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黒鉄の戦士  作者: 松山みきら
第一章 黒鉄の戦士降臨
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冒険者デビュー、の前に ~実戦編~




 バルガ村から南へ歩いて数分の場所にある森。

 手前側は人々が木材採集のために開拓した跡が見られる。

 森の入り口にある小屋に人の気配はもうない。

 恐らく、村からここに出向いて作業していたのだろう。


「ゴブリンが出るとすれば奥の方になると思う。準備はいい?」


 背中の大剣を片手で軽々と持ち上げる。

 呼びかけにうなずいて、俺も腰から長剣を引き抜いた。

 拳の方が戦い易そうな気がするが、剣にも慣れておきたい。


 まずは道なりに進んでいく。

 途中、大きめの鳥や狼のような動物も見かけた。

 彼らは臆病なのか、俺たちの姿を見ると森の奥へと逃げて行った。

 と、思いきや、逃げた鳥と狼が引き返してきた。

 鳥たちが鳴き声を上げて一斉に飛び立ち、木々を揺らしていく。

 続いて、狼の群れが俺とアルの間を猛スピードで駆け抜けていった。


「な、何だ?」

「レックス、正面!」


 アルに言われて正面を見る。

 そこにいたのは弓矢や棍棒を携えた、薄汚い肌をした小人たち。

 森の動物を狩りにきたやつらとエンカウントしてしまったか。


「キエーッ!」


 そのうちの一匹が弓を引いた。

 アル目がけて飛んできた矢は、大剣によって素早く叩き落された。


「そりゃあああっ!」


 大剣をすぐに持ち直し、弓を持つゴブリンに突進。

 振り下ろされた大剣はゴブリンを縦に両断してしまった。

 命を失ったゴブリンは赤黒い煙を上げ、灰になって崩れ落ちた。


「普通の生き物とは違うわけか。遠慮はいらないな」


 俺も負けていられない。

 身体の動くまま、剣を構えて棍棒を持つゴブリンへ切りかかった。


「ふんっ!」

「ヒギャッ!」


 防御のために構えた棍棒ごと、ゴブリンの身体を叩き切れた。

 どうやらあの力を出さなくてもある程度戦えるらしい。


「わぁ! カッコいい~!」

「アルだって」


 お互いに気を良くした俺たちは、

 次々と襲い掛かる薄汚い小人たちを蹴散らしていった。

 俺が投げ飛ばしたゴブリンを空中でアルが切り捨てたり、

 反対にアルがパスしてきた敵を全力で殴ったり。

 俺自身、初めての共闘なのに見事なコンビネーションだと感心した。

 エンカウントしたゴブリンの集団はあっという間に全滅した。

 多分、一分もかからなかったと思う。


「楽勝だね!」


 背中に大剣を戻して拳を突き出してきた。

 微笑み返して、アルの拳に俺の拳をこつんとぶつける。


「少し自信がついたよ」


 過去の世界では戦う力も術もなく、間違いなく弱者だった。

 そんな俺が勇者のように戦えるなんて。

 例え与えられた力だろうと、それを使いこなしたんだ。

 悪い魔力から生み出された魔物を討伐して、誰かの役にも立てた。

 遠い世界の憎い兄に一矢報いたような気がした。


「討伐依頼のときは倒した証拠が必要になるから、

 倒したゴブリンの灰を持っていこう」

「ああ、分かった」


 アルの持っていた革袋に、倒したゴブリンの灰を集めて入れる。

 魔力から生み出された魔物は命を失うと灰になる。

 灰にも若干の魔力が残されていて、アイテムの素材になるんだとか。


 この後も森の奥に進みながらゴブリンを討伐し続けた。

 ほとんどのやつは木の棍棒と粗末な弓矢程度の武装だったが、

 途中、エンカウントした一部には剣を持つ個体もいた。

 しかも奇妙なことに、その剣は人の手によって作られたものだった。

 この世界のゴブリンは知能が低い。

 武器を鍛造できるような技術はない、とアルが話していた。


「バルガ村が襲われる前に泥棒されたのかなぁ。

 でも、見回りは自警団の人たちもしてたし……」

「襲撃の後は蒼穹隊と騎士団が封鎖してるから入れないよね」

「そうなんだよねぇ。ゴブリンが入る隙は無いと思うんだけど……。

 うぅ~ん。なんか気になるなぁ」


 英雄殿はゴブリンの直剣装備が頭に引っかかっているらしい。

 知能が低いとはいえ、好戦的なゴブリンが強い武装をすれば、

 近隣に住む人々や討伐に来た冒険者も更なる危険に晒される。

 彼女の心配はもっともか。


「どこから持ち出されたのか分からないかな……」


 しゃがんで、灰の中に落ちたシンプルな直剣を拾う。

 俺が買った長剣よりは短めで、握った感覚は悪くない。

 刃こぼれがいくつか見られ、柄の部分にひどい擦り跡が残っていた。

 何かで強引に削って消したような痕跡だ。


<我が力を使え>


 突然聞こえた声に身構えた。

 アルには悟られないように剣を見ているふりをして応じる。


「(……ゼロディオスか。

 あの鎧を着て観察すれば、何か分かるのか?)」

<この世界では全てのものに魔力が宿っている。

 我が甲冑の兜には、宿った魔力から様々な分析を行う能力がある>

「(分かった。やってみよう)」


 剣を持って立ち上がり、腹から両腕、両足に力を入れる。

 そして、身体に流れる魔力を意識して、あの鎧をイメージ。

 俺の身体から、紫色の光が沸き起こってきた。


「えっ!? レ、レックス!?」

「心配しないで。ちょっと調べるだけさ」


 そんな短い会話の間に、俺の身体は黒甲冑に包まれた。

 装着が完了したのを確認して、兜越しに剣の柄を眺めてみる。


「(さて……。この剣の柄には何があった?)」


 思いながらジッと見つめていると、

 擦り跡の上に薄い青色の魔力が集まってきた。

 魔力は失った部分を補修するように形を成し、

 削り取られたそれを導き出してくれた。


「これは……!」


 削り取られていたのは、盾の紋章。

 俺はこれを、どこかで見たことがある。


「ど、どう? ゼロディオスアーマーで見ると何か分かる?」


 黒甲冑の俺には近寄りがたいのか、

 ちょっと身を引きながら、遠慮しがちに尋ねられた。

 笑ってもフルフェイスで見えないから、

 できるだけ明るい声で返事をした。


「ああ、この兜が削られた部分を魔力で可視化してくれた。

 アルには見えないかもしれないけど、

 この柄には、盾の紋章が刻まれていたんだ」

「盾の紋章!? それってもしかして」

「そう。ロンダリア王国の紋章だ」


 ゴブリン討伐に出かける前、王宮の城壁に掲げられていた旗。

 あれと同じものが、この剣には刻まれていた。


「王国の紋章が刻印された武具は一般人も使える?」

「ううん、王国兵や騎士団だけ」

「蒼穹隊の可能性はあるかい?」

「蒼穹隊は別の紋章が使われてるから、違うと思うよ」


 そこまで聞いて、俺はうなずいた。

 ゴブリンは泥棒をするが、隠ぺい工作をするほどの知能はない。

 しかし、こいつらは王国の紋章を消した武器を使っていた。

 どこかで紋章の消された武器を拾ったか、

 あるいは、王国関係者にゴブリンと通じた者がいるか。

 俺の推測を話すと、アルは心配そうに眉を寄せた。


「拾ったならまだしも、武器を流してる人がいたら大変だよ!」

「ああ。似たような武器や防具がないか探してみよう」


 柄が削られた直剣は証拠品として預かっておこう。

 俺たちは更に奥へと進んでいった。




 ゴブリンたちを殲滅しながら森の奥を進む。

 向こう側から襲い掛かってくることもあれば、

 俺が木の上から見つけて奇襲をかけてみたりもした。

 この森に棲むゴブリンは小柄な体格の連中が多いが、

 稀に体格のいい個体も何匹か混じっていた。

 そして、そういう個体に限って人が作った装備を持っている。

 紋章が削られた、大振りのナイフとかね。


「このナイフはどこで手に入れた?」


 身体の大きなゴブリンの首根っこを掴んだ。

 持ち上げて大木に一度だけ打ちつけて脅してみる。


「ギャアッ! ギャアアア!」


 ゴブリンはジタバタと暴れるだけだった。

 脅しても意味はなさそうだ。

 顔面を殴って気絶させ、空中に放り投げたらアルが切り捨ててくれた。


「黒甲冑のレックスも、イイかもしれない……」

「何か言った?」

「な、何でもないっ」


 照れたように大剣を慌ててしまう。

 ふと、彼女の足元に焚き火の跡があることに気がついた。


「そこ、誰かが火を焚いたみたいだ」

「えっ? あ、ホントだ」


 アルが一歩後ろに下がり、しゃがんで確認する。

 彼女の横顔が険しくなるのが見えた。


「……これは人が火を起こした跡だよ」

「この森で生活する種族は?」

「いないよ。こんな森の奥で野宿する冒険者もいないはず」

「今度は人がいた痕跡か……」


 ただのゴブリン討伐依頼だったはずが、どうもきな臭くなってきた。

 俺の頭をちらついたのは、バルガ村襲撃のことだった。

 万が一、村を襲撃した連中が蒼穹隊の追撃から逃れ、

 この森に潜んでいるのなら調査をしなくては。

 俺やマリーの故郷を破滅させた悪党を野放しにはできない。


「まだ近くにいるかもしれない。探してみる――」


 周辺を見回しながら考えていると、右手が後ろから握られた。


「レックス」


 なだめるような呼び声。

 見抜かれたと思って、身体が固まった。


「……えっと」

「頭に血が上ってるよ」


 手を握ったまま俺の正面に立つ。

 この世界で目覚めてから何日も一緒にいる、美人な仲間。

 頼りになる英雄の微笑みがそこにあった。


「今日は何をしにここに来たんだっけ?」

「冒険者ギルドの本登録試験で、ゴブリン討伐に」

「討伐の数はもう十分足りてるよね。

 それじゃ、見つけた不審物はどうしよっか?」

「……大臣に報告しよう。ゼロディオスの力があるとはいえ、

 勇み足になれば事態を悪化させるかもしれない」

「よくできました」


 アルシャロッテの笑顔と優しい言葉を聞いたら、

 自然と黒甲冑の力を解いてしまった。


「ありがとう。うぬぼれるところだったよ」

「どういたしまして!

 冒険者の先輩だから、このくらいはね」


 じゃ、帰ろっか。


 しっかり手綱を握られた俺は、討伐を切り上げて王都に戻ることにした。


 王国の紋章が消された武器、焚き火の痕跡。

 疑問は残るが、あくまでも今回はゴブリン討伐が本命だ。

 力を過信して深追いをすれば、アルにまで危険が及ぶかもしれない。

 彼女の冷静さ、判断力は冒険者の先輩として、

 英雄として尊敬できるものだった。


<いい選択だ>


 頭の中に聴こえた声に、目を閉じてうなずいた。


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