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黒鉄の戦士  作者: 松山みきら
第一章 黒鉄の戦士降臨
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冒険者デビュー、の前に ~準備編~




 王宮へ向かう前に、アルに案内されて王都の武器、防具屋を訪れた。

 戦うときは例の力を使うことになるだろうが、

 念のため、軽い鎧と剣を一振り、マントを一つ買った。

 どれも自然と黒い色を選んでしまっていた。


「どう? 動きにくくない?」

「大丈夫そうだよ。剣の扱いは不安だけどね」


 肩を回したり、拳を握ったり開いたり。

 アルが一緒に見てくれた鎧とマントは着心地もよかった。


「ゼロディオスはすごい剣の使い手だったけど、

 そこまで引き継がれてないのかな?」


 ゼロディオスが俺に遺したと思われる力。

 生前のゼロディオスが使っていたような鎧を纏い、

 凄まじい身体能力を発揮するもの。

 盗賊を取り押さえたときは剣のことなど考えてもいなかったが、

 今回のゴブリン討伐で試してみるのもいいかもしれない。


「ふふ。冒険者衣装のレックスって、かっこいいね」

「な、なんだよいきなり」

「わぁ、照れてくれたの? 嬉しいなぁ」


 そんなことを話しながら王都を歩くこと数分。

 王都の東、ロンダリア王宮前に到着した。

 巨大な城門と左右に伸びる城壁と巡回する王国の兵士たち。

 城壁には大きな青と白を基調にした盾の旗が掲げられていた。

 王国の国旗だろうか。


「こういう場所って、悪さをしたわけじゃないのに緊張するよね」

「うん、分かるかも」


 城門の前には円形の広場があり、

 美しい花々が植えられ、澄んだ水が流れ込んでいた。

 ベンチも設けられていて、冒険者や住民たちが利用していた。


「王宮に用がある場合は城門の兵士さんに伝えるの。

 ギルドストーンと依頼票を忘れずにね。

 私はベンチで待ってるから」

「うん、ありがとう」


 少し離れた場所でアルに見守っていてもらい、

 城門を守るフルアーマーな兵士に近づく。

 右手に槍を持ち、腰には長剣。兜から鋭い眼差しが覗いていた。

 紫色の瞳が、ジロリ。


「王宮に用か、冒険者よ」


 堅苦しい話し方だが、不思議と信頼できる雰囲気があった。


「レクソール・フォルナイトと申します。

 冒険者ギルドで大臣署名の依頼を受けたので伺いました」


 ギルドストーンと依頼票を差し出す。

 うむ、と返事がして、分厚いガントレットが受け取ってくれた。

 渡したものを確認したら、城門を一度叩く。

 それを合図に城門に設けられた細長いスリットが開いた。


「ガフ大臣へ。ゴブリン討伐依頼の件だ」


 向こう側の兵士にギルドストーンと依頼票が渡った。

 さすがに王宮ともなれば警備は厳重だ。


「大臣から指示がくるまでしばし待て」

「分かりました」

「英雄殿もご一緒であるゆえ、疑ってはおらぬ。

 手続きとして必要な行為だ。許されよ」


 英雄の友人というだけで気を遣われてしまった。

 アルは本当にすごい冒険者なんだな。


「お気遣いありがとうございます。広場で待っています」

「うむ。指示を受けたらすぐに報せよう」


 離れて待つアルのもとへ戻る。

 彼女は広場のベンチに座って、笑顔でこちらを見ていた。


「取り次いでもらえた?」

「うん。英雄殿が一緒だから気を遣ってもらったよ」


 俺も隣に座って、広場の中央にある花と池を見た。

 王都だけあって街並みも広場もまぶしいくらいに綺麗だ。


「いい景色だ。俺がこの世界の住人だなんて、嘘みたいだ」


 素直な感想が優しい声色と共に漏れ出た。

 誰だってつらい過去や苦しみを経験して生きている。

 分かっていても、悪夢と呼ばれた世界では悲観ばかりしていた。

 それが、この世界に来てから悲観が一気に覆された。


 俺の身を案じてくれる家族がいた。

 命がけで戦ってくれる仲間がいた。


 そして、俺に未来を託して死んでいった戦士がいた。


 強くなりたい。

 家族のために、仲間のために。

 俺に託してくれた、あいつのためにも。


「嘘じゃないよ。

 あなたはレクソール・フォルナイト。

 ロンダリア王国バルガ村生まれで、マリエルのお兄さん。

 そして、私の大切な――大切なレックス」


 英雄が肩を寄せて小さく笑う。

 彼女の甘い香りと可愛らしい笑い声に、心がすっと軽くなった。


「……ありがとう」


 心地よい沈黙が俺たちの間に流れていく。

 出会ったばかりの彼女がとても近い存在にいた。

 レックスとしての記憶を失っていても、身体がアルを信用している。

 以前のレックスが彼女とどんな関係にあったかは分からないが、

 きっと、とても近い距離にいたんだと感じていた。


「おや、これは。若人のひと時に老人が水を差してしまいますな」


 穏やかなジョークが飛んできて、顔を上げた。

 俺が顔を確認するより前に、アルが俺の腕を取って立ち上がらせる。


「大臣! お、おはようございますっ。

 ほら、レックスもご挨拶して!」


 丸い眼鏡をかけた、白髪オールバックの高貴なご老人。

 背筋を伸ばして優しい笑顔を浮かべていた。

 アルに続いて頭を下げる。


「レクソール・フォルナイトです。

 蒼穹隊で妹のマリエルがお世話になっています」

「王国大臣ガフ・ウェールズと申します。

 ご事情は伺っておりますよ、レクソール殿。

 バルガ村の民が一人でも生きていたこと、爺は嬉しく思いますぞ」


 大臣と聞くとふんぞり返った政治家をイメージしていたが、

 とても優しそうな人で安心した。

 兵士に渡したギルドストーンと依頼票が返された。

 アルとの幸せな時間から意識を戻して、早速依頼の話を聞く。


「早速ですが、今回の依頼について詳しくお聞かせいただけますか」

「ええ、お話します。

 まさかレクソール殿がお受け下さるとは、因果というものでしょうか」


 大臣からの説明はギルドで受けたものと似たような内容だった。

 ゴブリンは定期的に棲みついてしまう魔物で、

 盗賊やゴロツキのような連中が発する悪しき魔力によって自然発生する。

 知能も力も低く、そこまで脅威ではないが、

 人里の食料や家畜を盗む、食べるなどの被害をもたらすという。


「今回はバルガ村の南にある森が目的地でございます。

 遺体の捜索や瓦礫の搬出は蒼穹隊や騎士団によって完了していますが、

 住民がいなくなったと知って、ゴブリンが進出するおそれがあります。

 合同葬の開催にも向けて、再度村を荒らされるわけにはいかないのです」

「合同葬……。村を弔ってくださるんですか」

「はい。殿下のご提案で、姫様もご出席を強く望まれています」


 バルガ村出身の俺にはこれ以上ない最高の初依頼だ。

 以前、腹の奥に感じた熱いものを再び感じる。

 アルも不敵に笑って俺の顔を見上げた。


「燃えちゃうね」

「ああ。これ以上村を荒らさせはしない」


 俺の故郷、亡くなった村人たち、

 そして弔ってくれる王族たちのためにもやり遂げよう。

 大臣が一層明るい笑顔を浮かべてうなずいた。


「心強いお二人です。

 ゴブリンだと油断せず、怪我には十分お気をつけください」

「ありがとうございます。すぐに出立します」

「殿下と姫様によろしくね、大臣」

「ええ。どうぞご武運を」


 大臣に見送られ、俺たちはバルガ村南の森を目指した。


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