の事件に対する刑罰が厳しくなったという。これが街中(まちなか)で起こした騒動ならば、未成年であることを考慮して修道院行きで済んだ。だが、皇族の住まう区域にまで暴漢を手引きした行為は、単なる剣技大会の妨害工作とはみなされなかったのである。


(だからって死罪なんて……)


 釈然としない気持ちを抱えながら考え込んでいると、シンナとユッカが帰ってきた。二人は、アルバーノと食堂で念願の朝食を済ませ、他に盛られた毒がないか見て回っていた。


“なんだかアンジーちゃん、元気ないわねぇ”


“ん。元気がない”


“マノン嬢のことを考えると、ちょっと……ね”


 次の瞬間、会場がわぁっと湧いた。いよいよ競技が始まったのだ。

 もしアルバーノが破れて、ミュリエルの意を汲んだ騎士が優勝すればマノン嬢が助かる。そう思うと、心中は複雑だ。アンジェリカは、集中出来ずにぼんやりと試合を眺めていた。


「やあ」


 不意に入口のカーテンから、テオが顔を覗かせた。


「テオ?!」


「ロザリア殿下が暫く戻れないので、護衛を仰せつかったんだ。貴賓室とはいえ、一人じゃ物騒だからね」


 シキガミの護衛騎士はもう消してしまったし、アルバーノもいない。部屋の外側に巡回する兵士がいるとはいえ、警備が手薄だった。


「テオまで会場の警備に駆り出されているのね」


「こういう時こそ猛獣使い(テイマー)の出番なんだよ」


 テオが指差した先には、何十羽もの鳥たちが競技場を旋回するように飛んでいた。上空から怪しい者がいないか監視しているのだ。

 チョロによく似たネズミたちが、入れ代わり立ち代わりテオのもとへやって来ては何事か報告してゆく。彼らは、会場内でよからぬ企みをしている輩がいないかどうかを探っているようだ。様々な人が集まる剣技大会は、密会、密談に適しているので情報収集にもってこいの機会なのだ。

 

“スゲー! 姫、やっぱりコイツは『やっべえヤツ』だ”


 ユッカが、使役する動物の多さに感心している。

 こんなことが出来るからこそ、猛獣使いはどの国でも引く手数多なのである。その優秀さで、目覚めた暴漢が証言したあと、マノン嬢が犯人である動かぬ証拠をたったの数時間で揃えてみせた。


“そうね”


 アンジェリカは、テオの手腕をほんの少しだけ恨めしく感じた。


「元気ないね。どうかしたの?」


 テオは、浮かない様子のアンジェリカを心配そうに覗き込む。


「バルニエ子爵令嬢が、処刑されると聞いたものだから」

 

 未成年の貴族令嬢に対する刑罰としては重いのではないかと訴えると、その理由を教えられた。


「極秘だけど、あの暴漢たちは帝国の反乱分子だったんだ。世間知らずの令嬢だから、彼らに利用されたんだろうね。ミュリエル嬢の侍女ということでバシュレ公爵家の関与が疑われているけど、公爵が黒幕ならこんなドジは踏まない」


 トエ帝国に併呑された領地の中には、帝室に反発して狼藉を働こうとする者もいる。知らずに雇いましたでは済まされない。ただの嫌がらせのつもりが、令嬢二人の手に負えない事態になってしまったのだ。


「じゃあ、マノン嬢の命を救うには、大会で優勝して減刑を乞うしかないってこと?」


「そうだね。だけど公爵はそれをしないだろう。むしろ、全力で阻止するね。マノン嬢を庇えば、バシュレ公爵家の関与を認めるようなものだ」


「あ、そうか! 」


 マノン嬢は絶望的な状況ということである。救える者がいるとすれば、既に褒美を約束されたアンジェリカのみである。


(うわ~、どうしよう……!)


「自由」か「恩赦」か。

 アンジェリカは、観戦どころではなくなっていた。

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