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17 父王との語らい ~リベルトの誤算

本日2回目の投稿です。

 第二王子出産の内輪の祝いで、王から侍女たちを労う酒が振る舞われた拍子に起きた事故のような情事だったとリベルトは言う。


「気が緩んで飲み過ぎたらしい。お互い記憶がないんだって。朝起きてびっくり仰天したらしいよ。そんな状態だから、前王妃も怒るに怒れなかったんだろうね。情の厚い方で、母上が亡くなった後は手元に置いてくださった」


 想定外に生まれた第三王子が、想定外の王位につくことになったのは、第一王子が流行病で、第二王子が視察中の事故で命を落としたからである。

 立太子式の日取りが決まり、いよいよリベルトが正式に王籍から抜ける目算がついた後の出来事であった。王子たちに子はなく、リベルトが王太子になった。


「お母様とは結婚していたのに、王太子妃として認められなかったのですか?」


「一代限りの男爵家では難しくてね。妃としての教養はないし、ガイオは異国の人間だから、渋る声が多かったんだ。それにほら、ネーブ国は金髪碧眼が上流階級のステータスみたいなところがあるだろう? エレナは茶髪だったし、パパには力がなかったからゴリ押し出来なかった」


「それを言うなら、王命とはいえドゥッチ家は、よく茶髪の私との婚姻を受け入れましたね」


「ドゥッチ家は、ガイオに恩義があるんだ」


「恩義、ですか?」


 初耳である。一介の布問屋と侯爵家にどんな縁があるというのか。


「布問屋のガイオが男爵になれたのは、彼が諜報員だったからだ。情報収集がめっぽう上手くてね。その功績もあるけど、爵位があれば彼をこの国に縛っておける。数年前……アンジェが嫁ぐ三年ほど前だったかな、彼のお陰でドゥッチ家が救われたことがあったんだ。あの家が親切なのは、簡単に言えば、そういうわけだね」


「ああ……なるほど」


 アンジェリカは、ガイオの諜報活動が()()()()()()()理由に心当たりがあった。シキガミで何をしているのかと思えば! である。


 リベルトは話を戻した。


「エレナの件は、焦らずチャンスを待つつもりだった。だが、運の悪いことに、パパが王太子としての地盤を築く前に、父上が急逝されたんだ」


 心臓発作であった。

 立て続けの不幸に「王家は呪われているのでは」との噂が流れた。

 急遽、リベルトが即位するしかなく、貴族たちを纏め王位を盤石にするためには、有力貴族の中から王妃を娶る必要があった。

 

「そりゃ、国の安定のためには、当然そうなるでしょう。それがなんで白い結婚なんてことに?」


「だってそんな気分になれないよ。パパは『権力は求めるな。その代わり自由に生きろ』と教育されてきたんだ。兄たちとの扱いとは明らかな差があったし、政略として妃を娶れなんて急に言われたって、そう簡単に切り替えられるものか。パパは、国王なんて向いてないんだよ」


 そんな折、エレナが暴漢に狙われる事件が起きた。政略結婚の障害になると判断し、消そうとした輩がいたのだ。


「もう心底、嫌になってね、従兄弟(いとこ)に泣きついたんだ」 


 前王弟の息子、現ベルトイア公爵のことである。

 ベルトイア家は、初代王弟を祖に持つ、第二の王家と呼ばれる家筋である。

 自国の王女を積極的に娶り、時には王子を婿に迎え、静かにその血統を保つ。万が一、王家に正統な継承者がいなくなった場合、次代を差し出し断絶を防ぐためである。それがベルトイア家の暗黙の使命だった。


「ベルトイア公爵に王位を譲るつもりだったんですか?」


 確かに、ぐうの音も出ないほどその血統は正しく、統治者としての才もある。名ばかりの庶子の王子よりもずっと王に相応しい。


「直系の王子を差し置いて王位につくことは出来ないが、十年我慢すれば何とかしてやると言われた」


「それで密約を?」


 リベルトが頷く。


「二つ条件があった。一つは子を作らないこと。もう一つは、アンジェが降嫁していること。妃が何人いようと跡継ぎさえいなければ、ベルトイア家から次代を出すことに誰も反対しないからね」


 いつまでも妃たちに子が授からなければ、いずれ優秀なベルトイア家を求める声が高まってゆくことだろう。

 その頃には、アンジェリカも降嫁が可能な年齢となる。臣籍降嫁すれば、王女の王位継承権は消える。後はリベルトが、ベルトイア家から後継を指名すればよい。

 そういう約束だった。


「ベルトイア公爵とは昔から馬が合ってね、いろいろと協力してくれたんだ。秘密裏に薬の手配や離宮の警備をしてくれた。アンジェたちが奇襲に遭っても、なんとか無事だっただろう?」


 リベルトは子が出来ないようにするための薬を服用し、妃を迎えた後も何かと理由をつけて閨を避けた。そのうち両王妃の不満が爆発して、強制的に「閨事の日」を決められるようになっても、ソファで眠り指一本触れなかったという。


「うわ~、お父様が避妊薬を飲んだんですか?」


「自分で飲んだ方が早いし確実だ。次第に媚薬や睡眠薬を盛られるようになったし、こうなると意地だね。十年間の我慢だ。その後は、エレナと穏やかに暮らしたかった」 


 媚薬は予め解毒薬を服用することで抵抗出来たが、眠気だけはどうにもならなかったらしい。一線を越えたように偽装され、翌年に正妃が、二年目には側妃が懐妊した。

 王妃たちの不貞は明らかだった。しかし「閨事の日」がある以上、自分の子ではないと証明することは難しい。

 反論したくとも、国王自ら避妊薬を飲んでいたなど責務の放棄である。絶対に口に出せない。


「とんだ誤算だったな。生まれた子には罪がないからと優しく接したのも良くなかった」


 妃の子に情けをかけたことで、家族仲が良好だと判断されたのだ。二人の王妃に貴族たちがすり寄り、両家の権勢が増す結果となった。

 王妃たちを刺激しないようにとエレナに離宮を与えて距離を置いたことも、逆に母娘が冷遇される原因になった。

 誤算だらけである。

 最後には、密かに警護していたはずのエレナが命を落としてしまった。一番守りたかった人が。


「妃たちはパパと唯一血の繋がったアンジェと、新たに王子を産むかもしれないエレナを恐れた。だからあんなにも敵意を露わにしたんだ」


 リベルトは、泥沼にはまった経緯をそう語った。

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