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15 別れの挨拶 ~王妃たちの罪

本日3回目の投稿です。

 貴族たちが水を打ったようにシーンとなった。王妃二人のしゃくり上げる声だけが響いている。


「そ、そんなこと言ったら、わたくしの子だって! 陛下に相手にされず、当時、護衛騎士だった男性と関係を持ったのです」


 フランカも暴露する。王妃二人による不義の告白により、場はにわかに騒然となった。

「王位継承権はどうなる?」「正当な王子がいらっしゃらないとは!」「信じられん」などといった声が次々と上がる。

 となるとリベルトと血の繋がった子は、アンジェリカだけだ。いくつもの不躾な視線がアンジェリカを捉えた。


「わたくしは、姉の手引きで……」


 マリアーナが、不貞が家族ぐるみの奸計であると白状すると、リトリコ公爵が「嘘だ。滅多なことを言うなっ」と否定した。

 マリアーナがキッと顔を上げてリトリコ公爵を睨んだ。


「髪と瞳の色さえ陛下と同じならバレないからと、自分の弟に話をつけたのはあなたじゃありませんか!」


 公爵は、マリアーナの姉と結婚して婿に入った義兄にあたる。つまり義弟の子ということである。

 アンジェリカが会場を探すとその義弟は端っこの方でカタカタ震えていた。今は、伯爵家の当主で妻子がいるはずだ。


 いかに権勢を振るおうと、公の場で罪を明らかにされてはもみ消しは不可能である。もはや二家門の失脚は必至。この場で拘束されるだろう。

 後方で控えていた近衛隊長のマウロは、いつの間にかいなくなっていた。


(と、とんでもないことになってきたわ)


 アンジェリカは焦っていた。

 こんな大事になるとは予想していなかった。ただ、あの黒い悪意を消してスッキリして、あわよくば今後狙われることがなくなればいいと思っていただけだ。

 シンナは平然と成り行きを見守っている。


“シンナさん、もしかしてこうなるってわかってました?”


“そりゃ、悪意がなくなるんだもの、良心の呵責に耐えられなくなるわよぉ。罪が大きければ大きいほど、多ければ多いほどね”


 王女殺害未遂に愛妾殺害、不義密通だけでも処刑は免れない大罪である。しかし、互いに張り合うような自白の応酬はとどまることを知らなかった。


「それだけではありませんっ。愛妾エレナ様の予算をこっそり横領しておりました」


 フランカが告白すれば、マリアーナも「わたくしもです!」と言い募る。


(だから貧乏生活だったのね)


 妃になれず妾と呼ばれようとも、王女を儲け王宮の一角に住むことを許された身。それなりの予算はつくのである。

 ドレス一着買えず、侍女もいない。実家の布問屋から融通してもらった布で服を手作りしていたエレナの行動に、アンジェリカは今更ながら納得がいった。

 長期に渡る国費の横領となると、当然、協力者がいるはずである。


“こうなったら、膿は出し切った方がいいのでしょうね”


“ワシもそう思う”


“うん、うん、そうね”


 コルシーニ侯爵とリトリコ公爵のお腹の黒いとぐろが、徐々に口から煙となって吐き出されようとしていた。数々の罪を暴露され、追い詰められて凶行に及ぶ可能性もあった。


“シンナさん、コルシーニ侯爵とリトリコ公爵の黒い塊も消してください”


“はいはーい! 任せて”


 シンナは張り切って二人の傍まで寄ると、頭の上から手をかざした。

 コルシーニ侯爵とリトリコ公爵の全身が白い光に包まれる。強い光は、体がすっぽりと隠れてしまうほどであったが、他者には見えないので動じる者はいない。瞬く間に黒いとぐろは消滅した。

 

「グズッ……陛下、それだけではございません」


 マリアーナが更なる告白を重ねようと口を開いた。

 この上まだ何かあるのかと、場は戦々恐々となっている。中には後ろ暗いことがある者もいるに違いない。いつ自分の身に火の粉が降りかかるかわからないのだ。


「わたくしは……フランカ様のお子様たちを害そうと計画を練っておりました」


「わたくしもですわ、マリアーナ様。既にメイドを買収して、お茶に少しずつ毒を盛るよう指示していました」


 よよよと泣き崩れ「わたくしも」「わたくしもです」とやり合う正妃と側妃を、ぶるぶると肩を震わせて見ていたリトリコ公爵が動いた。壇上の護衛騎士に緊張が走った。

 玉座の前に進み、アンジェリカを背に立つ。次の瞬間、視界を遮る背中がフッと消えたかと思えば、リトリコ公爵はガバッとひれ伏していた。


「陛下、もはや弁解の余地はございません。正妃マリアーナ様の告白は事実であり、すべてリトリコ家が裏で糸を引いておりました」


 するとコルシーニ侯爵もリトリコ公爵の横に並び跪いた。


「我がコルシーニ家も同じにございます。更なる権勢を得んがため、許されざる大罪を犯しました。かくなる上は、どのような処分も覚悟しております」


 突如態度を翻した二人は、すっかり毒気が抜かれて清々しい顔つきになっている。各々の口から、収賄などの罪が暴露され、何人も共犯者の名が挙がった。

 王女輿入れの際の襲撃計画があることも明らかになった。


 これ以上の罪状はもう出ないだろうという段になって、事態を見守っていた国王リベルトが立ち上がった。二人の王妃とコルシーニ侯爵、リトリコ公爵及びその犯罪に関わりのある者を捕らえるよう命令する。

 扉が開き、隊を編成して戻って来たマウロ・ベルトイア近衛隊長の指揮のもと、名前の挙がった貴族たちが次々と拘束されていった。抵抗しても無駄と諦めたのか、大人しく従っている。妃たちも騎士に付き添われて退出していった。

 検挙後の謁見の間は、心なしかガランとしている。

 

「これら一連の捜査は、ベルトイア公爵に一任する」


 王命にベルトイア公爵は「御意」と恭しく一礼した。

 証言をもとに証拠を揃えた上で、沙汰が言い渡されるのだ。これを機に王宮の勢力図が塗り替えられることだろう。

 ドゥッチ前侯爵の姿が見えた。戸惑う貴族たちの中でも、彼は冷静だ。引退したはずの前侯爵が出席していることを不思議に思っている間に、リベルトが解散を告げた。

  

「アンジェリカ様、離宮までお送りします」


 マウロに促されて、アンジェリカは会場を後にする。あんな騒動があって忙しいだろうに、彼は本日の護衛役を全うしようとしてくれているのだ。

 振り向きざまに玉座を見る。そこには、もう父王はいなかった。

 

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