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【完結】アンジェリカ姫の白い結婚 ~邪魔者王女は自由に生きたい!  作者: ぷよ猫


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38 公爵令嬢ミュリエルの罪 ~改心

本日2回目の投稿です。

 シンナから放たれた青白い光線が、薬瓶を直撃してバチバチと紫色の火花を散らした。


“ま、間に合った……”


“浄化完了! あれはもう、ただの水よ”


 浄化の光が鎮まるのを待って、シンナは言う。

 アンジェリアは、ほぅと安堵のため息を吐いた。乱れた髪を手櫛で調えてから王女らしく淑女の微笑みを浮かべ、ゆっくりとミュリエルに近づいていった。


「なっ、何よ! 私は公爵家の娘よっ」


 ミュリエルは、自分に無体は許さないと警備兵に食って掛かっている。が、身繕いを碌にしないまま屋敷を抜け出した黒いコート姿の彼女は、とても公爵令嬢には見えないのだった。


“ん。やっぱ、自分が何やってるのか、わかってないんだ”


 ユッカは、もはや呆れている。


「ともかく、別室で話を聞かせていただくので、ついて来てください」


 丁寧な言葉遣いではあるが、有無を言わせぬ口調である。逆らえば、強制連行されるだろう。

 ミュリエルもそんな空気に慄いているのか、肩が震えていた。


「な、な、なっ…………」


 挙動不審になっている娘を訝しみ、黒と確信している態度で兵士が薬瓶に手を伸ばそうとしている。

 アンジェリカは、声を張り上げた。

 

「バシュレ公爵令嬢、探しましたわ!」


 警備兵たちの注目が一斉に異国の王女へ集まった。

 アンジェリカとて急いで離宮を出てきたので、お忍び用のワンピース姿である。だが、後ろに護衛騎士と侍女らしき女性を従えていた。それなりに地位のある女性には見えるはずだ。ちなみに侍女役は、気を利かせて咄嗟に化けたシンナである。

 予想外の人物の登場にミュリエルが仰天している。

 

「警備兵の皆さん、お勤めご苦労様です。私はネーブ国王女のアンジェリカですわ。これは……何かございましたの?」


 アンジェリカは自己紹介しながら、王女の証であるネーブ王家の紋章が彫られた指輪を示す。警備兵たちはサッと敬礼した。

 

「ハッ。自分は警備隊のラサルと申します。巡回中に、薬瓶を持ったこちらのご令嬢をお見かけしたのです。離宮で暴漢騒ぎがあり『念には念を入れて警備せよ』との陛下の命にございますれば、安全のため中身を確認せねばなりません」 


 ラサルがハキハキと答える。

 アンジェリカは、その言い分に納得するように大きく頷いた。


「あなた方の懸命な働きにより、剣技大会は滞りなく開催されるでしょう。期待しています」


「ハッ。ありがたきお言葉」


「ですが、私たちはお忍びで楽しもうと、こうして待ち合わせていたのです。面倒事は本意ではありませんの」


「しかし――」


「その薬瓶の中身が無害ならば問題ないのでしょう?」


 アンジェリカは、シキガミの護衛騎士に命じてミュリエルが握っている薬瓶を取って来させると、蓋を開けコクコクと飲み干した。

 呆然となった隙を突かれて薬瓶を渡してしまったミュリエルが、我に返り顔面蒼白になっている。声を出そうと口を動かすも言葉にならない。

 警備兵たちも驚いて「王女殿下っ」と止めようとするが、時既に遅しであった。


「ただの水です。何ともありませんわ」


 アンジェリカは、平然と言ってのける。


「は、はあ」


「繰り返しますが、私たちお忍びですの。今ここであったことは他言無用でお願いします」


「か、畏まりました。お楽しみのところ、失礼しました。では私たちは、これで」


 警備兵たちは、戸惑いつつも敬礼してから巡回に戻っていった。

 残されたミュリエルは、ガタガタと体を震わせ涙目になって狼狽している。


「ど、くが……毒が……早く医者に!」


 あれだけの敵対心を燃やしている相手を助けようと、必死に言葉を紡ぎ出そうとしているのだった。

 根はいい人なのだとアンジェリカは思った。きっと良くない感情が燻り続けているだけなのだ。


「安心して、予め解毒剤を飲んでるから」


 シンナが浄化したとは教えられないので、適当な嘘で誤魔化した。

 ミュリエルが安心したようにヘナヘナとその場に崩れた。


「な、なんで、あなたがここに……」


「考えて行動しろと言ったはずですよ。あそこで連行されて薬瓶の中身が知れたら、公爵家はどうなるんです? バシュレ家に仕える家臣たちは? 帝室に嫁がれたお姉様のお立場は?」


「ううっ…………!」


 ミュリエルは大粒の涙を流し始めた。うわぁ~んと泣きながら、涙の雨粒に消火されるように、たちまち胸の黒い炎がなくなっていった。


(あらっ?)


 思わずシンナの顔を見る。


“ワタシは何もしてないわよ。自分で反省したのよ”


“そういうことも、あるんですね”


“切っ掛けがあれば、誰でもね”


 シンナは、改心は本人次第なのだと優しく笑んだ。

 

「ごめんなさいっ。マノンを助ける方法は、剣技大会で優勝して恩赦を願うしかないと思って、グスッ……毒を持ち出したんです。出場者たちに盛るつもりでした。スープの大鍋に入れて希釈すれば、数日具合が悪くなる程度で済むと考えて……」


 つまり、こう言うわけだ。

 ミュリエルにとって、侍女のマノンは姉妹同然だった。

 離宮の暴漢事件は、アルバーノへの妨害とアンジェリカへの嫌がらせのために、軽い気持ちで起こしてしまった。

 自分のせいで捕まったマノンを助けて欲しいと父親に訴えたが、家門に与える影響が大きすぎて聞き入れてもらえない。追い詰められ、思いついたのが、優勝の褒美での恩赦だ。代理が取り消され個人出場になった騎士でも、マノンの恩赦を乞うことは出来る。ミュリエルは、以前、大会で三位になった騎士に望みを託した。

 挙句の果てが、毒によるこの妨害工作未遂である。


「こうなったのは自業自得では?」


 アンジェリカが冷ややかな視線を送る。


「わかっているんです。本当はアルフォンス様との結婚が無理だってことも。私は、憧れのお姉様みたいな妃になりたかった。怖いもの知らずで、浅はかでした」


 ぐしゅんとミュリエルの鼻が鳴った。いつもの居丈高さは鳴りをひそめ、しおらしい態度である。


「あなたの言いなりになったマノン嬢にも責はあるわ」


 罪は償うべきだと諭す。


「いいえ、マノンは最後まで反対していたんです。でも私がっ……私のせいで処刑されることになるなんて…………」


 ミュリエルは、ぐしゃぐしゃな顔で嗚咽した。

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